5話 『理解』《マジック》
...翌日。
昨晩からは大聖堂の部屋に泊まっている。
宿屋にあった荷物はいつの間にか部屋に運ばれていた。
マッドさんいわく
「えぇー?誰がやったんだろーね?
オレには皆目検討つかないね!」
...絶対この人だよ。
荷物運びに適し過ぎてる魔法だしなぁ...
ちなみに、大聖堂の教会部分に出ると、今日はマッドさんが本を読んで待っていた。
こちらに気づくと本を閉じ、満面の笑みでヒラヒラと手を振ってきた。
「おはようアリアちゃん。変わりはない?」
「はい。
...何か意外ですね。あまり本を読むイメージは無かったんですが...」
「ひどいなぁ。オレって勉強家なんだよ?」
マッドさんが本の表紙を見せてきた。
...よく見たら、書かれている文字は見たことが無いものだった。
「...この国の本じゃないんですか?」
「うん。結構面白いんだよこれ。」
...正直驚いた。
なんと言うか、遊び人ってイメージがあったから...
「今日は何をすれば良いですかね...?」
「そうだねぇ...今日は...
そうだ、僕の仕事見てく?飽きはしないと思うよ?」
「仕事って...
アルカナ正教会って何するんですか?」
「いやぁ、アルカナ正教会は職場じゃないしねぇ...いや、入ってくる魔物退治の依頼なんかもあるし、それだけでも十分生活は出来るんだけど...まぁ僕のは趣味みたいなものかな」
「そうなんですか...
ところで、何をしてるんですか?」
「それはね...」
「ありがとうございましたー!」
マッドさんのその言葉と共に、周囲から拍手が起こった。
彼の言う仕事とは、「手品師」だった。
人を騙すような魔法が得意と言っていたけど、今回は見た感じそんなものは一切使ってなかった。
今回はいわゆるストリートだったが、ちゃんとした公演をする事もあるらしい。
ショーが終わった後、マッドさんはショーを見ていたであろう子供たちに囲まれていた。
...マッドさん、子供に好かれそうだな...
「どうだった?アリアちゃん。」
「あはは...なんと言うか、これはイメージ通りでしたね。」
「そうかなぁ?」
大聖堂近くの食堂で少し早めの夕食をご馳走になり、色々と話した。
レオさんの言う通り、飄々としてはいるけど、とても優しい人だな、と話していて思った。
「さて、そろそろ戻ろっか。
レオ君に君を勝手に連れ出したなんて知られたらまた叩かれちゃうからねぇ。」
「...ふふっ。」
...何だか今日はマッドさんの事を少し知れた気がする。
「どーしたの?
何か変な事言ったっけ?」
「いえ、何でも?」
「えー!?
そう言うのやめてよ気になるじゃん!」
そんな会話をしながら大聖堂へ行き、マッドさんが扉に手をかけて...
「あーー...
アリアちゃんさ、ホラーとか大丈夫?」
「え?」
「いやぁ...ちょっとね。
あのコの気配が中からビシビシと...」
...あのコとは何なのだろうか。
怖いのは正直苦手なのだけれど...
自分で扉に触れると、背筋が凍るような感覚が全身を襲った。
「...!!」
「良い?開けるよ?」
扉が開くとそこには、まだ夕方のはずなのに真っ暗で、甲冑姿の男が立っていた。
心臓があると思われる場所には槍が深々と刺さっていて、身体は半透明であったが。
次の瞬間、扉がひとりでに閉まり開かなくなり、
その男が、胸に刺さっていた槍を引き抜き、こちらに向かってきた。
「うああぁぁぁぁっ!?」
何だか自分でもよく分からないくらい大きな悲鳴が出た。
甲冑の男が私に向かって槍を振りおろそうとした時...
「......その人は、いい。」
声が聞こえた途端、男は動きを止め、そのまま見えなくなってしまった。
男に注意が行っていて気づかなかったが、奥の方に私より小さい少女が立っているのを見つけた。
「......ごめん、なさい。
マークは、せっかち...危なっかしい......」
「え...?え...?」
私は突然の事に涙目で呆然としていると、
「アリアちゃん、紹介するよ。彼女は...」
『死神』。
それが少女のもう一つの名前だった。