6話 『死神《ザ・デス》』
大聖堂へと帰ってきた私を出迎えたのは、無数のこの世に在らざるモノを侍らせた、見たところ10代前半の少女だった。
「アリアちゃん、紹介するよ。
彼女は『死神』
アルカナ正教会のれっきとしたメンバーだよ」
「こ、こんなに小さな子が……?」
「……マッド、この人が、あの……?」
「うん。アリアちゃん。
レオ君から聞いたのかな?」
「……ううん、ここに住みついてる、お姉ちゃんが……」
彼女が指さしたのは私たちの真後ろのようだった。まさか...
「うわぁっ!?」
恐る恐る振り返ると、青白い、まるで生気のない女性がすぐ後ろに居た。
「……ア、……ァァ……ェ……」
女性が何か言いたげに口を動かしているが、全くわからない。
呪詛の言葉でも呟いているのだろうか……
「……驚かせる、つもりは、無かったって……」
「へ……?」
「彼女はね、視えるんだ。幽世の住人が。」
「そ、それって...」
私は未だに小刻みに震えながら言う
「そう、いわゆるゴースト。
彼女の力は絶大でね。彼女の近くに居ると『視える』ようになるんだ。
まあ、彼女が視ている世界にはオレたちが視えるモノよりずっと多く、鮮明に視えるらしいけどね」
『死神』は頷き、
「……この大聖堂、ゴーストの溜まり場……
……お姉ちゃん達の、周りだけでも、10人くらい……」
と、恐ろしい事を言った。
「……私、の、名前は、ヴィオラ・オルト……
……よろしく……」
彼女はヴィオラと名乗り、ゆっくりと手を出し、握手を求めてきた。
……正直この子の雰囲気が既に少し怖いのだが。
アルビノ、というやつなのか、肌も髪の毛も真っ白で、赤い瞳と紫のワンピースが対比的に目立つ。
握手に応じ手を握っても、まるで体温を感じられないほど冷たい。
「……それと、このコ達を、あまり、怖がらないで、あげてほしい……」
彼女に触れた事で力も強くなったのだろうか。
周りに今まで見えなかったゴーストが出現した。
「……あれ?」
しかし、怖くはなかった。
何故なら、どれも普通の人間に見えたから。
先程私を脅かした女性も、綺麗な大人の女性に見えたのだ。
「どうしたの?アリアちゃん」
手を離すと、大半は見えなくなり見えるものも恐ろしいゴーストに戻っていた。
「…………」
「おーい?」
「あ……す、すみません……
握手したとき、ゴーストが皆普通の人間に見えて……」
「……なんだって?」
マッドさんが驚いた表情になる。
僅かだが、ヴィオラちゃんの表情も固くなった気がする。
「え……?何か言いました?」
「……良いかい?
ヴィオラちゃんに触れたからといって、普通そんな事は無いよ。
霊能力も魔法の一種で、特殊な魔力が必要なんだ。
確かにヴィオラちゃんの近くに居たら多少は見えるだろうけど……
……そんな、『普通の人間に見える』なんて試しは無い
……何ならオレたち魔法使いにも無理だよ。」
……よく分からないが、つまりは今のはレアケースという事なのだろうか?
それにしても、ヴィオラちゃんにはゴーストはあんな風に見えるのか。
致命的な傷を負ったような人もいたが、表情が豊かで何ら人間と変わりなかった。
「あ、まだこっちから言ってませんでした...
よろしくお願いします、ヴィオラちゃん。」
「え……あ……うん、……」
何だかマッドさんもヴィオラちゃんも考え事をしているようだ。
何かおかしい事なのだろうか……
「…………あれって…………」
「うん……間違いないね。」
何かひそひそ話をしていたが、私は聞き取ることが出来なかった。