第十五話 柊 雪菜
訓練所を出たすぐのところで人だかりがあった。
(なんかあんのか?)
俺は人だかりの隙間を除き、何が起きているのか覗き見る。
その中心にいたのは雪菜と誰かはわからない男だった。おれはギャラリーの一人に声をかけた。
「あれ何やってんの?」
「決闘だよ決闘! 柊さんのパートナーになりたい奴が挑戦してるのさ」
TOEに向けてパートナー探しは必須。そのためのパートナーを決めるために、こうして決闘でパートナーを決めることがある。
決闘は、デバイスで申請してからでないと、序列に反映されないため必ず申請した相手からの許可が降りてからでないと決闘をすることはない。
許可の降りてない状態で相手に危害を加えれば、何かしらの罰則がある。
だがこれは各学区の最高責任者に裁量権が与えられている。
お互いが承認している試合ならば、場所や時間を考えれば決闘ができる仕組みになっている。
決闘のルールは簡単だ。デバイスで承認された後、アーツまたはトランスで相手を攻撃し、一定のダメージを与えるとデバイスが勝敗を判断する。
判断基準はそれぞれ違い、能力者の体力や精神力に左右される。
決闘はただ試合をして終わりではない、エデンに住む学生はそれぞれに序列があり、その序列を上げる方法として決闘というシステムがある。
序列を上げることができれば、この島での生活が優遇される。だから学生たちは決闘を行い、自分の序列を上げている。その決闘が目の前で繰り広げられているのだ。
雪菜の対戦相手は槍型のアーツ使いの男だ。
俺は自分のデバイスを操作し雪菜と対戦相手の男のランクを見る。
能力の内容まではわからないが、デバイスのカメラ機能で試合中であれば、ランクを見たい人を写せばランクと序列がデバイスに表示される。
雪菜のランクはD、能力者としてはそんなに高いランクではない、そして男のランクはC。雪菜よりも上のランクだが、何より決定的に違うのが序列だ。
雪菜の序列は六十位、それに比べ対戦相手の男は七十五位と差がある。この差は小さくも思えるが、実際の実力ではかなりの差があるらしい。
剣型のアーツよりも槍型のアーツの方がリーチがある分、有利にことを進められる筈なのだが、全ての攻撃が受け流される。
「なんで当たらないんだよ!」
男は力に任せに全力で槍を振るうが、そのことごとくが雪菜に受け流されている。
剣と槍は甲高い音を上げ、この音を聞いた学生のギャラリーは増えていく一方だ。
雪菜は全て受け流し続ける。まだ攻撃しようとはしていない。
(なんで攻めないんだ?)
俺は疑問に思った。普通なら自分よりもランクの上の能力者と戦うならある程度攻めなければ勝機を見出すことはできない。
だが雪菜は全ての攻撃を受け流すだけで攻撃を仕掛けない。
「よっ! 集、お前が決闘見てるなんて珍しいな」
雪菜の試合を見ていると後ろから真也が声をかけてきた。
「真也か、俺はさっきまで日向に付き合って練習してたんだよ。んで、一休みして外でたら雪菜さんが決闘してるから気になってな」
「そ〜ゆ〜こと〜。こういう決闘とかは興味ないのかと思ってたわ俺。てか何だあの試合、もう終わったようなもんじゃねーか」
真也は試合を一目見るなり、終わったという言葉を使った。
「なんでだよ。受け流してるだけで攻めてないんだぞ?」
「お前はあんまこういう試合見てないからわからないかもしれないけど、柊さんは人気があるんだ。数多くの男がパートナーになって欲しいって言うんだけど、柊さんは全て断ってるんだよ」
「誰かと組まないと学区大会に参加出来ないのになんでだ?」
俺は単純な疑問をぶつけた。
「下心ってやつさ。男達は柊さんとお近づきになるためにパートナー申し込みするんだが、見え見えでな。」
「なんとなくわかった。パートナーになれてそのあとあわよくば付き合いたいとかそんなんだろ?」
「まっそうゆうことさ。だけどただ断るだけじゃ諦めない奴が多くてな、だから圧倒的な力の差を見せてから勝利する。そうすればキッパリ諦めるからな。だけど裏を返せば柊さんが負ければパートナー申し込みを断れないってことだ」
真也の言うことがようやくわかった。圧倒的な差を見せれば、あなたはパートナーにふさわしくないと言われているようなものだ、一瞬で倒してしまってもたまたまで終わらせられてしまうが、相手の攻撃全てを受け流しとどめを刺す、そうすれば対戦相手は諦めるしか無くなるからなのだろう。
だが柊さんより強いと言うことが証明されれば、柊さんがパートナー申し込みを断る理由がなくなってしまう。
Cランクの相手にDランクの雪菜が勝利すれば、雪菜はCランクの対戦相手だろうと圧倒的な強さで勝利できる。これによりCランク以下の学生はこれから雪菜に挑戦しにくくなる。
「決闘を受け続けた結果、対戦相手が序列六十位の奴が出てきてな、柊さんは序列六十位を倒しちゃって序列が六十位になったってわけ」
「相手のランクはなんだったんだ?」
能力者の中で主に注目する点はランクだ、元序列十三位となれば高ランクに違いない。
「聞いて驚け、相手のランクはBだ」
「マジかよ……」
ランクDとBはとてつもない差があるはずなのだが、雪菜はそれを倒していたらしい。
「お喋りしてたら終わりそうだぜ」
真也と話していると決闘は終わりを迎る。
「これで終わらせてもらうね」
雪菜は落ち着いた声でそう告げる。
刹那、雪菜は男の大振りの槍を受け流すのではなく、ヒラリとかわし一刀を相手の胸元へ向け振りきった。男は胸元を切り裂かれた痛みで地面に倒れこむ。




