第二十三話 能力者の可能性
「大丈夫ですか集様」
「大丈夫じゃ……ない……」
激しい体の痛みに立ち上がることが出来ずにいた。さっきまで手元にあった擬似アーツは、いつのまにか砕け散っていた。
「さっきのなんなんだよ」
訓練場の地面に倒れたまま風音に聞いた。
「あれはあなたに教えるわけにはいきません」
「なんだよ教えるわけにはって」
「これはあなたがTOE優勝を目指すなら自分自身の目で確かめなければならないことです」
自分自身で確かめなければならないこと、それはいつか風音と戦う時にそれと向き合わなければならないということだ。
「なら何で俺にそれを見せた?」
風音がほんの少しでも見せたもう一つの力、本来なら見せなくても良かったことなのだろうが、風音は俺にその姿を見せた。
「あなたにほんの少しでもわかっていただきたかったからです」
「何を?」
「あなたがこれから超えなくてはならない大きな壁を」
確かに俺が超えなければならない壁は多く存在する。その中の一つを風音は俺に見せた。
「そりゃそうだよな、俺はただ雪菜さんに迷惑がかからないくらいの強さを手に入れられればよかった、だけど雪菜さんの目標はTOE優勝で、叶えたい願いがある」
「あなたにはないのですか?」
「あるっちゃある、だけどこれが叶えたい願いと言われれば違う気がするけど」
「どういう意味なのですか?」
「俺の願いは……雪菜さんの願いを叶えることなんだよ…………」
俺の願い、それは雪菜の願いを叶えること、その願いは俺が雪菜との戦いに勝ち、俺と雪菜がパートナーになった時から始まった。
「その願いは雪菜様が優勝すれば叶う話ではないのですか?」
「だから俺は雪菜を優勝させるために強くならないといけないんだ」
俺は体を起こし立ち上がる。こんなとこでくじけるわけにはいかない。いくら風音が強くても、とてつもない努力が必要でも、俺は俺の願いを叶えることを舐めない。
「まだ続ける気ですか?」
風音は呆れた顔で俺を見ている。
「ああ、こんなもんじゃ他の奴にも勝てないからな!」
俺はポケットに入っているもう一つの擬似アーツに意思を送る。
剣の擬似アーツを構え、風音に向かう。
「能力者でないあなたが、ここで立上れるとは思いませんでした」
「もう逃げないって決めたからな!」
俺は何度も風音に向け走り出す、走り出しては風音の蹴りを受け吹き飛ばされる。
体は痛み体力は削られる、それでも諦めることを諦めない。
自分の意識が吹き飛ぶまで何度も立ち向かう。
だがそれも限界を迎えた。
「諦めなければ全て上手くいくとは限りません、ですが諦めなければいつか叶うかもしれませんよ」
俺は風音の声を最後に意識を失った。
「しゅ……! し……う!」
誰かの声が聞こえる。
俺の意識は徐々に覚醒してきた。
「集! 集! 起きたか集!」
俺はいつの間にか学園にある保健室のベットで横たわっており、俺の横には日向が椅子に座っていた。そして日向の隣には風音が俺を見下ろしていた。
「起きましたか集様、申し訳ありません、少し本気を出しすぎました」
風音は俺に向け頭を下げる。
「そうだぞ風音、少しやりすぎぞ」
日向が風音を叱る。叱るといってもそんなに怒っているというわけではない。
「いいって、俺が風音にお願いしたことなんだがら」
あの後俺は体力の限界を迎え倒れてしまったらしい。アーツやトランスでのダメージは疲労にもなるため、ダメージを受け続けた俺は、その限界を迎え意識を失ったみたいだ。
「悪いな、意識失うまで付き合わせて、あとことまで運んでもらって悪いな」
俺は風音に頭を下げる。ここまで運んでもらった事も感謝しなければならない。
「日向はいつからいたんだ? 」
「あたしはついさっき来たばっか、風音が『やりすぎてしまいました』とか連絡きたから、何があったのかと思ったぞ」
「何にもなかったけどな、ただ俺がボコられただけだ」
俺は日向にいつもの雰囲気で笑いかける。
「そか、なら大丈夫か! まあ今日はもう何も出来そうにないしそろそろ帰らせてもらうよ」
「もう充分休めたと思いますので、私も帰らせていただきます」
日向と風音は俺がいたベットを囲んでいるカーテンの隙間から、揃って病室から出て行った。
(意識失うとか、どんだけだよ)
俺が想像していた以上に風音は強かった。雪菜との決闘では何故か体が動くし、相手の動きもわかった。だから奇跡的に勝つ事もできた。だが、風音との練習に関してはその感覚が全くなかった。
ただ自分の実力で風音に勝てる気はしない。風音よりも序列上位の能力者と対戦になれば確実に苦戦を強いられるだろう。
だが今よりも俺は強くならなければ雪菜の隣を歩いて行くことは出来ない。
保健室で一人考え事をしていると、扉をノックする音が聞こえた。
保健室は誰でも自由に出入りできる、ノックしなければならないルールなど存在しないが、誰かのことを考えノックしているのだろう。
保健室には俺しかいないため扉に向け声をかける。
「空いてますよ」
無視するのは心が痛むため、俺は扉の向こうの人に声をかけた。
「失礼します」
聞き覚えのある声、だが聞きなれない、この声を聞くと少し心がざわつく。
扉の向こうの主は保健室に入り、カーテン越しで姿は見えないが、足音が近づいてくる。
声の主は俺のベットの所まで来て声をかけてきた。
「集くんのベットでよかったかな?」
ああ、間違いない。この声は雪菜だ。俺が今一番会いたくなかった人、保健室でもう少し休んだら帰ろうと思っていたが、その考えは甘かったみたいだ。
「ああ、そうだよ。はいって」
カーテンは静かに開けられ、雪菜が俺の前に現れた。
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いつのまにかブックマークが三件になり、PV数も100を超えている日がありました。
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