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異世界送りの神  作者: 荒唐無稽
6/11

異世界送り神の日記帳

 

「史上最も要らない文学の神」

 と、揶揄される事が多い私だが、私自身はそうは思わない。

 異世界モノだって立派な文学作品だ。異世界モノは文学に入りやすい入り口となっていると信じているし、それにより本来芽生えるはずのない花が咲く事も信じている。

 まあ、それは異世界モノに対しての私の意見であって、私の仕事は私しか理解出来ないだろう。


 ちなみに「史上最も要らない文学の神」と言うのは、最近私が好んで読んでいる小説に出てくる言葉のオマージュなので、言われて嫌には感じていない。



 さて、今回でこの日記も5ページ目となる。

 これを期に、私が日記を書くようになったきっかけについて話すとしよう。

 たまには良いものだろう? 身の上話をするのも。




 あれはいつだったか。たしか、特に珍しくもない転生者を送り終わり、時間を持て余していた時だった筈だ。



 --------------------



「良い異世界ライフを過ごして下さい」


 人払いをしておいた暗い路地裏でいつものセリフを掛ける。そして転生者を見送り、今日の日程を確認する。

 次の仕事まで大分時間がある。久し振りに人間の世界を楽しむのも悪く無い。


 思い付いたら即行動。

 半透明の身体を実体化して、

 刺繍の入ったロングスカートに

 長袖のダンガリーシャツ、

 薄いストールを羽織ったら、黒縁眼鏡を掛けて人間に化ける。


 周辺に誰もいない事を確認したら路地から出て、街まで行く。

「たまにはバスに揺れるのも悪く無いか」

 そう独り言を洩らしながらバスに乗り、心地よい揺れに身を任せていた。



 眠りそうになりながら考えるのは今日の行き先。

 街に行ったらやっぱり本屋だろうか、でも折角人間になったのだから料理も良い

 両方行くとしたら移動時間もあるので、どちらも1時間程度しか時間を取れないだろう。


「どっちに行くべきか」


 そんな事を考えていた。しかし、そこでバスに貼られた広告を見つけてしまう。

 芥川賞受賞作品が映画化だって? これは見に行くに決まっているだろう……!

 急遽行き先を変更して映画館に向かう事にする。

 私は結局のところ文学作品に目が無いようだ。



 ………………

 …………

 ……



 どうせなら良いところで見たいと思って、近い中で一番大きな映画館を選んだのだが、これが正解だった。レストランも併設されていて、上映時間になるまでそこで食事が出来るという、私の為にあるかの様な映画館だったのだ。



 最高だ。チケットを買いながらそう思った。

 私は今まで休暇などはほとんど取れないため、行けたとしてもどこか1つだけだったのだ。


 …………

 ……


 チケットを取った後はレストランに這入る。


 30分程だけではあるものの料理を食べれるのはとても嬉しい。私が日頃から小説に出てくる様々な食べ物をどれだけ食べたいと思っている事か。


 今日はその食べたい料理の中からナポリタンを選んで頼んだ。ナポリタンは小説において何度も出てくるのだ。それもどんな作品でも美味しそうに描写されていて、そのナポリタンがメニューの中でその文字を輝かせながら、私に食べろと言ってうるさいのだ。これを食べない法があるわけない。


 …………

 ……

 …


 料理が出来上がる間、私はレストランと言うことだけあって、「注文の多い料理店」を読んでいた。

 子供から大人まで知っている不朽の名作だろう。


 そんな風に私が読書を楽しんでいる中で

「相席良いかな?」

 と声をかける人間がが居た。

 周りの席はまばらにではあるが空いている、そんな訳なのに私に相席を求めるとは……


 まさか、私が読んでいる本を見て同士と思ったのだろうか? それならば願ったりかなったりなのだが……

 まあいい、取り敢えず返事だけ返しておこう。後は話の流れでどうにかなる。

「どうぞ、座って構いませんよ」

「失礼。どうも貴方がその手に持っている物が気になりまして」

 やっぱりそうだ!

 同じ本好きと語れて、映画も見れてレストランにも来れた、今日はなんて良い日なのだろうか!


 ここで関係を築ない訳にはいかない。

「ああ、これですか。私、本が大好きなんですよ。これもかなりお気に入りですね」

「ええ、私も好きです。 やまなしは今でもよく読む短編集ですよ」

「そうなんですね、他にどんな作者が好きですか?」

「そうですね………………



 ……………………

 ………………

 …………

 ……




「すいません。そろそろ時間です。これから映画を見に行くんです」

 いつまで文学談義に花を咲かせたかったが、そろそろ場内に入らないとまずい。


「いえ、大丈夫ですよ。お話に付き合って頂きありがとうございます。もしよろしければ最後に1つ聞いて良いですか?」

「はい?なんですか?」

 しまった、名前だろうか、考えてなかった。

 何か適当に文豪の名前でも名乗ろうか。

 そう焦っていた私だが、質問された内容は全く関係が無かった。

「日記は書いていますか?」


「え?あ、いや書いてないですが…… どうしてですか?」

 そう私が答えると、その人間は誰から見てもわかるくらいあからさまに落ち込んでしまった。

 なんだか申し訳無く思う。

 だが、なぜ日記について聞いてきたのだろう。


「そうですか、残念です。日記というのは私にとって小説と同じかそれ以上に価値あるものなのです。他人の日記ほど面白い物は無いと思っていますからね」


 あー、気持ちはわからなくもない。日記を読む行為は自記伝を読む行為と似ている様な気がする。本と同じ価値というのも頷ける話だ。


「なるほどですね。日記ですか。今日から書いてみますよ。貴方の言う事ですから書いて悪い事はないでしょう。その代わり1つ聞いて良いですか」

 ふむ、自分からこの様な言葉が出るとは思っていなかった。それだけこの人間に対して好意を抱いているのかもしれない。


「ホントですか! 嬉しいです。もし次会う機会があれば是非読ませて下さい。質問はなんですか? 何を聞いても構いませんよ。などうしたんですか?」


 日記に関しては読ませられるかどうかわからないが、また休暇があれば携帯しておくとしよう。

 それと質問に関しては

「貴方の名前はなんですか?」

 という質問だ。自分が答えられないのに相手には聞くのはどうかと思うが、次に私がこの格好で人間界に来る保証は無いため、もし見かけた時に声をかけれる様に、と思ったからだ。


「私ですか? そうですね……これはペンネームの様なものですが、理不尽と名乗っています」

「理不尽。ですね。覚えました。是非また会いましょう」

 この先長い間休暇は取れないだろうが、いつかまた取れた時にこの人間の名前を思い出す事が出来るだろう。


「ええそうですね。ではその時まで、良い日記ライフを」






次は1時に更新します。

これが最後になります。

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