第十三話 拳の能力者
箱にほんの少し意思を込める。箱は徐々に形を変え剣へと形を変える。
俺は剣を握りしめ構える。そして日向を視界に捕らえる。
「おうおう、真剣だね〜」
日向が言葉を発した瞬間日向の手が鈍く光る。そして手には手袋が現れる。このグローブが日向の近距離戦闘型アーツ。
「マジでやんなきゃ一瞬で終わっちまうからなっ!」
俺は腰ほどの高さに剣を構え、地面を蹴り日向との距離を詰める。
擬似アーツで人を斬ろうとしても傷にはならない。アーツと同じで斬りつけても傷にはならないが痛みにはなる。
だがアーツで受けた痛みは本当の剣で斬られた痛みほどにはならない。
痛みとは別に疲労という形で体力が削られる仕組みになっているからだ。
単純に斬られ続ければ、痛みもあるし、疲労として体力を失う。いくら能力者が常人以上の高い身体能力を持っていても、体力には限界がある。
この仕組みを利用してたシステムが決闘システムだ。デバイスが体力の限界が近づいたと判断し勝敗を決める。このシステムは練習試合でも導入されており、特訓にも使われている。
俺は日向の左肩に向け剣を振り下ろす。
だが第一撃は日向に当たることはなくヒラリと避けられる。
だがこれは想定内。振り下ろした剣をすかさず斬りあげる。
「それも読めてるぜっ!」
日向は俺の第二撃すらヒラリと避ける。
「今度はこっちから行かせてもらうぜっ!!」
日向が俺との距離を詰め拳を俺に向け放つ。
「やられてたまるか!」
俺は剣で日向の拳を防ぐ。剣と拳は甲高い音を立て、お互いを次の動きへ移させる。
だが日向の拳は重く防ぐだけで精一杯になり怯んでしまう。
「はああああああああああ!!」
日向は両の拳を使い俺への攻撃を続ける。
(クソっ! 防ぐだけで精一杯じゃねーか! コイツ強すぎなんだって!!)
ガードしていては体力が奪われる。
日向の拳は重く、そして速い。
日向はFクラスではあるが戦闘成績はトップクラスの実力者。戦いでついていくだけでも一苦労だ。
5分ほど日向の攻撃を受け続けお互い徐々に体力が削られていく。
受け止める側もそうだが、攻撃する側も体力を使う。日向は体力もかなりある方だが、動き続ければいずれ隙ができる。
二年の中ではトップと渡り合える実力者の日向。
そんな日向でも一年からの付き合い、日向のクセを俺は知っている。
何度も無能力者の俺を練習に誘っては何度も日向にヤられたっけ。
だがそのおかげで俺はいくつか日向のクセを見つけることができた。
日向は八回連続で攻撃を続けた後、一呼吸置くクセがある。
その一瞬の隙を突き俺は防ぎ続けた体制を変え、剣を日向に向け突き刺す。
「ツァーー!」
強く息を吐くような声を出して日向に向け攻撃する。
「!!」
日向の脇腹に剣が刺さる。
だがこの剣でのダメージはごく僅かなためほとんど痛みにはならない。
「集に一発入れられるとは思わなかったなっ!!」
日向は顔を引きつり一歩下がる。
だが俺はそのクセも知っていた。日向が他の生徒と模擬戦をする時も俺を引っ張って戦いを見せてきていた。
自分と同じかそれ以上の実力者の生徒と戦う時は攻撃を受けることがある。
その時日向はいつも一歩だけ下がり次の攻撃に入る。俺はその日向の一歩下がる瞬間に俺も一歩詰め剣を右肩の高さで構える。
日向を確実に目で捉え、剣の攻撃範囲まで入る。
日向のアーツはグローブ型なため攻撃範囲は短い。
が俺の方が早く動いたはず——なのに。
「甘いな集」
日向はいつのまにか俺の懐にいた。
確かに俺は日向を目で捉えていたはず、だが日向は今、目の前にいる。
瞬きをした一瞬の隙にゼロ距離まで来ていた。
日向は左手を俺の胸あたりに添え、右腕は脇をしめ拳を握りしめている。
「しまっ——」
はっと日向が息を吐くと同時に握りしめた拳を俺の腹に叩き込む。
ドッと拳を受けた体は鈍い音を上げ訓練所の壁まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。
本来ここまでの威力で壁に叩きつけられれば大怪我になる。
だがアーツでのダメージは怪我にはならず痛みだけ、壁に叩きつけられた痛みや傷は訓練所が特殊な設計、擬似アーツの応用技術を使っているため、痛みや傷にはならない。
「やっぱお前強ーよ……」
体力の限界を迎え、訓練所の床に仰向けに寝そべる。
「悪い悪い少し本気出しちゃったよ」
日向は少し悪びれた様子で近づいてくる。
「最後の集の畳み掛けがヤバくてさ、条件反射で力入っちゃったよ」
「力入りすぎだ。お前、最後のあれ能力使ったろ」
さっきの戦闘のことを寝転がりながら日向に聞く。
「やっぱバレてた? 集のまさかの反撃に驚いてさ」
日向はバレた? というような表情で言う。
能力とは、アーツやトランスといった特別な能力とは別にもう一つある力で、自己の身体能力強化だ。
この自己の身体能力強化は、アーツかトランスが使えるようになると同時に身につく能力だ。
端的に言えばいつもより早く走れたり、瞬発力が上がったり、普通なら大怪我になることでも、かすり傷程度にしかならない能力だ。
自分のアーツ能力に対応した身体能力強化がなされる。
日向が俺との模擬戦で自己強化を使う事は初めてだ。
「これは何か卑怯な勝ちになっちゃったかな?」
「これは反則だろ!! 今回は俺の勝ちでいいよな?」
この模擬戦で何より差が出るのは戦闘での単純な技術差しかない。
アーツの発現していない俺は自己強化ができない。
そのため俺との模擬戦では禁止にしているわけではないが、日向自身が使わないようにしていた。
だが今回は『なんでも言うこと聞く』という約束があるため引くわけにはいかなかった。
「まあ今回は自己強化使っちゃったしな」
「言質とったからな! 約束忘れてないだろうな——」
俺はわざとらしくゲスい顔をして日向に近づく。
「何でもするとは言ったけど何させる気だよ!!」
「そりゃお前、『いいことだろ』」
いやらしく手を動かし近付こうとした瞬間俺は一瞬の隙に吹き飛ばされた。




