第二十七話 高い壁
俺は風音の側まで行き声をかける。
「まだ帰ってなかったのか? てかなんでこんなことになってんだよ」
「貴様いつのまに。まあいい単純な序列争いだ、だがもう終わったも同然だがな」
「どういう意味だ? 相手は序列五十位何だろ? ならそこそこ強いんじゃないのか?」
俺は単純な疑問を風音にぶつけた。
「貴様はお嬢様との練習をしてきて相手との差がわからないのか? 何よりお嬢様があんなにも落ち着いている」
「落ち着いてたらなんだっていうんだよ」
普段の日向からは見られない落ち着きぶり、俺との練習ではいつも楽しんでいるため、日向のあんな姿見たことがなかった。
「本気ということだ」
デバイスから流れるテンカウントがゼロになり、ピーっという音が流れる。
ギャラリー達はいつのまにか日向達との距離を大きく開けていた。決闘に巻き込まれないように距離をとったのだろう。
その瞬間に男は「第一位階アクセス!」と言い放つ。開始と同時に能力を本来の力に戻した。
これは俺も経験したが、第一位階にアクセスすることで自分の能力は飛躍的に上昇する。今までは抑えられていた力を戻しているだけらしいが経験のない俺には、ただ強くなっただけにしか思えなかった。
第一位階以上を使える生徒が、Cランク以上の生徒に集中する理由は単純な素質や才能の差らしい。その中でも雪菜のDランクで第一位階にアクセス出来ることはかなり珍しいみたいだ。
流石にBランクともなれば、開幕から第一位階で戦うのらしい。
だが男が第一位階にアクセスするよりも早く日向は動いていた。
「は?」
男の短い一言。
日向はいつのまにか男の懐にいた。俺と戦った時と同じように一瞬にして差を詰め、胸元には左手が添えられている。
「一つ言わせて貰っていい? しつこい男は嫌われるよ」
日向は男に向けニヤリと笑う。そして俺の時に放った拳をすぐ引く、数を打つ時に使う拳とは違い相手の体を貫かんとする勢いで放つ重心を乗せた右ストレートを相手の腹に放った。
ドン、と体は深く鈍い音を上げ、男は地面に叩きつけられながら、遥か後方に吹き飛ばされる。
「勝者 夏希 日向」
デバイスの音声が日向の勝利を告げる。放った攻撃はたった一撃。戦いが開始されてからわずか3秒。たったそれだけの時間で決闘は終わりを迎えた。
周りで見ていたギャラリー達は口を開けたまま唖然としている。一瞬の出来事すぎて何が何だかわからないいといった状態だった。
序列五十位と十五位の差がここまであるのかと感じさせられた。単純な能力の強弱ではなく、身体能力で日向は相手の男を大きく上回っていた。
相手の男も五十位ともなれば相当な手練れだったに違いないが、日向はそれ以上に強かった。たった三十五位という序列の差がここまで大きいとは思っても見なかった。
日向は戦いが終わるなり、すぐに風音のところに戻る。風音と並んでいる俺を見つけ、すぐにいつもの日向に戻った。
「なんだよ、集に見られてたのかよ」
俺のところに着くなりいつものテンションで小突いてくる日向。さっきの落ち着いた日向の姿はもうそこにはない。
「さっきのクールな日向さんはどこにいったのやら」
俺は遠くの方を見ながらいう。
「マジ恥ずかしいからやめろって! 集に見られるとか最悪だ〜〜」
日向は恥ずかしそうにしていた。いつもの日向が戻ってきたことを感じ少し安心できた。
「お嬢様、お話中申し訳ないのですが、そろそろお急ぎにならないと、間に合わなくなってしまいます」
この後何か予定があったようで日向と風音は急ぎ始める。
「そうだ! 悪い集、また明日な!」
日向と風音は急ぎ足で帰っていく。俺はその後ろ姿をただ見届けた。
さっきまでいた多くのギャラリーは消え、さっきの決闘が無かったかのような空気が流れる。
日向の対戦相手の男は今も伸びている。付き添いの男が起こそうとするが起きる気配はない。
(あの時の日向の表情、初めて見たな)
俺が初めて見る日向の表情、いつもふざけあっている日向からは感じられない冷たさを感じた。俺との練習の時はいつも笑いながら戦いをしている。
(俺との練習は本当に練習ってことかよ)
俺は拳を握りしめる。自分がまるで日向の相手になっていなかったことの苛立ちと、日向が俺のために自分の時間を使って、俺の発現するかもわからない能力のために付き合ってくれていたことに。
(アイツに届くくらいに強くならなきゃな)
TOEを目指すならいつか日向と戦う日が来る。ただの無能力者では叶わないかもしれないが、いつか能力が使えるようになった時、俺が日向と対等に戦えるように、今できることを全てしておこうと思った。




