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第2話:夢と日常(2)

「今は昔・・・・・・・・清水に・・・・・御堂の・・・・」


キュルル〜・・・


国語教師の優しく小さな声が嬉しくてたまらない。

もし、今日の一時限目が世界史であったならば、

普段でも耳障りな程でかい奴の声。恐らく俺の腹は大爆発を起こしていたことだろう。

今度から古文の授業は真面目に聞こうと心に誓った。



「じゃあここの現代語訳を読んでください。

えーと・・・祐樹君どうぞ。」


この状態で声を出せと?

声と同時にこの教室に響き渡るものは何だ?


「今となっては・・・昔のこと・・・だが・・・」


「立って読んで下さい。」


さらに立てと?

さっきの発言は取り消し。国語教師を俺の中の『教師ブラックリスト』に載せます。


「早くしてください。」


あぁ・・・分かってるよ・・・言えばいいんだろ?

余裕だよこんなもの。


「今となっては・キュルル〜・・昔のことだが・・キュルッ!・いつ・・・いつ・・・」


国語教師は、腹の音が鳴る度に体をくねらせる俺に奇異な物を見るような視線を向けたあと、

ふぅ〜・・・と深いため息をつくと、


「・・・もう良いです。高橋君、続きを。」


「はい、いつの頃のことであったのだろうか、清水に参詣にきた女が幼児を抱いて御堂の前の谷をのぞいて立っていたが・・・」


た、助かった・・・。



その後何事も無く授業は進行していった。

授業が進むにつれ、腹の音は治まっていった。ずっと食べずにいると逆にお腹が一杯になってくるアレだ。


今度は国語教師の優しい声が子守歌となり、俺を眠気が襲った。

何か・・・何か楽しいことを思い浮かべれば何とかなるかもしれない・・・。

そう思った俺は、何か思い出そうと頭を捻る。


すると思い出したのは少女の声、特に楽しいことと言うわけでは無いが、

何故かふと浮かんだ。一度思い出すと耳から離れない、そんな声だった。


少女は何を言いたかったのか。

夢と言うものはその人自身の記憶やら、願望やらが誇張されて生まれるらしい、

俺は当然特に世界がどうなどと言う話に関わった覚えもない、世界を救いたいなどと言う子供らしい願望を持っていた覚えもない。


自分が意識していない中での願望と言うものもあるらしいが、どういうことなのだろうか。

似たような夢を見続けるなんて、よっぽど強い願望からでなければ有り得ないだろう。


強い願望・・・少女・・・ロリコン・・・?ロリか?ロリな少女に助けを求められるとか言う設定を欲してるのか?心の底で求めてるのか?

いやいやいや、さすがにそれは無い!無い!無い!あったとしても俺の理性が許さない!


