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第11話:ヴェルイス国暦典

俺は渡された本の最初のページを開いた。


日付は・・・メルシニア暦A-51年?ダメだ。分からない。

よく考えたら違う世界なんだもんな。日付の数え方も違うだろう。


「やっほ〜!こんにちはぁ!記念すべき77777人目のご主人様ぁ〜!!

あたしの名前は『ヴェルイス国暦典』だよ!

気軽にヴェイって呼んでいいんだからね!!!」


ヴェルイス・・・あぁ、この国の名前だっけ・・・

えーっと・・・どうしよう。女の子の声が聞こえるけど、どこから突っ込むべきなのか分からない。


「聞いてますぅ?ご主人様ぁ〜。」


バタンッ!


俺は思いっきり本を閉じた。

いや、まぁ・・・どうだろう。これは・・・どうだろうな?


よし、一度落ち着こうか。

これはただの本、This Normal Bookだ。あくまでノーマル。

声が出る本なんて聞いた事ない。あ、あぁそうか、あの音声が出るタイプのやつか?

ノリで内容の説明とかしてくれる便利な奴か?


「ムゴ・・・モゴ・・・ちょ・・フグ・・・」


「・・・あー、最近の本はすごいわ〜・・・。」


俺の本を押さえつける手に反発がある。

うん、これはアレだ。右手に力を入れすぎて左手に圧力、そのノリで左手にも力を入れすぎて右手にも・・・あれ?よくわからなくなってきた?


「って・・・いい加減にしろーー!!」


本は俺の手を飛ばし、勝手に開いた。


「ひどいですぅ!!さっきからなんなんですかぁ?!落ち着いてください!!!」


「いや、この状況で落ち着くってどうすればいいんだ?って言うか落ち着くってどういうことを言うのか俺に教えてくれ、教えてくださいお願いします。」


すると本はため息のような音を出してまた話出した。


「今のご主人様のような状態じゃない人のことを落ち着いた人と言いますぅ。」


「・・・OK、落ち着いた。本は普通喋るものだ。ってか、喋らない本なんてないよな?」


本は泣き声で答える。

「ごめんなさい〜!あたしが悪かったですぅ〜!!」


「分かればいいんだ。おとなしく閉じろ。」

「いやいやいやいや!!!!だから話を聞いてくださいってばぁ!!!!」


・・・心なしかウザい・・・。いや、ウザい。何かグイグイ来るな。


「よし、とりあえず名を名乗ってみろ。」

「さっき言ったよ?!・・・えっとですね。私は、ヴェイルス国暦典。ヴェイと呼んでください♪ご主人様ぁ★」


・・・こいつは、ネットオークションで売れば高く売れるんじゃないか?うん、いける。この妹ボイスでご主人様ならコアな人に

「何かいかがわしいこと考えてませんか?」


「・・・いや・・・別に・・・。」

・・・バレたか。


「とりあえず、何でご主人様なんだ?俺はお前を飼った覚えはない。」


「いや、本を一番最初に開いた人がご主人様・・・っていうか、ペットじゃないですよあたしはぁ!!」


「・・・15点。」

「突っ込みを採点しないでください!!」



「ま、まぁ、とりあえずヴェイ、この世界について話してくれ、50字以内で簡潔に頼む。」


「えっと・・・ヴェイルス国ができたのは・・・って、できる訳ないでしょうがぁ!!!」



「・・・・・87点」


「やったぁ!!今回は高得点です!!!・・・ってまたそれですかっ?!

・・・こほん、普通にお話ししますよ?

まず、最初のページから分かりやすいように言うので、真面目に聞いてくださいね!!」


・・・いや、普通に読ませてはくれないのか。

そう思ったが、ヴェイは勝手に話し出した。


「昔、ヴェルイスという青年がいました。

彼は不思議な力を持っていて、絵を描くことで、

それを実体化することができたのです。」


・・・武器紙のことか?


