7話 『隠者』《ザ・ハーミット》
おぞましい?ゴースト事件が起こったその晩、私は意外とあっさり眠りにつくことが出来た。
翌朝、私は香ばしい朝食の匂いで目覚めた。
いつもは自分で作っているのだが、今日は何故だか起きたら、美味しそうなトーストとミルクが部屋のテーブルの上に置かれていた。
「マッドさん……か、レオさん、かな」
私は着替えてから、トーストにかぶりついた。
「……!美味しい……!」
バターや砂糖の量、焼き加減まで完璧なトーストだった。店で出ていてもおかしくないと思う。
プロのワザとはこの事か……!
などと考えながら食べ終わると、私は部屋から教会部分に向かった。
……今日も誰かいるのだろうか。
そう考えると少し緊張してきた。
扉を開けてみると、そこには長椅子に腕を組み、脚を組んで腰掛ける人物がいた。
その人は目深にフードを被り、口元は黒いマスクで覆われていて、顔が全然見えなかった。
全身黒ずくめで、私の第一印象は『暗殺者』みたいだと思った。
「……………………」
その人物がこちらに無言で視線を送ってきた。
目を合わせただけで縮み上がりそうな眼光だった。
「え……えっと……」
……この人、ゴーストよりよっぽど怖いんだけど……
私が言葉に詰まっていると、
「………………何だ。
言いたいことがあるなら言えばいい…………」
……向こうから話しかけてきた。
ちょっと高めのハスキーな声だった。
「えっと……あなたもアルカナ正教会のメンバー
……ってことで良いんですよね?」
「………………ああ」
どうやら当たっていたらしい。
レオさんは癖の強い人が多いって言ってたけど、予想以上にも程があるよ……
「……えっと、お名前は……」
「……………エレン・ハイド………………」
「え、エレンさん、ですね。
よ、よろしくお願いします……」
「……………………ああ」
「………………」
「………………」
凄く怖い……というか気まずい。
気のせいかもしれないけど殺されそうな気がする……
「………………ん」
エレンさんは大聖堂の入り口に視線を向け、すぐに向き直った。
「………………交代だ。誰か来た………………」
大聖堂の扉が開かれ、レオさんが顔を出した。
「………………レオか。」
「あぁ、エレンさん。お疲れ様です。」
それだけ言葉を交わすと、エレンさんは入れ替わるように大聖堂から出て行った。
「……はぁ……緊張した……」
「アリアさん、大丈夫ですか?」
「はい……あの人は……」
「エレン・ハイド。
『隠者』の名を冠する方です。」
「い、いつもあんな感じなんですか?」
「えぇまぁ、はい。
悪い方ではないのですが……
……不器用と言うかなんと言うか……」
「あの人にも、何か得意な魔法が?」
「えぇ。あの方は『隠蔽』魔法の才が突出しています。」
「……『隠蔽』?」
「貴女がマッドに会った時、彼が使っていたようなものです。」
あぁ、あの突然後ろから出てきたあれか。
「マッドの隠蔽魔法程度なら私は感知出来ますが、エレンさんの隠蔽魔法は格が違います。
...なんと言うか、もはや世界から『消える』んです。
我々の仲間にありとあらゆるものを見ることのできる『天眼』と呼ばれる魔眼の一種を持つ方が居るのですが……
この世に二つ、『見えない』ものがあるそうです。
一つはそもそも視るのに特殊な魔力が必要な『ゴースト』
そしてエレンさんの隠蔽魔法によって消されたもの、だそうですよ。」
……やはり、化け物しか居ないらしい。
あ、そういえば。
「今朝、朝食を置いておいてくれたのって、レオさんですか?」
「朝食……?
……あぁ、なるほど。」
レオさんはクスクスと笑った。
「なんですか?」
「いえ、本当に不器用だな、と。」
「……?」
結局、レオさんはその後も何も教えてくれなかった。
……そして数日後、私はとんでもない事を知るのだった……
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