第17話:真実(1)
静かに空を駆ける馬車の中。
「姫・・!!起きてください!!」
リータの声。
あぁ・・・眠い。
「何ぃ・・・?」
「大変なんです!祐樹さんと、姫が呼んだ女の子がいないんです!」
「あ、フランチュールね?」
まったく、人の名前も覚えられないなんて失礼よね。
「あぁ、はい・・・って、そんなこと言っている場合ではないんですよ?!」
「何が?私は眠いんですよ・・・?」
「ここはグーヅマンのいる地域じゃないですか!!!」
あ・・・。私の眠気は完全に覚めた。
そうだった・・・。そのためにフランチュールを呼んだんだった。
万が一にもこの付近でグーヅマンに襲われて墜落なんてできないから。
そりゃ危険だってのもあるけど、何しろこの地域には『あの町』があるから・・・。
「ってことは・・・祐樹さん達は落ちたのですか?」
道理でやけに揺れるなぁと思ったわけだ。
本当にグーヅマンに狙われるだなんて・・・。
「はい、先ほど運転手に尋ねたところ、襲ってきたグーヅマンを倒した後に落ちたらしいです。
祐樹さんはあの鎧を着ていますし、下は森ですから命は無事でしょうが・・・。フランチュールさんは・・・。」
「フランチュールならきっと大丈夫よ。祐樹さんならきっと助けてくれると思う。」
リータは一度、それは無理でしょうといった顔を私に向けたが、私がジッと見返すとまた話し出した。
「はい・・・ならまずは一安心ですね。」
「いや・・・問題は落ちたことよりもこの近くの町に問題があるの・・・。」
「この近くといったら・・・グォズィですか?」
「えぇ、怪我をした祐樹さんはきっとそこへ行ってしまう・・・それは何よりも避けたかったのに・・・!」
リータは不思議そうな顔をする。
「リータ・・・貴方はまだ王族に直に仕えて間もないものね、知らないのも無理は無いわ。
いえ、知らなくても・・・いいことなの。」
リータはより不思議そうな顔をしたが、普通に話し出した。
「・・・まぁ、とりあえず祐樹さんをその町に置いておくのには問題があるということは分かりました。
今すぐにでも助けに向かいますか?」
「お客さん。悪いがそいつは無理だ。」
運転手の声。
「どうしてですか?」
今行かないと困る。祐樹さんが事実を知る前に行かなければ意味がない。
「ただでさえ無茶な注文をこっちは受けてるんだ。一日で大陸を移動なんてよぉ。
これ以上回り道されたらペガサスがもたねぇんだ。グォズィまで辿り着くことなんて今更無理だ。」
「そんな・・・そこを・・・そこをなんとか!!」
ここで引き下がるわけにはいかない・・・。
「何とかって言われてもなぁ・・・。あぁ、そうだ。ここで陸に下りちまえばグォズィまで持つぞ?
翼と足じゃ疲れ方が全然違うからな。ま、時間はかかるがな。」
「・・・姫、どうします・・・。」
・・・もう諦めるしかないのか。
祐樹さんが事実を知って戦う意志を失ったら・・・それこそお終いだ。
「運転手さん・・・それでいいです。グォズィまで向かってください・・・。」
「あいよ。」
馬車がゆっくりと降下していくのが分かる。
・・・正直、祐樹さんにはシャミューシャに負けて元の世界に帰って欲しかった。
祐樹さんを呼んだのだって、只の『彼女』の予言だったというのに。
ここまで巻き込んで・・・今、自分がどんな立場にいるのか、それを知ったならどうなるだろう・・・。
祐樹さんは私を怒るかもしれない。こんなところに連れてきたことを。
ドスンッ!!
大きな着地の音を立てて、馬車はグォズィに向かって忙しく走り出した。