聖夜の奇跡はエロ本と引き換えに
???視点
三日月の綺麗な夜、古びた銭湯から1人の男が気持ちよさそうに中から出てくる
「ふぅ~」
店先にある暖簾をくぐり抜け駐輪場に停めてあった自転車に乗り込もうとした時だった「あっ」思わず叫んでしまう男
「ない…ない、ない、な~い!」
駐輪場の下をくまなく見ながら叫ぶ。銭湯に入ろうとしていたおばちゃんから冷たい視線を浴びせられているのも気にせずひたすら探し続ける男。
「オレのエロ本がない…カゴに入れてたのに、さっき買ったばかりのマダンナ通信が…」
諦めきれずに辺りを見回すが、やはり無い…
「オレのクリスマスが終わった…モテない上に何故こんな仕打ちを…おお神よ!」
私は銭湯の煙突の上から検体を観察しながら、仏教徒の癖にクリスマスにケチをつけるのはどうかと思うが…存在自体が哀れだなと思った。
その下らない雑誌は私が回収させて貰った。その人間の人となりを知るには本棚を見ろと言う言葉がある。
検体の性格を分析する上で役に立つと思ったのだが…主な内容は有閑夫人が、家に来た宅配や営業に来た業者の衣服に、毎回ジュースやコーヒー等のを零すと言った内容だ。私には何が面白いのかよく分からない。
と言うのも、私の本来居るべき世界では男女の営み等存在しないからだ…私はこの世界の住人では無い、いや、正確には住人ですら無いのかも知れない。
まあ、そんな事は今はどうでもいい。それよりも検体の事だ。
検体の名前は大増洋一、32才、独身、職業は警備員。趣味はネット小説を読むこと。朗読、演劇。女性遍歴は、いない歴=年齢と言うやつだ