第1話:夢と日常(1)
「夢か・・・。」
この頃似たような夢をよく見ている。
どれも内容は、少女が俺に助けを求めているというもの。
まったくと言ってよいほど進展がない。
毎回意味が分からず質問しようと思うのだが、
声は出ない仕様になっている。
・・・まぁ、夢だからなのだろうが。
「祐樹ー!遅刻するわよー!」
母の声。
時計は・・・8時20分を回っている。・・・ふむ・・・。
落ち着いている場合ではないことは確かだ。
俺は急いで学校の鞄を持つ。
前日に準備をしておくというのは、こういう時に良いものだ。
そして急いで寝起きでフラフラとした足を叩きながら階段を降りた。
母が当然のように玄関の前で食パンの乗った皿を持って立ってくれている。
手馴れたものだな。・・・普通は慣れてはいけないのだろうが。
俺は母の持つ皿からパンを奪い取り玄関のドアを開ける、
「いってらっしゃい♪」
そう言って手を振る母に軽く手を振り返し、走り出す。
何もかもいつも通りだ。
俺の家から学校へは・・・モグモグ・・・走って5分程度。
学校の門が閉まるのは・・モグ・・・8時半・・・モグモグ・・・・
今日も・・・モグ・・・間に合いそうモグ。
バッシーン!!
後ろから急に攻撃を受けた。
まだ半分程度しか口にしていないパンは押された勢いで大きく飛んでいった。
後ろをキッと睨み振り向くと、後ろにいたのは家が近所で幼馴染の木城咲だった。
一応同じ学校だが、咲は学校内で上位の学力を持つ者が入ることができる特別強化クラスなるものに所属している。
でも、特強クラスは基本的に自分の頭の良さを誇示する嫌味連中の巣窟とされているが、
咲は殆どそういうところは無い。そこが咲の良いところ。
しかし、こういう行動は聊か勘弁してほしいところだ。
「おっはよ!」
俺の睨みを効かせた視線に気付いた咲は、俺と地面に落ちたパンを見比べるような仕草をして言った。
「あ・・・あ〜、ごめんね?」
「ごめんでパンが帰ってくるならパン屋はいらない。」
「何その例え・・・パンくらい後で買ってあげるって!!」
「本当に?」
「ホントホント!昼休みに食堂一緒に行ってあげるから!」
グゥゥウ〜・・・
俺の腹の音がひどく大きく響いた。腹は正直なものだな。
「ヒルマデモタナイ。タオレル。」
「い、一時限目終わったら行こ!ほらっ!遅刻しちゃうよ!!」
そう言って咲は逃げるように走っていった。
確かに時間が危ないかもしれない。
俺は鳴り続けるお腹を抑えながら全力で学校へと向かった。