1話 プロローグ(上)
ー地獄。
そんな物が現実にあるのかどうか確かめる術は無いが、この惨劇を見てそう形容しない者はいないと思う。
エンディア村。 王都から遠く離れた小さな村の名だ。私の故郷でもあるが...もうない。
8年前、村に『悪魔』が現れたのだ。
比喩ではなく、悪魔そのもの。
そいつらによって、村は蹂躙された。
立ち上がる火の手、人々の断末魔、村中から漂うかつて人だったモノが放つ異臭... この日、私の村は滅んだ。 家も、畑も、人も...全て消え去ってしまった...
...私を除いて。
私はその場から奇跡的に逃げ出したのだ。
両親が私を家に隠れさせ、家に入ってきた悪魔を家の外まで追いかけさせて誘導...私はその隙に逃げた。 ...逃げる途中で両親のものと思しき断末魔が聞こえたが脇目も振らず逃げた
後から聞いた話では、その悪魔は世界を代表する魔法使い達が決起して全て討伐されたのだとか。
...私は自分だけ助かったことに対する憤りと、悪魔に対する恨みにずっと苛まれた。
その後親戚に引き取られ、私は16歳になった。 義理の親からは良くしてもらったが、義母が病に倒れ、これ以上は負担をかけられまいと思い、王都に働きに出ることになった。
...その道中から私の物語は始まったのだ。
私は最小限の荷物をまとめ、長い金髪を後ろで結び、身だしなみを整えて出かける準備をしていた。
「...アリア、本当に良いのか?お前はまだ16...学院へ通える歳だ。私たちのことは気にしなくても...」
これは私の義父。アリアというのは私の名だ。
「大丈夫ですよ。今まで面倒を見てくれたので充分です。」
...結局、この敬語癖は治らなかったな。義理とはいえ家族にも敬語というのはどうかと思ったけど...
「...そうか。頑張ってこいよ。気をつけてな。」
「...はい、行ってきます。」
そう言って私は家を出た。 病床の義母には手紙を残してきた。顔を合わせたら余計行きづらくなるだろうから。
「あれ?アリアねーちゃんどっか行くの?」
「そうか、今日が出発だったな。気をつけていきなよ。」
村の人達が集まってきた。村は狭いので、ほとんどの人が顔見知りなのだ。村を出る話もある程度回っていたようだ。
そんな人達に挨拶を済ませ、私は村の外に待たせてあった馬車に乗り込んだ。
ちなみに、この騎手さんも村の知り合いだ。
王都までは約3時間。林道にさしかかり、馬車に揺られてうつらうつらとしていたのだが...
「うわぁぁっ!?ま、魔物だ!!」
突然、騎手の悲鳴が聞こえた。
外に出て確かめると、狼の魔物が馬車を囲っていた。
...そして、その中の1匹が私に飛びかかってきた。
私は死を直感した。思わず目を閉じ、次にくるであろう痛みを待った。
...しかし、そんなものはなかった。
目を開けると、金髪の中性的な顔立ちの男が淡く光る剣を持って、魔物の骸に囲まれるように立っていた。
男は剣を鞘に納め、こちらに近づいて微笑みながら言った。
「危ないところでしたね。怪我はありませんか?」
...これが私と『星』との出会い。
そして、私の運命が動き出した瞬間であった。
初投稿です!
拙い箇所もあると思いますがよろしくお願いします!