第二話3 Fake
太陽が地平線の向こうに沈んでいこうとしていた。
残暑も無くなってしばらく経つが、流石にこの季節では夕方になると半袖では少々厳しい。
「終わりか」
さっさとイレイザーを旋回させて四階建てほどのビルの廃墟を利用した駐機場に向かって移動させる。他のイレイザーも気づけばとっくに駐機場に佇んでいた。
終わりの合図に気づかなかったのか伝え忘れられたのかは分からないがとにかく遅くなってしまった。
「おーい、アサヒ! 管理係帰っちまったからそいつの鍵頼むぜ!」
遠くでシゲが手を振りながら叫んでいる。即座に踵を返して去っていったところから見てレジスタンスの会合でもあるのだろう。
アサヒはため息をつきつつイレイザーのキーを引き抜いてズボンのポケットにしまった。
「シロ!」
「ん」
シロはというと駐機場のそばの錆びたパイプ椅子をギコギコ揺らしながらこちらを待っていた。途中で寝たりもしていたが。
「帰るか。主任から何か仕事の話とか貰ったか?」
「この椅子と上着とご飯は貰った」
言われてみれば見慣れないボロいジャケットを着ている。まあ寒いからと誰かに貰ったのだろう。女っ気のない職場だからか作業員たちは女性に甘い。
「椅子は貰ったんじゃないと思うけどさ。まあいいや、仕事の話は無かったんだな? 人手不足なのに珍しい」
「そうなの?」
「あぁ、最近ここに住む奴らも増えてきたからさ。土地も資材も足りてないんだ。ある意味ここが一番日本人たちの町では発展してるのかもな」
一緒に歩き出しながらまるで日本再建だな、と苦笑する。そんな事あり得ないと分かっているかのように。
「今日の夕飯、何がいい?」
「……」
シロは無言だった。そのまま現場の敷地を出てしまう。
「どうした?」
「……私が」
「?」
少女は立ち止まってまっすぐに青年を見つめた。
「私があなたの妹に似てるから優しくしてくれるの?」
「!」
そうではなかった。今までアサヒは彼女だけでなく、こうして匿った人たちには同じように接してきた。だから、そうではない。
しかし否定できなかった。
「……」
今まで助けてきた人に家族の面影を感じていたことは事実だ。
そして、今まで助けてきた人以上に彼はこの少女に妹を重ねて見ていた。
「……いや、」
「私はあなたの妹じゃないよ」
知っていた。だが、予想以上にその言葉は重かった。
結局、期待していたのだ。
あれだけ忘れようとして、諦めたフリをして、結局忘れるどころか諦められてもいなかったのだ。
いつまでたっても、彼女があの高い壁を越えて会いに来るのを待っていたのだ。
自分のふがいなさと情けなさに反吐が出そうになる。
「……ごめんね」
その声にハッとして顔を上げる。
相当辛辣な表情になっていたのだろう。少女は微かに申し訳なさそうな顔つきになってこちらを見ていた。
本当に情けない。ありもしない妄想に振り回されるなど。
「いや、大丈夫だ」
ただ、その「ごめんね」が妹の声にあまりに似すぎていて余計に辛かった。