お嬢ちゃまと羊
「ひつじー!」
お嬢様は、私のことをお呼びになる。
「しつじ、ですよ、しつじ。」
お嬢様はまだ幼く、きちんとした発音を出来ない。
私はお嬢様のもとに跪く。
立っていらっしゃるお嬢様より、跪いている私の方が目線が高い。
だから当然、お嬢様は私を見上げることになる。
くりくりとした大きな目。
ううう……っ! か、かわいいい!
「ひつじー! あそんでー!」
お嬢様はその小さな手で怪獣の人形をつかんでいらっしゃる。
「がおー!」
その人形を私の顔に近づけてくる。
そして、私の頬にぎゅうぎゅうと押し付けてくる。
ああ、なんて愛おしい……!
あ、いや、ロリコンじゃないですからね!? 私は!
お嬢ちゃまが可愛らしいのです。(私は心の中で、お嬢ちゃまと呼んでいる。)
もちろん、執事やメイドは、私共の仕える本条家の方との恋愛は禁止されている。
だから、私はお嬢ちゃまに対して、愛しいなんていう感情を持ってはいけない。
でも、お嬢ちゃまが、「ひつじ、すきー!」なんて満面の笑みで言ってくるから、私の心は揺さぶられそうになる。
あ、いや、ロリコンじゃないですからね!? 私は!
「ひつじー! たかいたかいしてー!」
お嬢ちゃまがそうおっしゃったので、私は困ってしまう。
たかいたかいは、落としたら危ないという理由で、禁止となっているのだ。
「申し訳ございません。お嬢様。たかいたかいは出来ないのです。」
そう私が伝えると、お嬢ちゃまは、目をうるうるとさせる。
今にも泣きそうなのに、必死に我慢している。
ああ、なんて愛おしい……!
しばらくその顔を堪能してから「かわりに、だっこなら、いいですよ。」と言う。
お嬢ちゃまは、ぱあっと顔を明るくさせた。
「うん!」
私はお嬢様を慎重に抱きかかえる。
お嬢様のぷにぷにとしたほっぺが、私の顔の近くに来る。
ああああ! 今にもそのほっぺ、触りたい! ぷにぷにしたい!
そんな思いを必死に静める毎日である。
~現在~
「ちょっと! 工藤! 来なさい!」
私は全力疾走でお嬢様の所へ向かう。
「おそいわよ! のろま! あんたはカメか!」
あの可愛かったお嬢ちゃまは、ドSなお嬢様へとお育ちになられた。