第二十六話 炎拳
学園は下校時刻になり部活終わりの生徒たちがゾロゾロと校門を出ていく。俺もその波に乗りいつもの帰り道を歩く。
(さっきは何であんなこと言ったんだろう)
身に覚えのない感情、突然出た言葉、驚いていた雪菜の顔、どれも初めての出来事なのにそれを感じさせない何かがあった。
ただの感覚だけ、ただそれだけ。過去にそんな経験があったかと言われれば絶対にそんな経験はない。そんな劇的な経験をしていれば確実に覚えているはずだ。
人の波に流されながら俺はさっきの出来事を考え続けていた。
雪菜のことに関してだけは何か懐かしい感覚になることが多い。だが雪菜と会ったのはこの学園に入って二年生になってからだ。しかも直接話したのも街でたまたまぶつかった時が初めてだ。
(何でこんな気持ちになるんだよ)
雪菜のことが好きになったからとか、気になっているからとかならまだわかる。だがこの何とも言えない感情は、そんな甘さなんて感じさせてはくれない。
自分ではわからないなんとも言えない感情が体の中をグルグル回っている。
(さっさと家に帰るか)
俺はこのモヤモヤを何とかしたかったがどうすることもできないでいた。
すると校門を出た直ぐのところで雪菜が決闘していた時よりも、はるかに多くの生徒が集まっていた。
俺は輪の中心を覗くとそこには日向と風音が立っていた。
(何やってんだあいつら)
俺は人ごみを掻き分け輪の中心にたどり着く。だがそこは日向と風音二人だけではなく、他にも二人の学生がいた。
「お前ら何してんだよ」
俺は日向と風音に話しかける。
「集じゃんか! まあ何というか決闘申し込まれてさ」
風音は特に俺に返事は返さず、ずっと目を瞑っている。
日向は迷惑そうな顔をしていた、相手の姿を見るとうちの生徒ではない。男子生徒だ。制服には胸元に学園のエンブレムが付いており、そのエンブレムでどの学園の生徒かわかる様になっている。
エンブレムにはⅢの文字が入っているため、あの学生は第三学区の第三学園の生徒なのだろう。
「今は時間無いって言ってるのにこいつら聞かなくて」
日向はかなり迷惑そうにしていた。可能なら決闘を避けたそうにしていた。
「あの序列十五位の炎拳が逃げるのか?」
相手は日向をかなり煽っている。
(エンケン?)
聞き慣れない言葉を聞き頭がこんがらがる。考えてもわからないため近くにいたギャラリーに聞いた。
「悪い一つ聞いていいか? エンケンってなんなんだ? なんかの隠語?」
「知らねーのかよ! 二つ名だよ、二つ名!炎拳っつったらもう夏希日向しかいないだろ! ガーディアンに届くかもしれない能力者だぜ」
ガーディアンは各学区の序列第七位までを中心とした組織だ。TOEとは別に自身が卒業するまでに序列第七位までに入っていれば、エデン側から可能な限り何でも一つ願いを叶えてもらえるらしい。
(あいつそんな呼ばれ方してたのかよ)
俺が知らない間に日向は二つ名までつけられていたみたいだ。どこに炎拳の要素があるのかはわからないが。多分暑苦しいからとかそんな理由だろう。
そんなバカな考えをしていたが日向の方を見るとそんな状況ではなかった。
迷惑そうにしている日向は煽られても動じてはいなかった。いつもの日向なら煽られれば直ぐにムキになるが今回は違うみたいだ。
「今回はマジで時間がないんだ、悪いけど今度にしてくれ」
日向が立ち去ろうとした瞬間相手の男は日向の肩を押す。
「十五位だからっていい気になってんじゃねーぞ」
再度男が日向の肩を押そうとした時、風音はさっきまで瞑っていた目を開け、日向に触れる直前で男の腕を掴み、日向に触れさせない様にしていた。
「貴様、次お嬢様に触れてみろ、ただでは済まんぞ」
風音が怒りの形相をしている。そりゃそうだ、あんな相手俺だってキレそうになる。
「風音放すんだ」
日向は落ち着いた声で風音を止める。
「わかった、相手してやるよ。そのかわり負ければ即消えてくれ」
日向はデバイスを操作する。もう既に相手から決闘の申請は来ていたのだろう。ただ画面を3回ほど押しただけで決闘の開始の合図がデバイスから鳴り始める。
「只今より、Bランク序列五十位対Bランク序列十五位の決闘を開始します、テンカウント後試合を始めてください」
俺が決闘した時と同じようにテンカウントが始まる。
学区を一つの基準とした序列は、学区内全ての学園の生徒の序列を示している。
その中でも日向は序列十五位、第三学区で内で生活している学生達の中で十五番目に強いということだ。
日向と相手の男の序列差は小さいように見えるが、序列五十位代からは一位違うだけでも大きな差が出てくる。
男は鉤爪形のアーツを出現させる。
日向も自身のアーツを出現させるが、構えることもなくその場に立っている。腕の力を抜き完全に脱力している。
「何だ? 舐めてんのかお前、やる気見せてみろよ!」
男は大きな声で日向を威嚇する。
男と日向は風音から離れお互い決闘の準備を始めた。




