第三十一話 圧倒的な力の差
俺は今回雪菜に何一つダメージを与えることができなかった。
前のように動きは分かっていた。だが雪菜の動きが予測を上回り対応することができなかった。
これが今ある俺と雪菜の実力差、今回は雪菜を本気にさせることができなかった。最初から第一位階を使っていたから手加減はしていないと思うが、本気かどうかと言われれば違う。
雪菜は充分に本気を出す前に俺に勝てた。
自分が特訓しているつもりでも、これが能力者と無能力者の差なのか。そんな風に思わされる。ただ特訓すればなんとかなるなんてレベルじゃない。
追いつきたくても追いつけない、圧倒的な壁、そんな壁を乗り越えなければならないのだからちょっとの努力なんがじゃ足りない。今まで何もして来なかった分の努力をしなければならないのだから。
「さて、訓練場の使用終了時間も近いし帰ろうか」
「そうだね、私着替えてくるよ、終わったらロビーで待ち合わせでいいかな?」
「わかった、終わったらロビーで」
雪菜は荷物を持って更衣室に向かった。その後ろ姿を俺は見送った。
「さっきの試合、集くん私について来れてたな……。 こんな短期間であそこまで対応できるなんてそんなことありえるの?」
私は集の対応力の高さに驚かされていた。なんの能力も使えない無能力者が、能力とあそこまで戦えるなんて、そんなことが可能なのか。能力者は一般の人と比べ身体能力が大幅に上昇する、成人男性で持ち上げられないものでも、能力者なら女の子でと簡単に持ち上げることが出来たりする。それほどの差が能力者と無能力者にはある。
「集くんは本当に無能力者なの?」
俺は雪菜との練習で汗だくになっているのに対し、雪菜は汗一つかいていなかった。
俺はタオルで顔を拭き男子更衣室に向かった。更衣室にはシャワールームもあり、そこで汗を洗い流す。練習後にこうして汗を流せるなんて流石はエデンの学園だ。本島の学園にはこんなシャワールームなんてなかったしな。
俺は着替え訓練場のロビーの椅子に座る。訓練場の使用時間は終わっているためもう使用はできない。
ロビーにあるモニターには訓練場の使用状況が表示されており、俺たちが使っていた4番の部屋は使用中と表示されていた。次の利用者が利用しているのだろう。
ロビーで雪菜を待っていると、ドンと大きな音が聞こえる。何かがぶつかり合う音が聞こえ、その度に体に振動が伝わる。
訓練場ということもあり、防音や防振、防御機能が充実しているため、いくら強い能力が壁に当たっても壊れることはない、だがこの振動はそのそれを超えロビーにまで伝わってきていた。
俺は音の正体が気になり、音の発信源の部屋を見に行くことにした。部屋の使用者の名前は入り口のディスプレイに表示されているため、誰が使っているかはディスプレイを見ればわかる。
「夏希・夏野ってあいつらじゃねーか!」
音の正体が日向と風音だと知る。扉に手をかけ中に入れるか確認した、スライド式の扉に力を入れると、扉は難なく開いた。普通なら練習の姿を見られることを嫌い、扉は鍵をかけておくのが一般的だ、だが日向達の部屋は鍵がかけられていなかった。
入って中の様子でも確認するか、俺はそんな程度の考えで扉を開け部屋の中に入った。
扉を開けた瞬間に来るのは激しい衝撃、俺は右腕で顔を隠すように衝撃から身を守る。この衝撃は俺に向けて放たれたものではなく、別の何かに向けられたものだ。
俺はその衝撃の中心にいる二人を見た。二人は互いに拳と脚で相手を攻撃している。その二つがぶつかり合うたびに激しい衝撃が生まれる。
(なんなんだよあれ)
俺は日向と風音の力を目の当たりにした。二人がぶつかり合うたびに生まれる衝撃、体の骨まで震えるほどの振動。この二人の戦いはさっきまで俺たちが戦っていたレベルをはるかに超えていた。
日向と風音はまだ俺に気づいていない。お互いが相手に集中している。こんな中俺が声を変えるのは場違いすぎると思った。俺はそんな二人の戦いをただ見ていることしかできない。
学内序列四位と五位は伊達ではなかった。俺が一度だけ日向に勝てたのも、日向は少しも本気を出していなかったのだろう。この戦いを見ればすぐにわかった。
(何少しでも戦えると思ってんだよ)
俺は自分の無力を再度認識させられた。擬似アーツでなんとか戦えるつもりでいた、なんとかなるような気がしていた。だがこんな光景を見せられればそんな淡い期待もすぐに消えさった。
(雪菜を優勝に導く? ふざけんな、こんなもん見せられて何が出来んだよ!)
俺は訓練場の扉を怒りに任せて叩いてしまった。扉は大きな音を上げ部屋中に響く、この音で日向と風音は俺に気づいてしまった。日向と風音驚いた表情をしながら俺の方に近づいてきた。