「祐樹く〜ん?大丈夫ですか〜?」


「いや!ロ・・・」


「ロ?」


国語教師がとびきりの笑顔で返す。こういうときは確実に怒っている。


「ロ・・・ロシアについて考えてました・・・。」


教室の空気が一気に緩み、クスクスと笑い声が聞こえた。

あ・・・危ない・・・。授業中にロリがどうだとか言えば、即ぶん殴られる。

国語教師は一見若くて美人な生徒間での人気ナンバー1だとか言われているが、

実は様々な武術を会得していて、不良も彼女には従わざるを得ないとか。


顔を殴られようものなら、一撃で頬の骨が痛々しい音を放つ・・・噂だ。



「今は世界史の時間ではないですからね〜?」


国語教師が普段の顔に戻る。

助かったようだ。



キーンコーンカーンコーン・・・



「では、祐樹君、次の授業で調子に乗った態度を取ったら、

その場で・・・あと、2人っきりで補習ですからね〜?」


おぉ!うらやましい!と、男子共の声。

じゃあ変わってくれ。頼むから。


「は、はい・・・。」


「では、次回までに次のところの全文訳をしておいてくださいね〜♪」


そういって国語教師は教室を出て行った。



「・・・で、ロリコンがどうしたんだ?」


そう問いてきたのは、俺の前の席にいる友達の小林浩太。

ルックスもよく、運動もできるし面白いやつ。頭も超強並みだが、嫌味連中の巣窟に仲間入りするのが嫌で通常の下位クラスに来たらしい。

当然女にもモテる。・・・俺とは正反対の人間だ。だからこそ仲が良いのかもしれないが。


「何のことだ?」


「いや、お前さっきからロリがどうとか、少女がどうとか言ってただろ?」


どうやらいつの間にか声を出していたらしい。恥ずかし過ぎる。


「え・・・いや・・・」


俺は、この頃見ている少女の夢のことを浩太に話した。


「ふ〜ん・・ふ・・・ふ・・・」


浩太の体が震える。


「ぶわっはっは!!!少女?何だそれ?!ファンタジーかよ?!お前ゲームのしすぎなんじゃねえ?!はっは・・・やばい・・・超笑える・・ひっひ・・」


・・・まぁ、予想してたけど、こういう反応は。


「しかも何日も連続ってお前・・・ひひ・・・どれだけ執着あるんだよ・・・くくく・・・・」



「笑いすぎ。」


そういって俺は浩太の頭を叩いた。


「・・・祐樹くん?」

女の声、同じクラスの人か、名前は知らないが。



「あの、咲さんが呼んでるよ?」


教室のドアのほうを見ると、咲が俺のほうを向いて手を振っている。



「また彼女さんですかー?ったく、お熱いねぇー。」


浩太が頭をさすりながら冷やかす。


「違うっつーの。」


俺は咲のいるドアへ向かった。


後ろで浩太がさっき話しかけてきた女子に「ところでアイツさぁ、このところ夢で・・・ひひ・・」

・・・無視することにした。


「咲、どうした?」

「どうしたって!?一緒に食堂行くって言ったじゃん?!」

「あ・・・あぁ、そうだった。」

「まったく・・・さ、行こ?」


「いや、さっき食べな過ぎで満腹モードに突入したんだ。」

「何それ!まったく・・・超強の超忙しい私がわざわざ下位クラス風情のために会いに来てあげたというのに貴方は・・・」


「や、じゃあ、いいよ。」


「突っ込んでよ?!普通に嫌味な奴みたいじゃん!」

「う〜ん、じゃあ、行こうか。どうせ次は体育だし。」

「サボる気?!いや、まぁ、じゃあ、行こうか。」



2人で食堂に来た。

まったく・・・パンくらい正直どうでもいいんだがなぁ。超忙しいって、嘘じゃない癖に・・・。


「何食べよっか?」


「え?お前も食べるの?」


「あ、あぁ、うん、まぁ・・・。」


「へぇ、じゃあ俺はカレーでいいよ。」

「え、そんなんでいいの?一番安いやつじゃん。」

「まぁ、食パンよりは得をしている。」

「じゃあ、私もカレーで、オバサン!カレー2つよろしくぅ!」


「はいよ。」


一時限目から早くも食堂が開いているのは、空腹では勉強の効率も上がらないと、学長が決めたこと。だから、食堂は登校時刻から下校時刻まで常に開いている。


「はい、カレー。」


「おっ!早いねぇ〜!朝から作り置きか〜!」

咲が軽く嫌味を言う。

オバサンは気付かずに笑っているが。


テーブルの上にカレーを乗せる。


「いっただっきまーす!」


「いただきます。」


モグ・・・うん・・・作り置きなりの・・・モグ・・・不味さだな・・・


「おーいしい!!」


そしてコイツはどういう味覚をしているんだ・・・。


「ところで祐樹ー?」


「何?」


「最近さぁ・・・変な夢とか見てない?」


「え?」

「いや私、最近変な夢見てるの・・・。」


「それって・・・少女の声が聞こえたりって感じ?」


「何それ?いや、よく分からないけど暗闇の中で男の人の声が聞こえて、只管私の名前を呼んでるの。誰なの?って聞こうと思ったけど、声が出なくて・・・。」


似てる・・・俺の夢に物凄く似ている。

ただ、少女と男と言う違い。これは偶然なのか?


「俺もそれと同じような夢を見てるんだ。最近。」


「本当に?何なんだろうねぇ・・・。」


「俺もそれを聞きたいよ・・・。」


「う〜ん・・・」

困惑した顔をしながら咲はドンドンと食べ進める。

と言うかもう食べ終わってる。早すぎるだろう。


「ふー、ごちそうさまー!おいしかったー!また今度この事について話そうよ!私は何かと忙しいものでねぇ〜」

ニヤニヤと笑いながら咲は走り去っていった。


騒がしい奴・・・。


でも、より訳が分からなくなってきた。

誰かと同じ夢を見るってめったにあることじゃないはず。

しかもそれがここ最近続いているとなると、現実には有り得ないだろう。


有り得るとすればそれは例えば・・・何かで俺の夢と咲の夢が繋がってるとか・・・?

それは尚更有り得ない話だとは思うが・・・。


キーンコーンカーンコーン・・・


む、こんな時間か。


「さて・・・俺も授業に参加するか・・・。」


ひどくモヤモヤが心の中で膨張する中、

俺は体育館の方へと足を運んだ。

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