第5話:自分の力
先程まで笑顔だったシトリアは、
真面目な顔になり、説明しだした。
「時間が無いので、今必要な説明だけしますね。
今この世界は、『邪族』によって支配を受けようとしているのです。『邪族』は、元々この世界にいた種族ではなく、あなたのいた世界の人間によって作られた種族なのです。
すべては、この世界及びあなたの世界を征服するために。」
「征服?!誰がそんなことを?」
「本名は分かりませんが、そいつは自分のことを世界の主と呼んでいます。
とりあえず、今街が襲われているのです。このままでは街が邪族の支配下に置かれてしまいます!」
「襲われてるって・・・邪族って、名前からして強いんだろ?」
「はい、邪族と戦えるのは世界でも極々一部の人間のみ。
その一部の人間のことを私たちは、超越する者、通称エクサーと呼んでいます。
エクサーの人数には限りがある故、邪族に襲われてもすべての地域を助けることはできないのです。私もエクサーの端くれですが、一度に多くの邪族を滅するほどの
力は持ち合わせていないのです・・・。」
「・・・で、俺は具体的にどうすればいいんだ?」
「祐樹さんにも戦ってもらいます。
祐樹さんもエクサーなのです。そちらの世界ではエクサーの力は、
発揮されないので、自分の力には自覚できていないでしょうが、
こちらの世界ではあなたのエクサーとしての力はトップレベル。
この世界を救えるのは貴方だけなのです!
とりあえず、あそこに見える街を早く救わなければ、
行きましょう!祐樹さん!」
シトリアが俺の腕を引っ張っていく。
街に近づくと、邪族の姿が見て取れた。
邪族の姿は、まさに俺の世界での悪魔の想像図がそのまま飛び出してきたような
容姿だった。
街の中に入ると、
邪族と鎧を着た何者かが交戦中だった。明らかに邪族が優性、鎧を着たやつは明らかに劣勢だった。
「リータ!!」
シトリアが叫ぶ。
「ちょうどいい祐樹さん、いっちょお願いします!」
「お願いしますって・・・あんな怖そうなやつにどうやって戦えって言うんだ?」
「え?あ、あぁ!コレを・・・。」
シトリアがポケットから取り出し、俺に渡したのは、
小さな紙と・・・ペン。
「は?」
「何か武器を描いてください!」
「いやいや、え?」
「描いてください!」
「いや」「描け!!!」
「・・はい・・・。」
どういう意味だよ・・・。
俺は紙に手早く適当な剣を書く、RPGでよく見る最初の剣ような。
「描けましたね!じゃあ、それを持ってイメージを思い浮かべてください。
その剣の立体的な姿を!」
む・・・こうか・・・?
紙は光を放ち大きく姿を変えた。俺の書いたとおりの剣に。うん、すごく弱そうだ。
重さは紙のときよりはよっぽど重くなり、見た目ほどではないが、
しっかりと質感を持っていた。
「ほら!早く戦って!」
そんなこと言われても・・・
「キシャアアアア!!!!」
先ほどまでリータと交戦していた邪族が俺に向かって突進してきた。
え、嘘、やばい、死ぬほど怖い。
俺は剣を前方にかざし、ガードの構えをした。
ドンッ!!!
邪族がぶつかるが、思ったよりの衝撃はない。いや、思ったよりだから、少しでも気を抜けば吹っ飛ばされそうだ。
俺は剣を振り払い、邪族を跳ね飛ばす。俺にこんなに力あったか?
跳ね飛ばし倒れこんでいる邪族に俺は走りこみ、
大きく振り上げ・・・斬りつけた。
まるで紙を切るような感覚。
邪族は、あっけなく真っ二つに割れた。すると剣は再び光、消えた。
「・・・すごい・・・。」
後ろのほうでシトリアがポツリと言う。俺も何が何だか分からないのだが。
「すごいです!!さすが勇者様!!」
鎧を着た人が言う。なぜか聞き覚えのある女の声だった。
「初めまして・・・ではないですね。私はリータと申します。こんにちは、祐樹君。」
顔の部分につけた鎧を脱ぎながら女は言った。
コイツは・・・国語・・・教師?
「アレ?何で混乱してるんですか?シトリア姫からまだ何も聞いていないのですか?」
「いや、全然まったく。」
いつの間にか近くによってきていたシトリアが言う。
「リータは、あなたを呼び寄せるために使いとしてそちらの世界に送ったのです。
まぁ、結局使命を忘れて学校生活を謳歌してくれちゃったんですけどね〜。」
そういってシトリアはリータを睨む。
シトリアは続ける。
「しかし、リータ!何のざまですかアレは!あの程度の低級邪族に手古摺るだなんて!!」
「シトリア姫・・・実は、武器紙のほとんどを奴等に奪われてしまいまして・・・
武器なしでは、いくら私でも邪族は・・・。」
「何ですって?!!」
「あのー・・・驚いているところ悪いんだが、武器紙って何だ?」
「武器紙とは、先ほど祐樹さんが絵を描いた紙のことです。
エクサーにのみ使うことができ、邪族に対抗する唯一の武器なのです。
アレは特別な瘴気を含んだ木から作られたもので、もうこの世界には存在していないのです・・・。
それを奪われたということは・・・非常にピンチなのです。」
「しかし、シトリア姫、奪われたのはついさっきのことですので、急いで奴等の支部に乗りこめば何とかなるやもしれません。」
「うん、そうね。祐樹さん、行きましょう。」
「私も一緒に参ります!」
「・・・いや、行くってどこへ?」
俺はものすごく置いていかれてる気がした。
「世界の主によって作られた、邪族構成の組織『クラシュ』のクレパ街・・・まぁ、この街の支部です。
それは、この街を少し離れたパラの森の中にあります。
これに乗っていきましょう。」
そういってシトリアは武器紙を取り出し、絵を書き出した。
すばやく絵を描き、目をつぶると、紙はいかにも速そうな車へと姿を変えた。
「さ、乗ってください!リータ。運転を頼むわよ。」
「はい!」
車は物凄い爆音を放ちながら、物凄いスピードで走り出した。