4話 『驚天動地』《カタストロフィ》
世界最高峰の魔法使い2人による『模擬戦』は始まった。
...いや、『模擬戦』なんて甘いものではなかったのだが。
「では...行きますよ!!」
魔法というものに縁のない私でもはっきり分かるほど、レオさんの周りの何か...恐らく魔力が増幅しているのを感じた。
レオさんは見えない程のスピードでマッドさんに迫り抜刀、そして...
マッドさんの首を撥ねた。
「ちょ...!?」
私は目を疑ったが、確かにレオさんの剣はマッドさんの首をスッパリと斬っていた。
「何やって...!?」
涙目で悲鳴にも近い声を出した私の言葉は遮られた。
「はいはーい!生きてますよーっ!」
「...っ!!」
突然天井の方から声が聞こえたかと思えば、レオさん目掛けて猛スピードで無数のナイフが降ってきた。
そのナイフを全て剣で捌くレオさん。
そして首なしで床に倒れているはずのマッドさんの姿がいつの間にか消え、空中に無傷の状態で現れていた。
「ははっ、レオ君流石だねぇ!」
「これしき何の問題もありませんよ。」
...既に私の理解の範疇を超えてしまっている。
ここまでで始まって10秒も経っていない。
...そこからはもう訳が分からなかった。
レオさんの速度はもはや瞬間移動に見えたし、それを軽くいなして挑発するように笑うマッドさんも異常だ。
「はっ!!」
レオさんが最初と同じように剣を横に凪いだかと思うと、
「どこ見てんのー?」
マッドさんがレオさんの振った剣の上に立っていたり。
「そぉれ!」
マッドさんが空中から無数のナイフをレオさんを囲むように放ったと思うと、
「騙されませんよ。」
それらのナイフは全て幻影と見切り、透明化して死角から飛んでくる複数のナイフを躱したり。
見ているこっちが疲れそうな戦いなのに、当の二人は息も上がっていない。
「...どうしたんですか。
攻撃にナイフしか使わないとは。」
「えー?
だってこのくらいのハンデなきゃオレの圧勝っしょ?」
「...言ってくれる。
...本気を出してください。」
「良いの?この辺メチャクチャになるけど」
「...いくらでも修復は利きますよ。」
「そう?じゃあ遠慮なく!!」
...あれで本気じゃない!?
本気を出すと言うマッドさんにそろそろ止めにしませんか、と言おうとした時、
「えっ...えぇっ!?」
身体の自由が効かなくなった。
動かせない訳では無い。身体が浮き、重点も定まっていないからだ。
「『驚天動地』《カタストロフィ》!!」
私だけではない。石畳、長椅子、神を模したと思われる像...
大聖堂の全てが無軌道に動き出したのだ。
まるで無重力空間のように。
...後で聞いた話だが、レオさんの『星剣』のようにマッドさんにも異名があった。
...『天邪鬼』。ある国の怪物の名から転じて、『反逆する者』のような意味の言葉らしい。
...恐らく、この天地がひっくり返ったような感覚...これをそう呼んだのだろう。
「...流石にこれは抗えませんか...!」
レオさんも身体のコントロールを失ってしまっていた。
「さぁて、行っくよー!」
1人自らを『操作』して身体のコントロールを維持するマッドさんが何処からか剣を取り出し、真っ直ぐレオさんに向かって行った。
「終わりかなぁ?」
「くっ!」
レオさんが振った剣の剣筋の延長にあるものがことごとく真っ二つになり、マッドさんも縦に真っ二つに切れたように見えたが...
「残念!オレはここでーす!」
切れた身体の片割れが元のマッドさんの姿に変わり、そのままレオさんに急接近し、剣を構え、首ギリギリで止めた。
「...ふぅ。僕の負けです。やはり貴方は『天災』ですね。」
「ちょっと、なんか字違くない!?
てゆーか、レオ君実戦では防御魔法使えるでしょ。今回は模擬戦だから無しって暗黙のルールあったけどさぁ。」
...今の今まで殺し合いをしていた2人が冗談交じりに会話してる...
いやいや、それより...
「お、下ろしてくださいぃぃ!!」
「あ...ごめんね...」
...メチャクチャに荒らされたはずの大聖堂の中身が一瞬で元通りになってしまった。
...私はというと、突然の無重力体験で酔ってしまったのだった。
「いやぁ、ごめんね?
途中でちょっとヒートアップ?しちゃってさ。」
「あ、あれ何なんですか...」
「『操作』魔法の暴走、が正しいかな。
オレ、小さい頃から無意識に魔力を撒き散らしててさー。
大変だったんだよ昔は。制御できなくてさっきみたいのが突然起こったりしたんだよねぇ。」
「そ、そうなんですか...」
「まあさっきのは大聖堂内限定、しかもアリアちゃんの安全を考えてちょっと魔力を絞ったんだけど。」
「...癪ですが、彼の能力は本物ですよ。
かつて敵勢力が住民を追い出し無法地帯となった街1つを丸ごと破壊したこともありますから。」
「ちょっと止めてよー。そんな言い方じゃアリアちゃん怖がっちゃうでしょ!」
「あ、あはは...」
...私はこれからちゃんと生きていけるのだろうか。
私はとんでもない状況にいるのだと改めて実感したのだった...