第10話:旅立ち(2)
「た・・・すけ・・・て・・・。」
暗闇の中、誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある声。
「ゆ・・・うき・・・」
しかし、誰だかは分からない。でも、なぜ俺に助けを求める?
「変な・・・黒い・・・服・・・が・・・・私を・・・・・・
助けて・・・・暗い・・・・怖い・・・・痛い・・・・・・・」
何が起きてるんだ?
俺は声を出して尋ねたかったがやはり声は出なかった。
もう、このパターンに慣れてしまいそうだ。
「早く・・・早く・・・・・・」
段々と声は遠のき、俺の視界は明るくなった。
「・・・夢か・・・。」
何とも気分の悪い夢、
こっちの世界で俺のこと知っているのは、シトリアとリータだけ。となると・・・あっちの世界で何かあったのだろうか。
あっちの世界?・・・あっちの世界は、時間が止まってるんだよな?
じゃあ誰が、俺に助けを求めてるんだ?
・・・・って、たかが夢でそんなに深く考えても意味ないよな。
「祐樹さん?起きてますか?」
「あぁ、起きてるよ。」
「準備をして外に出てきてください。私とリータはもう準備できてますので。」
「分かった。」
準備って言ったって、俺はこの世界にはほとんど何も持ってきてないしな。
俺は、引き出しの中にあった衣服を勝手に取り出して、着替えて外へと向かった。
外では既にリータとシトリアがとんでもなく古い馬で小屋を引っ張るような馬車に乗って待っていた。
姫なんだから、もっと煌びやかな馬車を密かに期待していたのに。
「な、何ですかその目は!別にお金ケチったわけではないですよ!」
俺の視線に気付いたのか、シトリアは必死で弁解した。
「あまり目立つと邪族に狙われてしまうので、その対策なのですよ。」
リータがフォローを入れる。
まぁ、確かにそうかもしれないな。
「さぁ、早く乗ってください!明日までには着きたいですからね!」
俺は馬車に乗り込んだ、中は思ったよりも綺麗で一安心。
インドア派は埃に弱いからな。いや、俺だけかもしれんが。
馬車がゆっくりと走り出した。
・・・忙しく音を立てる馬車の中。
「それにしても・・・何で祐樹さんはあんなにパチンコの扱いが上手いんですか?」
シトリアが半笑いで聞いてくる。
「あ?あぁ、うちの親がな、そういう工場で働いてるんだよ。
んで、試作品だとかもらってたらいつの間にか・・・って感じ。」
「ふ・・くく・・・高校生にもなってそれで遊んでたんですか・・・?」
シトリアは口を押さえて笑っている。・・・だから言いたくないのに。
「いや、小学校の頃の話だよ。一度取った何やらってやつだ。」
「ふ・・・ふふ・・・へぇ〜・・・。」
・・・何でコイツはこんなに笑ってるんだ・・・。
「ところで、リズレバークってどんなところなんだ?」
俺は話を変えた。
シトリアはニコニコとした顔で答える。
「それはそれはいいところなのですよ!!
今はクレパのような重要保護区の住民を避難させているので少し人が多いですが、町並みも綺麗だし、空気もおいしいし・・・」
「へぇ〜・・・」
よっぽどいいところなのかと思ったが、リータが少し嫌そうな顔をして言った。
「いや・・・、流石にあれだけ人がいると、
農村部生まれの私は少しつらいものがありますね〜・・・。」
「リータって農村出身なのか?農村と言うとあの・・・風車が回ってて、主人公が最初に訪れる街みたいな・・・」
「はっ・・え、あ、いや、そんな気もしたような気のせいだったかな・・・?」
リータが慌てて答えると、シトリアが説明を加えた。
「リータは農村部出身ながらも、独学で剣術の修行を重ねエクサー達の中でも超エリートな戦士なのです。」
「へぇ〜・・・すごいんだな。」
「ま、まぁ・・・」
リータは少し頬を赤らめながら言った。
「そ、そんなことよりも姫様、特にやることもないんですし、祐樹さんに色々説明しておきませんか?
できるだけ知ってもらっておいたほうがやりやすいですし。」
「あぁ、そうですね。じゃあ、まずはここの地理くらい勉強してもらいましょうか。」
うっ・・・勉強・・・。
「大丈夫です。私はこれでも先生なんですよ?うん。教えるのはうまいつもりです。」
「まぁ、校長にお金を手渡しただけですけ「姫、余計なことは言わなくていいです。」
校長・・・あいつ買収されてたのか。
「ま、できるだけ簡単に説明しますよ。まず・・・この地図を見てください。」
リータが取り出したのは・・・世界地図?
「はい、地理に関してはそちらの世界と大体同じなのです。だから、大体地名を置き換える感じで覚えてくれれば・・・」
「へぇ・・・ってことは、今俺がいるここは、日本か。」
「や、違います。早くも違います。早くも脱落です。」
「何からだよ。ってか、何で?」
「ここは、そっちで言うヨーロッパ地方に位置しています。
あと、そちらの世界と少し違う部分があります。
1つは、この世界は全部の地方が橋で繋がれています。
ノリで姫様が作りました。」
ノリって・・・相当大規模な工事だろそれ。
「あと、決定的な違いとして、縮尺が全然違います。
日本なんて車を本気で飛ばせばで1日で一周できます。」
「へぇ・・・」
「あと、目的地であるリズレバークはオーストラリア大陸の北端付近にあります。
元々はそちらで言うロシアにあったのですが、王様が寒いのはいやだと言ったので・・・」
何だそのふざけた理由は。
「ってか・・・縮尺が小さくてもヨーロッパから馬でアフリカまで一日で・・・って
無理がないか?」
「いやいや、余裕ですよ。少し外を見てくださいよ。」
「え?」
言われたとおりに端にあった小窓から外を見る。
・・・見る・・・ってか、見えない。いや、何も見えない。
「飛んでる?」
「はい!」
「何で?」
「それはまぁ、この馬は俗に言う、ペガサスって奴ですから。高いんですよ〜。一日借りるだけでも。」
「ペガサス・・・空想の生き物じゃんか・・・」
そういえば・・・
「何で空が白いんだ?」
「えっと・・・んーっと・・・」
リータが少し困った顔で言う。
「ユーモア?かなっ!」
「いや、それで納得できたらすげぇよ。」
「まぁ〜、そこらへんはこちらでも解明途中〜みたいな。
そちらの世界だって全部が全部の現象説明できないですよね?」
「む・・・まぁ、確かに。」
「で、まぁ、話の続きです。現在邪族どもに支配されてるところが東アジア地域なんですよね。勿論日本も例外ではなしに。・・・と、邪族が絡んできたところで、私たちが眠っている間の宿題です。」
そういってリータはどこからか本を取り出してきた。
「これはこの国に古くから伝わり、現在も書かれ続けている書・・・のコピーです。
これを読めばどうしてこうなったのかも、今がどんな状況なのかも分かるはずです。」
そういってリータは俺に本を渡し、シトリアと共に朝っぱらから眠りに着いた。
さて、じゃあ・・・読んでみるか。
俺は最初のページを開いた。