「彼はその力で民に家を与えたり、食べ物を与えたりして、

自分も含め裕福な暮らしをしていました。」


「え?ちょっと待て、武器紙の話じゃないのか?」


「いえ、とりあえず黙って聞いていてください。」

「・・・あぁ。」


「彼はその力を使い続け、彼の住む街や国・・・全世界はどんどん発達していきました。すべて彼の力で。

・・・しかし、力はあっても彼は年を取りました。

そして彼は最後の作品を描いたのです。その作品とは・・・ここです。

この世界は彼がそちらの世界で大きな紙に描いた絵なのです。」


世界を描く?信じられない。


「あ、勿論この状態を描いたわけではないです。

元々は、緑があって水があって土があって・・・・

そんな簡単な絵だったそうです。

しかし、彼はそれに加えて描いたのです。人を。」


「人を?」


「はい、生命を持つ人をです。

彼は普通の人を9人、そしてエクサーを1人描きました。何故9人と1人だったのかは分かりませんが・・・、

エクサーはこの世界に絵を付け足す能力を持つ人なのです。」


成程・・・、だったら全世界を橋でつなぐことだって可能か・・・

あれ?そういうことだよな?


「エクサーは何もないところに家を描き、普通の人にも与えました。

しかし、エクサーには不思議な縛りがありました。それは、一人一本を一生に一度しか描くことができないと言うことです。

だからこそでしょうか、この世界には物が溢れることもなく、ちょうどそちらの世界と変わらない程度の生活ができています。」


「1つ気になるんだが・・・、そのヴェルイスって奴は、何でこの世界を描いたんだ?」


「それは・・・分かっていないのです。

彼がどんな絵を最初に描いたのか、などはすべて彼の日記からの情報であって、そこに書かれていないことはまったく分からないのです。」



「そうなのか・・・、すまない、続きを頼む。」



「はい、先程この世界は大きな紙に描かれた・・・と言いましたよね?

しかし現在はその紙の殆どは残っていないのです。一部そちらの世界に残っていると聞いていますが。」


じゃあ、あの美術館の空の絵はその絵の一部だったと言うことか。


「いや、ちょっと待て、絵がないのに何でこの世界はここにあるんだ?」


「・・・それがですね、絵がなくなったことによって、この世界とそちらの世界が切り離されたのです。

切り離された・・・と言うのがどういうことなのかというと、世界として独立した時間を持ったと言うことになりますね。

そちらの世界とこちらの世界をつなぐ入り口を閉じるとあちらの時間は止まる、と言うのはそういうところからきています。

これはだいぶマズイことなのです。」


「マズイ?どういうことだ?」


「元々そちらの世界の常識から作られたこの世界は、そちらの世界と大体同じだったのです。

しかし、世界として独立したことで、この世界独自の常識が生まれた。

つまりやりたい放題描きたい放題になってしまったのです。」


「じゃあ・・・ペガサスとかもそういう非常識からの産物と言うことか?」


「いえ、それは元々います。」


「・・・あぁそう。」

見事に勘が外れた。


「邪族はその1つです。そして問題はその邪族を描いた人が・・・。」


「人が?」


「あなた方の世界の人であると言うことです。しかもそれがただの人なら問題ありません。

しかしそいつはエクサーの才能・・・いや、ヴェルイスの血を引く者だったのです。

血を引く・・・それがどういうことかと言うと、無限に世界に線を加えることができるのです。」


「それって・・・邪族作り放題ってことか?それは相当マズイことじゃ・・・」


「いえ、彼は既に死んでいます。ですから、邪族は今いるだけです。しかし、邪族は死にません。

体が真っ二つになろうと、粉々になろうとそれは再生します。」


「じゃあどうやったら倒せるんだ?」


「それは・・・邪族の心臓を持つものがいるのです。そいつは・・・世界の主と言います。

そいつの心臓を貫けば邪族は死に絶えるとかどうだとか・・・。実ははっきりとしていないのです。」


「邪族の心臓・・・?じゃあ世界の主って何者なんだ?」



「それは、ヴェルイスの血を引く者が死ぬ前に書いた最後の作品・・・

どうやらヴェルイスの人間は死ぬ前に何かやらかすのがお好きなようで。」


「・・・ホントだな。」



「さて、これで現状の説明を終わります。」


「あぁ、ありがとう。大体分かってきた気がする。」


するとヴェイは声色を明るくして、


「そうですかぁ!!良かったですぅ〜!!」


「さっきまでの感じはどうした?」


「あれはお仕事用ですよぉ〜?普段はこっちなんですぅ〜!!」

・・・。あぁそう。



「さぁて!!!何しましょうかぁ!!暇です♪暇です♪」



先程からのギャップのせいで、ヴェイがよりウザく感じた俺は、

本を閉じた。

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