第19話:真実(3)
シトリア達と共に馬車に乗り込んで数分立ったか、
フランチュールとリータは珍しく仲良く会話していて、
残された俺とシトリアはまったく口を聞いていなかった。
・・・怒っているのだろうか。
こういうときは、もう謝るしかないんじゃないか?
俺はシトリアの近くへと行き、
できる限り腰を低め、
「すまなかった!!」とだけ言った。
シトリアは少しびっくりした顔をして、
何がですか?とだけ笑顔で言った。
どうやら・・・怒ってはいないようだが・・・?
「なぁ、さっきの・・・。」
俺がそう静かに言うとシトリアはふぅ、と一度ため息をつき真剣な顔で問いた。
「・・・気に・・・なるんですか?」
俺は黙って頷いた。シトリアは何か決心したような顔をして続けて話す。
「・・・分かりました。・・・祐樹さん、あなたはエクサーはこの世界でどのような存在だと考えていますか?」
どのような存在?それは・・・
「世界を救うヒーロー的な?」
小学生みたいな返答だがそれ以外思い浮かばない。
シトリアは何故か少し悲しそうな顔をしてまた話し出した。
「では・・・この世界の人口は約6億人程度。でその中で何人に一人がエクサーだと思いますか?」
何人に一人?それは・・・まぁ少ないことは確かだろう。
「10万人に一人とか?あ、これは少し大袈裟か?」
「全然違います。いや、ある意味惜しいのですが、正解は、約1.00001人に1人です。」
「・・・え?」
「つまり、10万人に1人がエクサーではないということになります。」
「・・・いやいや、だってお前、エクサーは超越する者だとか何だとか・・・。」
「本を読んだときに知ったかもしれませんが、最初10人の人がいて、そのうちエクサーは1人だけでした。
で、エクサーと普通の人の間に生まれた子供もまたエクサーとなります。
そうなると・・・当然どんどん増えることはわかりますよね?
まぁ、勿論どんどん血も薄まっていくわけですが、エクサー特有の能力は全て受け継がれています。」
「エクサー特有?」
「世界に絵を付け足せること、武器紙を使える事ですね。血が薄まることで武器紙からできる武器自体の力が弱まる、と言うのが特徴です。
多くのエクサーの描いた武器では邪族1匹も倒すことができません。」
「ふむ・・・って言うか、つまり何が言いたいんだ?」
「今、この世の中の一部ではある思想が広まっています。
・・・それは、エクサー至上主義。
つまり、エクサー以外の人間を特殊な下卑たものだと扱うことです。」
・・・何だそれ。
「冗談ではないです。エクサーと普通の人間の間での結婚はタブーとされ、人間は今後増えることも減ることもありません。」
「・・・。」
「え?」
「シトリアも・・・同じ考えか?」
そういうとシトリアは顔を赤くして怒った。
「そんなわけないじゃないですか!!!祐樹さんの目には私がそんな考えを持つような人に見えてるんですか?!私エクサーって大嫌いなんです!!」
「あ、いやすまない。分かった。・・・でも、まぁ、それで?」
シトリアは一度深呼吸して話す。
「祐樹さんが世界を救うと言うことは、この世界のエクサー至上主義を完璧なものにするのです。
エクサーのお陰で世界が救われたとなれば、当然エクサーたちは自分達のことをより優れていると過信するでしょう。
普通の人間達は今以上の差別を受けることになります。
・・・祐樹さんは普通の人間達に相当恨まれることになるでしょう。」
「・・・・・・、それで?」
「・・・え?」
シトリアは一度驚いた顔をして続けた。
「いや、何も感じないんですか?恨まれるんですよ?いいことをするのに。」
「・・・だって、俺がどうにかしなきゃ恨むも何もみんな終わるんだろ?」
「えぇ・・・はい、まぁ・・・。」
「だったらそんなこと言ってる場合じゃないだろ。エクサー至上主義?いいじゃんかそんなの完成したって。
取り返しがつかないわけじゃないだろ?そんないかれた考え、後でぶっ潰せばいいじゃんか。」
俺がそういうとシトリアは何故か怒り出した。
「祐樹さんは馬鹿なんですか?!祐樹さんはこういうべきなのに!
感謝も何もされないならこんなことやる意味ないよって!!!!こんなところ早く出て行きたいって!!!
まったく・・・全然わかんないですよ・・・・・・。」
怒ったと思ったらシトリアは大きな声で泣いた。
・・・何なんだか。
「姫っ!!どうしたんですか!!!!」
フランチュールがシトリアの泣き声に気付いて言う。
・・・あ、嫌な予感。
「祐樹さん・・・祐樹さんがぁ・・・」
シトリアが勘違いさせるのに都合の良い部分だけ言う。
「てめぇ!!!姫を泣かせるとはどう言うつもりだ!?!」
「え、おい、いや、違うぞ?なぁ、シトリア。」
シトリアは黙って俯く、心なしか震えて・・・笑ってる。はは・・・笑うのか泣くのかはっきりしろよ・・・。
「祐樹てめぇえー!!!!」
バンバンッ!!!
小さな馬車の中で拳銃の音が楽しく響いた――――――
こんにちは、甘味です。
個人的な第一章の終了もしまして、
次回から少しずつ番外編を入れようと思います。
これからも『あおしろ』をよろしくお願いします。