第二十五話 もう一歩先へ
そんな沈黙を追い討ちするように日向からデバイスにコネクトが届いた。だがそのコネクトはタイミングが悪く、あまり見られない方がいい内容だった。
デバイスにメッセージが入る。
「ナイスフォローだろ! さすが私、うまくやれよ!」
日向からそんなコネクトが届く。雪菜はデバイスの画面を見ていたため、内容をそのまま見られてしまった。
「違うんだ! 日向の奴がおちょくってるだけで他意はないんだ!」
俺は必死に言い訳するが雪菜はうつむいたままになってしまう。
そしてまたコネクトにメッセージがくる。このタイミングでまた追い討ちされてしまうともう立ち直れなくなってしまう。
だがコネクトできたメッセージはこの沈黙を破ってくれる内容だった。
「まあ冗談はさておき、ちゃんと参加申請したか? 集が戦うところたのしみにしてるから絶対申請忘れるなよ!」
日向からのコネクトはいつもの日向から思いもよらない内容だったが、今のタイミングではかなりありがたかった。
雪菜もちょうどデバイスのメッセージを見ていたため、なんとかピンチを回避できそうだ。
「なんだ日向の冗談か、ビックリしちゃったよ」
「そうそう、日向ほんとこういう冗談好きだからさ」
俺たちはお互い顔を赤くしたままでいた。
沈黙が始まる前に俺は模擬戦への参加申し込みの話を進めた。
「このアイコンを押せばいいんだよね?」
なんとも強引な進め方だが今はこうするほかない。
「ここを押して、次の画面で私の名前を入力すると……」
デバイスの画面に雪菜が「柊 雪菜」と入力する。決定ボタンを押したしと同時に、雪菜のデバイスからピコーンと音がなる。
そして雪菜のデバイスの画面に「パートナーが模擬戦参加申し込みをしています許可しますか?」の文字が浮かび上がる。
雪菜は「はい」のボタンを押すと画面には「参加申し込み完了しました」の文字が浮かび上がる。
「これで参加申し込み出来たね! まずは模擬戦全部勝てるように頑張ろう!」
「そうだな! 俺も何とか勝てるようにもっと特訓なり何なりするよ」
無能力者の俺では雪菜の足手まといになるのは間違いないだろう、だがそんな俺でも雪菜の盾になるなりなんなりできるはずだ。
「日向にはよく付き合ってもらってるけど、雪菜さんにもこれから特訓に付き合って貰うえると嬉しいな」
「一ついいかな?」
雪菜が少しむくれた顔をした。
「何で日向は日向で私は雪菜さんなの?」
雪菜は拗ねたような口調をした。
「それは……その……まだ俺たち出会ったばかりだし、呼び捨てってのはハードル高いと言いますか、なんと言いますか……」
流石に恥ずかしくなる。女の子を呼び捨てで呼ぶのには女の子慣れしていない人にとっては抵抗があるだろう。日向や風音は一年からの付き合いがあるし、日向の人柄呼び捨てで呼びやすいというのもある。
「私たちパートナーになったんだし、年も同じなんだから呼び捨てで呼び合わない? 日向は集くんのこと呼び捨てなのに私が君付けだと距離がある感じがしてなんだかなって……」
TOEを目指すのにお互いの壁があることはあまり良くないことだ、それも踏まえて雪菜は俺との距離を縮めようとしてくれているのだろう。
(ダメだな〜俺は)
自分のことしか考えていない俺は恥ずかしいなんて理由で雪菜と壁を作っていたのかもしれない。日向とのやりとりははたから見ればかなり距離の近い関係に見えるのだろう。それを見た雪菜は自分と俺とに距離があることを感じたのだろう。
「俺も恥ずかしさだけで雪菜のことさん付けしてたけど、やっぱこれから一緒に戦っていく中で少しでも壁はない方がいいんだよな」
まだ恥ずかしさは抜けないが、精一杯の頑張りで俺はさりげなく雪菜を呼び捨てで呼ぶ。
すると雪菜の顔はみるみる赤くなり照れるが、その後俺に笑顔を向けた。
「よかった〜、嫌って言われたらどうしようかと思ったよ」
雪菜はホッと安堵の一息をしまた笑顔を向けてくる。
(やっぱダメだな俺、この子の笑顔には逆らえそうにない)
尻に敷かれるとはこういうことなのか分からないが、これから俺は雪菜のお願いならなんでも聞いてしまいそうになる。
「嫌なわけないよ! だって俺は君を助け出すって決め……」
自分で何を言いかけたのかその先の言葉が出ない。今の言葉は俺が自分で言いたくて出た言葉ではなく、自然と出た言葉だった。
「イヤっ何でもない今の忘れて」
俺は焦ってしまう。自分が今何を言いかけたのか分からなかったからだ。『助ける』何て何に対して言ったのか全く分からなかったからだ。今の話の流れのどこに『助ける』なんて言葉があったのか。
「もうこんな時間! 私帰るね」
雪菜は保健室の時計を見て直ぐに立ち上がり、教室を出て行った。
一瞬だけ見えた雪菜の表情は驚いた時の顔をしていた。
「何してるんだろ私……」
保健室から出てすぐの壁を背に私はさっきの言葉を思い出していた。
「助け出すなんてなんでそんな……」
私の中の何かを見抜かれた気がした。だけど最期の集くんの言葉、間違えて言ってしまった言葉なのだろうか、私の心の中にその言葉だけが深く突き刺さった。




