TSした親友の恥ずかしさを軽減するために女装を始める親友の話
見知ったナンバーから聞き慣れぬ声が聞こえた。
声のトーンや慌て方は聞いたことのある物だけれども。
甲高い声音が叫び声にも近い金切り声をあげているのが、鬱陶しくて携帯を耳から離しながら話を聞いていた。
「き、聞いてくれよ!!」
「聞いてる聞いてる」
「お、おお、俺、朝起きたら女になってら!!」
「へー、そうか。それはよかったなあ」
「よくねえよ!!」
早朝からそんな話を聞かされるこっちの身にもなって欲しい。朝早く起きるのは余り得意ではないのだから。
「ど、どど、どうすればいいんだ……」
「そのまま学校に来る」
「やだよ!」
「んじゃ、サボる」
「それもいやだなあ」
「どーしろと……」
「どーすりゃいいんだよ……」
「知らん」
全くもって、こっちには関係のない話なのである。
それから暫く、奴は引き籠もった。
恥ずかしいからと、こんなの俺じゃねえとかなんとか言って。
見舞いに行ったら本当に女になっていたから、指差してゲラゲラ笑ってやった。折角の美少女が引き籠もったことで台無しなのである。
それから暫く考えた。
学校で悪態を吐く相手がいないというのは存外暇な物で、張り合いがない。
改めて必要な物は買った。
だぼだぼの男物の服を着た奴の背格好も把握したし、きっと大丈夫だろう。
一応自分なりに調べたが、奴のあれは、突発性染色体異常による性転換症とかいう物らしい。まあ、極希に発症する奴らしい。医者もお手上げの不治の病というもので、また性転換症にかかるか、その姿で生涯を終えるかの二択らしい。
「てか、医者にいったのか?」
「行った。もう元に戻らんと言われた」
「こっちが調べた限りそうだったし、そうなんだろうなあ」
一週間ぶりくらいに奴の家に遊びに行った際にその話を聞いた。
今までの頭の悪そうな態度はなりを潜め、絶望に身を焦がしている様が面白すぎたから、もう一度指差してゲラゲラ笑ってやっておいた。
折角の美少女が勿体ない。
「というわけで、俺なりに対策を考えてきた。ありがたく拝聴しろ」
「は?」
しょうが無いから、今日のお土産を見せびらかす事にする。
出資者は奴の親ではあるが。
そう何日も引き籠もられると困るらしい。
基本的にはこちらと応対するときも布団を頭から被って顔すら見せない。
折角の艶やかな黒髪が台無しである。根っこからの美少女だったら、惚れていたかもしれないのに残念だ。
「とりあえず、顔を見せろ」
「やだね」
「布団はぐぞ」
「ふざけんな! こちとら全裸じゃ!」
「……おう」
まさかの予想外の返しに言葉に詰まってしまった。
ちょっと想像して鼻血が出そうになった。残念なことに女性経験が全くもってないのである、仕方が無い。コイツ、見た目だけは美少女だからなあ……。
「んじゃ、顔だけ出せ」
「はあ?」
亀が顔出すかのように、頭だけ出した奴。うむ、やっぱり美少女である。目の下とかに隈とかできてるけど。
あらためて、背中に隠し持っていた包みを見せる。
通っている学校の女子制服だ。
「ばっ、おま、おまえ! 俺になんて物見せるんだ!!」
「女子制服。諦めて学校こい。アイドル間違い無しだぞ」
「アイドルになる気はねえよ!!」
「ほう、これをみてもか」
同じ女子制服が、もう一つ。サイズは勿論違う。
「は……?」
「お前が恥ずかしいと言うのならば、こちらも恥ずかしい思いをしてやろう」
「は……え? はあ!?」
「俺なりの最善のつもりだったんだが、お前が女子として通うのに抵抗があるなら、俺も女装して通えば、恥ずかしさは軽減されるのではないか?」
「……お前実はバカだろ」
「酷い言い草だ。親友のために夜もよく寝ながら考えたと言うのに」
最善だと思うのだが、どうもお気に召さないらしい。
同じ穴の狢が二匹いれば大丈夫だと思ったのだが。
「わかった……観念する」
「よかった。張り合いがなくて困っていたんだよ」
「その為だけにここまでするか、普通」
「してしまった後だしなあ」
「言ったからにはやれよ」
「任せろ。お前を綺麗に出来る位には色々勉強してきた」
「いや、そうじゃねえよ!?」
美少女をより引き立たせるために、必要な様々なことを調べるのは大事な事だろう。デビュー当初から没落した美少女とか見たくない。
ならば、世話をしてやるのが必然であろう。
「お前が、女装して俺の恥ずかしさを軽減するというのなら、その条件で登校してやる」
「ホントか!!」
「なんで、元気なんだよ、気持ち悪いなあ……」
「親友に向かって気持ち悪いとか、酷いな」
「はあ……まあいいや」
亀になっていた美少女が、布団から這い出す。
全くもって全裸であった。身長に似つかわしくない巨乳と括れた腰と。つまるところトランジスタグラマーという奴だ。
一瞬だけ視界にそれを収め、記憶に焼き付け、何食わぬ顔をして顔を逸らす。
「なんでおまえ、そっち向いてんだよ」
「気にするな」
「……? まあいいや……」
ごそごそと背中で音を聞き、流石に居たたまれなくなってきた。
時折、これどうやって着るんだとか言う困惑した声があがるが、無心だ。
何も見ていない聞いていない。
「てか、おい、お前も着ろよ」
「はあ……?」
「俺の恥ずかしさを軽減するために、女装してくれんだろ?」
「まあな」
「じゃあ、今、ここで着て見せろよ」
「オーケー分かった」
諦めて着替える。
一度袖を通したから着方は問題無い。
「くっ……くくく……絶望的に似合ってねえなあ!!」
久しぶりにみた親友の笑顔は、性別が変わっていようと親友の笑い方そのもので、少し安心した。
「そりゃあなあ。なんの用意もしてなければ似合う物も似合わぬ。安心しろ、明日迎えに来るときには完璧にしておいてやる」
「言ったな! 明日楽しみにしてるからな!」
「そんなみっともない着方しか出来ないお前よりもマシな物を見せてやる」
折角の美少女が台無しの格好である。
ボタンは掛け違えているし、スカートの丈は見た目に似合っていない。
「お、俺だって明日までにはなんとかするし。お袋とかに頼って……」
「そうか。では、明日だな」
「ああ、明日だ」
これが始まりだ。
そして、今はなぜか……
「な、ん、で!! お前の方が人気が出てるんだよ!!」
「我ながら思わぬ才能だったようだ……」
女装した自分の方が人気が出てしまっていた。
親友はマスコットとして可愛がられているのだが、本人は気付いていない。
まあ、当初の目的の親友の恥ずかしさを軽減するという役目は果たしてるから良しとしよう。
続きはないです。
マンガにしたい方はご連絡いただければ、ネタ案色々だします。
是非マンガにして読ませてください。