第26話:亀裂の入った絵
また前話から間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
「何・・・あれ・・・。」
シトリアが唖然とした顔で言った。
俺達はクレパに起こった異常を調べるため、馬車でクレパへと向かっていた。
その途中、クレパはまだ大分先にあるはずだが、急に馬車が止まった。
何があったのかと、馬車から少し降りると、明らかな異常がクレパのある方角に見えた。
「あれが異常の正体・・・ですね。」
ヴェイが珍しく落ち着いた声で言った。
異常の正体・・・それは、『無』だった。
比喩的なそれではなく、本当にクレパがあっただろう場所が消えている。
その『消滅』は天にも及び、あの空が白く雲が青い天までもが消えている。
シトリアが話し始めた。
「・・・これは、世界の主の仕業・・・としか考えられませんね。どうやら本当に落ち着いてはいられないようです。」
「・・・で、どうするんだ。」
「・・・・・・分かりません。完全に先手を取られました。今までも邪族から攻撃は受けていましたが、それは本当に微々たるもの。こんな強引な手段、初めてです。」
フランチュールが難しそうな顔でシトリアに言った。
「って言うか、その、世界の主の目的って何なんですか?」
「分からないわ。今までは侵略・・・だと思ってたけど、違うみたい。自分のものになる町をわざわざ消すなんて・・・ありえないもの。」
「っていうか、その・・・ごめんなさい。あの・・・凄く皆さんが遅くて、その・・・ごめんなさい。待ち疲れちゃって・・・来ちゃいました。」
突然誰かの声が聞こえて、その声の主は現れた。
そいつはシャミューシャ同様に黒いローブを着ていた。
「誰ですか、貴女は。」
シトリアが尋ねると、その女は丁寧に答えた。
「その・・・私は、メルシィって言います。世界の主様に・・・その・・・クレパで待ち構えろって言われてたんですけど、暇だったので、来ちゃったんです・・・。ホントにごめんなさい・・・。」
「世界の主?!ってことはお前・・・」
「え?あの・・・その・・・ごめんなさい。・・・死んでくれますか?」
そういうと、メルシィは背中から弓を出した。
「祐樹さん・・・お願いします。もう、何でもいいので。時間もないです。」
・・・お前はさぁ・・・何で落ち着いてるの?普通に死ねとか言われてるのに。
「まぁ・・・やるしかないならやるしかないのか?」
俺は何となくつぶやいた。
「これ、武器紙です。」
んー・・・何を書こう。って、考えてる暇ないな。もう・・・アレでいい。
ビシッ!!
俺の放った鉄球はメルシィに当たった。
しかしメルシィはまったく痛がる様子を見せず言った。
「・・・シャミューシャさんは格好つけて鎧を着ていませんけど、私はちゃんと着ています・・・。その、そんな玩具は・・・その・・・死んでください!」
メルシィは勢い良く弓を引いて同時に3本の矢を放った。って・・・危なっ・・!
・・・って、誰もいない?!
俺一人で戦うのか?!あいつらどこに行った?!
「お仲間さんたちは・・・いなくなりましたね・・・。・・・じゃあ、そろそろ普通にお話しして構いませんね。」
メルシィは急に饒舌になって弓をしまうと、スラスラと話し始めた。
「率直に言うと、この世界はもうすぐ完全に崩壊します。
世界の主様の手によって。貴方方が普通に戦おうと、貴方達の抵抗などものともせずに計画は進むでしょう。」
「崩壊・・・?」
「えぇ、もうご存知かもしれませんが、この世界は所謂一枚の絵。
世界の主様はその絵をビリビリに破こうとしてらっしゃるのです。」
「破く、って、どういうことだ?」
「まず、あのクレパ。あれは、世界の主様によって絵に亀裂を入れられた状態。当然のことですが・・・亀裂が入れば破れやすくなりますよね?
それに加えて、西のコトゥール、南のリズレバーク、東のチレブイン。この四つの街は・・・いわばこの世界の四つ角に当たります。
そのそれぞれに亀裂を加えることによって、この絵・・・この世界は極端にもろくなる。
そしてトドメとして、この絵の中心の地であり、世界の主様の支配化におかれた地。そこに特別強力な一撃を浴びせる。すると、この世界は完全に破けます。
破けるとどうなるか・・・まぁ、大体分かるかも知れませんが、
絵と言うものはある一定の面積引き裂かれると、その絵としての価値を失います。
つまりこの世界は価値を失い、消滅。」
そういってメルシィはパチン!と指を鳴らして見せた。
「そんなの・・・意味わかんねぇ。そんなことして、何の得があるんだ?」
「この世界は・・・ヴェルイス様の・・・いや、世界の主様の最後の作品。
最後にして最大の・・・失敗作なのです。」
「いや、この世界はヴェルイスってやつが作ったんだろ?世界の主は何も関係ないはずじゃないのか?」
「ヴェルイス様は・・・今も生き続けています。
ヴェルイス様は、本当の最後には『自ら』を描いたのです。」
「自ら・・・を?」
「はい。ですから、世界の主様というのも・・・ヴェルイス様そのもの。
だから、世界の主様は、自分の作品であるこの世界を壊そうとしているのです。」
「何で、この世界を・・・?何も悪いところはない。この世界に何の罪がある?」
するとメルシィは天を指差しながら言った。
「あの青い雲、白い空。何の意味があるか分かりますか?
世界の主様は・・・この最後の作品で、貴方の住む世界とは真逆の・・・平和な世界を望まれた。
世界の主様・・・ヴェルイス様は、戦いの耐えないそちらの世界に見切りをつけ、新たな世界を創ろうとして、この世界を描いたのです。
・・・しかし、思い通りには行かなかった。
この世界も戦いに溢れ、差別に溢れ・・・平和な世界とは言えない。失敗作となったのです。」
「・・・。」
「失敗作は消してしまうに限る。そう考えて、世界の主様は今回の計画の決行を決めたのです。
・・・少し話しすぎましたね。まぁ、いい。私はそれだけ貴方に『期待』しているのですから。
さぁ、祐樹。私を殺しなさい。」
「・・・は?」
「貴方の仲間は、私が『特別な矢』でコトゥール、リズレバーク、チレブインに送っておいた。世界の主様の計画を阻止するために。
祐樹、私を殺して、南へ向かってください。世界の主様の地・・・ギリードへ。」
何言ってるんだ、協力・・・してくれてるのか?
「今、私を殺しておかないと、いずれ私は世界の主様の手駒となって今度こそ手加減無しで貴方と対峙することになるでしょう。
だから祐樹、私に人としての意識がある今、殺してください。」
「そんな、意味が・・・」
何で、殺さなきゃいけないんだ?
すると、メルシィは背中から一本の矢を取り出した。
「・・・祐樹、貴方はもうそんな風に迷っていられなくなる。・・・ま、信じていますよ。きっと、うまくいってくれると。」
メルシィはニコッと笑って、矢を自分の首に突き刺した。
「お前?!何やって・・・」
メルシィはかすれた声で言った。
「南へ・・・向かって・・・ください・・・・・・祐樹・・・急いで・・・・・・」
そういうと、メルシィはその場に倒れこんだ。
こんにちは、甘味です。
次回からは、祐樹以外の3人それぞれの戦いのお話。
そろそろ終わりそうな雰囲気を醸し出してきました。
では、次話もどうかよろしくお願いします。