第22話:勇気の祐樹
「おいっ!そっち持て!」
「え?どこ?」
「右だっつーの!箸持つほう!!」
「右?」
「そっちじゃねぇ!!」
「いや、俺にとっての箸を持つほうなのかはっきりしてもらわねぇと・・・」
「お前にとっての右!」
「あぁ、そっちか。よいしょっ・・・」
薄らと聞こえた声と共に、俺の脚は軽くなった。
「・・・誰だお前ら。」
俺が声を出すと、2人の男はあたかも聞こえていなかったかのように、2人で話し始めた。
「・・・おい、何か起きたっぽいぞ?」
「やばいな。チーさんに怒られちまう。お前がな。」
「え?お前が起こしたんじゃね?」
「いやいや、俺はもう図書館並みの静かな声しか出してないから。むしろ安眠に導くくらいの声しか発してないから。」
「え、いや俺は図書館どころかもはやテレパシーで話してたけど?」
「いやいや、お前はもう年末の工事並みに音立ててたぞ。」
「いや、お前こそ。」
「いや、お前が。」
「いや、おま「おめーらどっちもうるせぇんだよ!!!」
永遠に終わらなさそうなやり取りを、俺は怒鳴って止めた。
男達はキョトンとした顔をしたあとまた話し出した。
「おい、やべーよ。マジで起きてるよコイツ。」
「やべーな。軽く起きたフリしてるのかと思ったらマジで起きてるよ。」
「軽く起きたフリをしてどこか眠くないような雰囲気を漂わせてみただけなのかと思ったのによ。」
「いや、もしくは軽く眠くないフリをして起きた雰囲気を漂わせた「またそんな感じか?!お前ら何しにきた!!」
いい加減飽きてきたこの展開の中、俺はまた大声で言った。
すっかり暗くなったあの後、俺達は近くの小さな宿に泊まっていた。
シトリア達は三人部屋、俺は一人部屋で眠っていたわけだが・・・。
「お前をさらいにきた。・・・んだっけ?」
男はもう一人に向かって言った。・・・せめてはっきりしろよ。
「おい、おまえらぁ?いつまでタラタラやってるんでぇすかぃ?」
何やら昼に聞いた声が聞こえた。
「チーさん!すいやせん!コイツ起きちまったんです!」
男が声を揃えて俺の部屋にドアに向かって言った。
「ったくよぅ。寝たままで捕まえろって言っといただろぃ?」
ガチャッと音を立てて入ってきた男は、昼のおじさんだった。
「お前は・・・!」
「おうぃ、昼はありがとぅございましたぃ。でも、こっちはこっちで仕事なんでぇ。おとなしく捕まってもらおうって言うことでぃ〜。」
チーと呼ばれたおじさんはそう言ったあと、今度は、俺を捕まえようとしていた二人の男にに向かっていった。
「こっちの女一人にガキ二人は捕まえといたからよぅ。そっちはもう適当に連れてきてほしいんだぜぃ。
外で待ってるからしてぇ。急がないと俺が怒っちゃうからよぅ?」
チーはそういうと男達をギロリと睨んでからゆっくりと部屋を出て行った。
「は、はいっ!」
男達はポケットからスタンガンと思しき物を取り出すと、俺の首へかざした。
バチバチッ!!と音を立てると、俺は一瞬で意識を失った。
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ガタガタッ!!と言うゆれと共に、俺は目を覚ました。
「こ、ここは・・・?」
俺はどこかで目隠しをされ、体を縛られていた。このゆれは・・・馬車に乗っているのだろうか。
「祐樹さん・・・起きましたか?・・・何か捕まっちゃったみたい?」
シトリアが小声で言った。
「・・・ま、言われなくても分かるな。」
「どうしましょ?」
シトリアは落ち着いた声でいった。落ち着いている場合じゃなさそうな気がするが。
「どうしましょって・・・どうしようもないだろう。他の二人はいるのか?」
「目隠しされているのでどうにも・・・でも、さっきから声がしないので、たぶん此処にはいない・・・ですね。」
「そうか。」
そういって俺は深くため息をついた。
・・・何だろう、今凄くピンチなはずなのに、自分が余りにも落ち着いていることに不思議な感覚を覚える。
こっちの世界に来てからこっちの時間感覚が俺の元の世界と変わらないところを考えると、まだ1ヶ月も経っていない。
その間に、色々なことがあった。元の世界で、こんなに色んなことが一気に起こったことがあったか?・・・ないだろう。
俺が救世主だとかどうだとかでこっちの世界にやってきて、シャミューシャと戦って、負けて、勝って。
・・・・・・あれ?・・・で、俺・・・何やったっけ?
馬車で飛んで・・・・・・あと・・・グーズマンと戦って・・・・・・落ちた。
・・・・・・何だかな、結局俺は役に立ってない気がするんだよな。
・・・もうな、俺、何しに来たんだ?って感じだな。
「・・・祐樹さん?」
俺の出す物音に気付いたシトリアが、小声で問いた。それに俺はクスクスと笑いながら答えた。
「・・・で、こんなときこそ、大活躍!・・・ってのが、救世主ってものかなって思うんだ。」
「え?何が・・・」
シトリアの声を無視して、俺は立ち上がり、言った。
「・・・じゃ、ちょっとやってくる。」
暗い馬車の中、俺は懐から武器紙を2枚取り出した。
んー・・・よし、描けた。
俺は近くの小窓を2つ開け、その2つの窓に、描いたあの武器を向け・・・放った。
パヒュッと、弱々しい音を放ったそれはカキンッと何かに引っかかる音がした。
俺は武器から手を離した。あの、アクション映画とかで見た覚えがある、鍵爪のついた縄を発射する銃を。
その大きめ銃は小窓のところに引っかかった。それと同時に・・・
ガッ・・・ガガガガガッ!!!!!!キィィイイ!!!!!
鉄の車輪のきしむ音と共に、馬車は止まった。外では無理に止められた馬が唸っている。
・・・全て計算どおりだ。・・・こんなにうまくいくとは思ってなかったのは秘密だ。
「ど、どうしたんだ!!!!」
後ろから声が聞こえた。ははぁん、さっきのやつらとかリータたちは後ろのもう一つの馬車に乗ってるんだな?
さぁ、ここから俺の伝説の始ま・・・
ズドォォォォォンッ!!!!!!!!!!!
耳が吹き飛びそうなほどの爆音と共に、馬車は大きく揺れた。
ズドォオンッ!!!ズガガガッ!!!!バシュンッ・・・ヒューー・・・・ズドォォォオオン!!!!!!!
・・・俺、生きてる?
馬車の天井は取れ、シトリアは・・・何とか無事な感じだ。
「祐樹。無事?」
今まさに俺の見せ場を奪い、俺を殺しかけた誰かが、火薬の煙の中からゆっくりと近づいてきた。
・・・、殺されるのかもしれない。
さっきまで意気込んでいた俺だが、急に弱気になって逃げ出したくなった。