8話 『素顔』《イノセント》
エレンさんと出会って数日後、私は食材の買い出しついでに王都を散歩していた。
まだこちらで生活を初めてから1週間程しか経っていないため、可能な限り周囲の地理に明るくなりたかったのだ。
その道中、私は思いがけない出会いをした。
私が食材を市場で探していた時のこと。
「……ママー……どこー……?」
私は迷子の……多分5歳くらいの男の子を見かけた。
私が声をかけてあげようとしたとき、
「……大丈夫?ママが見つからないの?」
別の女性が先に声をかけた。
「うん……置いてかれちゃったのかなぁ……」
「……そんなことない。一緒に捜そうか。」
今にも泣きそうな男の子の頭を撫でながら優しく語りかける女性。顔は向こうを向いているので分からない。
……何だろう。どこかで聞いた事のある声だな……
女性の少しハスキーな声を、私は記憶の中から探る。
…………あっ。
『………………エレン・ハイド………………』
数日前聞いた、エレンさんの声に似ている。
……というか、同じ声だ。
……え、でも、え……?
「エレン…………さん?」
女性は一瞬硬直した後、冷や汗混じりにこちらに振り向いた。
「あ……アリアさん!?
ど、どうしてこんな所に…………ハッ!」
女性はしまったという表情で口を抑えたが、
これは……やはり……
「女性……だったんですね……」
男の子の母親を見つけた後、私はエレンさんと歩きながら話した。
「驚きましたよ……まさか女性だとは……」
「す……すみません……」
エレンさんは顔を赤くしながら何故か謝った。
あの不気味な皮を剥がしたエレンさんは、同性から見ても魅力的な女性に見えた。
銀髪のショートヘアで、少し吊り上がった目と、口許の優しげな表情が特徴的だった。
……あと思ったより胸が大きかった。
「……なんであんな格好をしてるんですか?」
「実は……」
エレンさんは元々貴族のお嬢様で、一人っ子だったらしい。
両親はやはり跡継ぎが居ない、と嘆いたらしく、それを見たエレンさんはせめて姿や性格を男っぽくしようとしたそうだ。
しかし両親が事故で亡くなり、必要が無くなっても癖がなかなか治らず、しかも人見知りな性格のため、正教会に入る際あんな格好、口調にしたところ、正教会ではあれが板に着いてしまったという。
「未だにプライベートでも少し男っぽさが出ちゃうんですよね……」
実際、男性も着そうな服ばかりだ
……立派なモノを持っている癖に……
「オシャレとかした方がいいと思いますよ、私は。エレンさん美人なんですから……」
「いやいや……お世辞は嬉しいけどね」
何だか満更でもない様子だ。
「……あ、そうだ。
あの時の朝食、美味しかったかい?」
「あ、あれ、エレンさんが作ったんですか!」
「うん……。結構自信あったんだけど」
「凄く美味しかったです!」
「そっか……それは良かった。」
なんでも、この姿を見せた事があるのはアルカナ正教会でも少ないらしいので、私は絶対見せてあげた方が良いと伝えた。
その後、私とエレンさんは親睦を深め、度々2人で一緒に居るのが目撃された。