番外2:リータの道(1)
私の名前はギベルニャ・シャミューレィル=ペレプリィチル・ケルパ。
親の悪ふざけで付けられたこの長い名前は私は大嫌いだ。
「いや、悪ふざけではない。出産前日に見た映画に感動してその主人公の名前が・・・」と私の親は言った。
・・・それを悪ふざけと言うんだと思う。
ともかく明後日王国騎士団の入団試験の日。
何をするのかは聞いていないが、恐らく実技的なものを見るのだろう。
「そういえばあの映画の主人公も騎士だったな・・・。」と私の親は言う。
・・・何だか嫌な気分になった。
私の住む町はぺルニーと言う小さな農村。ちなみに小さくて甘くて美味しくて高いピッツルと言う果物で有名だ。
大抵は家の農業を継いでいくのが当たり前になっているこの町で、何故私が王国騎士団に入ろうと思ったのかと言うと、
それは3年前の話。盗賊団に村が襲われたとき、王国騎士団の人が助けに来てくれた。
その姿が余りにも格好良くて私もそうなりたいと思った。と、まぁそれだけ。
女が騎士になるって言うのは結構有り得ない話らしいが、そんなの私には関係ない。
その騎士団に憧れてからは私は家の農業を手伝うと共に、必死で剣術の練習を重ねてきた。
たまに家の仕事を休んで隣の大きな街にある依頼板の仕事に手を出すこともあり、
それで得た収入のお陰で親も私の頑張りを分かってくれたのか、騎士団の入団試験を受けることを許可してくれた。
「あの主人公も最後には転んで突き指をして死ぬんだよな・・・。」
・・・本当にそれ・・・・どんな映画だったんですか?
依頼の報酬から少しずつ貯めていたお金で馬車を借りて、私は一日かけて首都のリズレバークへと来た。
試験は明日。今日は観光しようかな。首都なんて来たことないからね。
いや、明日受かれば毎日この景色を見ることになるのだろうけど。
・・・それにしても人が多い・・・。
何だこの人の多さは。今日は祭りでもやっているの?と言うくらい。
街にはお店が沢山あって、一日中歩いても飽きないのではと言うくらい。流石首都と言うか。
「おいっ!早くしろ!!」
男が誰かを呼ぶ声。
呼ばれた誰かは何か大きな荷物を担ぎながら男の元へいき、2人で路地へと入っていった。
・・・・・・怪しい。
どうせ暇な私はその2人を尾行することにした。
長く細い道を通っていく。中には人一人しか通ることができないような道もあった。
私も少し通るのがきついくらい。いや、胸の話ね?他は全然よ。うん・・・全然・・・。
それにしてもそんな道をどんどん進める男達が凄い。
行き着いた先には小さな家があった。
中に入っていく男達を見て、私はドアから中の様子を伺うことにした。
「ここまで来れば大丈夫だよな!」
「あぁ、この場所は誰にも知られてねぇ。」
いや、私に知られてますが。
うーうー!と中で唸る声。
「おっと、起きちまったみてぇだな。おい、マスク外してやれ、丁重にあつかわねぇと。」
男が「あぁ」と言うと、ガサガサと音を立てて、次に声が聞こえた。
「何なんですか貴方達は!!」
少女の声。・・・これはもしや、誘拐とか言うやつですか?
「へっへ、この前貴女様のお姿拝見してよぉ、惚れちまったんだわ。」
そういって男はいやらしく笑った。
「わ、私みたいな何の力のない子供を誘拐したって何も意味はありませんよ?!!」
「おいおい、何言ってるんだよ。第3王女様が・・・。それに第2王女も病気で死に掛けてるらしいじゃねぇか?末は王女にだってなるかもしれねぇ、これを放っておく手は無いだろ?」
「う、うぅ・・・。」
「くぅ〜!泣いてる顔も可愛いなぁおい!コレは高く売れるぜ〜!?」
「売るのか?国を脅して金を分捕ったほうが良くねぇか?」
「いやいや、俺の知り合いで超高値で買うっつーやつを知ってるのがいるんだよ。
王族家なんてどうせ財布の紐ゆるめやしねぇ。ま、そんなこと後でいいじゃねぇか。とりあえず今は商品価値を調べとこうぜぇ・・・?」
男達が気持ち悪い笑い声を発する。
「いや・・・いやっ!!何するんですか?!!変態!!!!」
って・・・聞いてる場合じゃない!!
バタンッ!!
「やめなさい貴方達!!」
私は声を張り上げた。
男は少し驚いた顔をしてから言った。
「・・・あぁん?何だてめぇ、どこからきやがった。」
「私のことなどどうでもいいでしょう。その子を放しなさい!!」
「お前・・・ずっと聞いてやがったのか。これは生かしちゃおけねぇなぁ・・・。」
男がナイフを取り出しながら言う。
「おい、殺さないでこいつも売りつけちまうってどうだ?」
「へへ・・・お前いいこと思いつくなぁ・・・。」
そういって男は私の体を品定めでもするように見た。
「・・・ダメだな。売れないわ。これじゃ。痩せてはいるが胸もな
バキッ!!ドカッ!!!!ボコッ!!!!!ガスッ!!!ドスッ!!!!ヒューー・・・ガッシャン!!!!
・・・ふぅ、片付いた。
え?別に怒ったわけではないですよ。決して。
やっぱり人間として見る目がある人も無い人もいるわけで。まぁ、勿論この人達は見る目が無いわけですけどね?
別にそんなことで怒るなんてこと・・・いや、ただ少女を助けることが最優先だったわけで、決して胸がどうとか言うことで怒ったわけではないです。
「大丈夫?」
私は少女を縛り付けていた紐を取ろうとしながら言う。
「あぁ、全然大丈夫よ。あ、いいわ。」
そういって少女はブチィッ!と音を立てて一人で紐を切った。
「え・・・。」
「別に全然大丈夫だったのだけど、まぁありがとう。丁度ぶん殴ろうとしたところで貴方がきたから、拳を痛めずに済んだわ。」
そういって少女は立ち上がり、うぅ〜んと腕を上に伸ばした。
「え、いやさっき泣いてた・・・」
「あぁ、その方が油断させやすいじゃない?まぁ、こんな雑魚、油断させなくても余裕に倒せるけどね。」
・・・。
「貴方、騎士団の人?」
少女が私に言う。
「いえ、明日入団試験を・・・。」
「そう、せいぜい頑張ってね。」
「は、はい!」
少女はトットッと家を出て駆けていった。
・・・そういえば何で敬語で話しちゃってるんだろう。
酷く損をしたような気分になりながら、私はその場を後にした。
こんばんは、甘味です。
一応解説を入れると、ギベルニャ・シャミューレィル=ペレプリィチル・ケルパとは、リータのことです。
何故名前が違うのか、と言うのは2話で明らかになります。
ちなみにリータ編は4話構成の予定です。
1,2話は騎士団長就任のお話。
3,4話は学校で先生をしているときのお話です。
こんなに番外編を頑張ってどうするのだろうというのは目を瞑って一気に書き上げようと思います。
では、引き続きよろしくお願いします。