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亡国のイレイザー   作者: 有澤准
Sunrise
21/25

第六話1  Twilight

「クソっ!」


 アサヒは全力で高層ビル群の間を縫うようにして進んでいた。GPS反応は随分と遠い。


 眼下ではソ連人達が自分を見上げて慌てふためいたように建物の中に逃げ込んでいた。まさか民間人の居住区よりも内側にある軍基地とは。よほど秘匿にしたい物があるらしい。言うまでもなく人体実験を伴っていたシステムだ。


 やがて高層ビルもまばらになり、戦闘機や戦車がまばらに見えてくる。迎撃だろうかと構えるも、彼らは散発的に撃ってくるだけで逃げるように退却していった。むしろ、逃げる時間を稼ぐために撃ってきているようだ。


「……」


 イレイザーには確かに旧兵器では勝てない。だが、それは状況によるのだ。

 戦車の砲撃を食らえばイレイザーだって壊れる。戦闘機のスピードの前にはイレイザーは劣る。それでもなぜイレイザーが最強に君臨しているかと言えば圧倒的な武器の多様性とバランスの良さに他ならない。あらゆる敵に対して柔軟に対応できるから強いのだ。


 つまり、今の烈風はブレードとライフルしかない上に極めて装甲は薄く、砲弾が直撃すれば大きな被害は免れない非常に脆い状態なのである。よって旧兵器にも十分勝ち目はある。それでも迎撃してこないということは。


「誘い込まれている、か」


 いや、一応は旧兵器や兵士の損害を減らすためという目的もあるのだろう。だが、それ以上に基地の防衛は重要だ。それを放棄するということは、旧兵器どころか他のイレイザーさえも不要なほどの兵器が残っているということだ。


 つまり、システム「トリグラフ」。


 おそらくはレジスタンス部隊を壊滅させたと思われるものもそれだ。


「クソッ、シゲ、主任……無事でいろよ」


 先程から通信は試みているが繋がらない。生きている望みは薄かった。





「<状況終了、モニター開始>」

「<検体032-д、オールグリーン>」

「<システム032、若干のパルス信号乱れあり、警戒態勢継続>」

「<操縦士脳波リンク正常、バイタル汚染無し、応答願います、中将>」


「<問題ない。想像以上だな、これは。これでなんのサポートも無いのだろう?>」

「<はい。我々はシステムチェックのみ行っています。このまま一切の通信を遮断しても全ての機能を維持したまま活動可能です>」

「<素晴らしい。世界は変わるだろうな。我々のもとに全ての国がひれ伏すだろう。そんな機体の初代パイロットになれるとは光栄だよ>」


「<ところで、例のアンノウン機が東10km地点から接近していますが>」

「<もちろん私が出る。格納庫のシャッターを開けろ>」

「<よろしいのですか? この基地が西の衛星から監視されている可能性は十分にありますが>」

「<構わんよ。どうせ日本人のネズミどもの裏にいるのはアメリカだ。あの機体も情報局から送られてきた新型機の情報と一致している。人体実験を口実に開戦するつもりなのだろうさ。例え開戦しようとこの機体があれば勝つのは我々だ>」

「<了解しました。御武運を>」


 そして、シャッターがゆっくりと開き始めた。





「……」


 アサヒは建物と建物の間を跳ぶように移動しながら、眼前に迫る目的地の格納庫を睨んだ。シャッターは開いていない。

 しかし、屋根が丸々無くなっていた。


「……どういうことだ?」


 イレイザーは飛べない。それが前提条件だ。

 もちろんこの烈風は飛べているが、それでも自由自在に飛んでいるわけではない。助走をつけてジャンプしているというのが正しい。理由はやはりサポーターとの相性の問題だが、何よりあの鋼鉄で出来た大質量の機体が空を飛び回れるはずが無い。烈風でさえ装甲をかなり犠牲にしているのだ。

 そういった点から、屋根を開けたところで何の意味も無い。素直に正面のシャッターを開けた方が効率的なはずだ。


 ただ、考えていても埒が明かない。

 アサヒがゆっくりと様子を見るべく格納庫に近づこうとした瞬間、


「<ははははははははははははははははははははは!!!!>」


 何か、真っ黒い塊のような物が屋根の穴から射出されるようにして飛び出してきた。


 反射的に全力で後退するアサヒ。かなりのGが身体にかかり呻くも、その目はモニターから離さない。


 ソレは宙に浮いていた。


 黒い歪な楕円形の繭のように見える何か。

 よく見ると表面に凹凸があるようだが、あまりに黒すぎて日中にもかかわらず全貌は分からない。だが、そのシルエットは頭を垂れ、丸まった人間にも似ていた。


「……あれが、トリグラフ……?」

『そうだ』


 無理矢理通信機に割り込みされた。その声は日本語だ。


「……どうやって浮いてんだかもしらないけど、そこは退いてもらうぜ。妹は返してもらう」

『情報通りか。32号の息子。失敗作』

「何を知ってる」


 アサヒは建物の屋上に着地し、ライフルを構えた。相手に動く様子は無い。


『全てを。どうせお前はここで死ぬ……と、あの部隊の女オペレーターは言っていたが死ななかったのだな。まあ、今度こそ終わりだよ。だから全て教えてやる。お前が全てを失った真実を、我々がすべてを得ることになった起源をな。聞く気はあるか?』

「……興味なんてねえよ!」


 アサヒはそう叫ぶとライフルを発砲した。しかし、トリグラフは微動だにせず、その弾丸はあっさりと弾かれた。浮けるだけの軽さがあるのにも関わらず、敵はかなりの装甲を持っているということになる。


『まあ聞け。これは世界を変える最初の戦いなのだよ。最高のショーにしたいんだよ、私は。だから話してやろう、真実を。お前にはその権利がある。このトリグラフの根幹と繋がっているお前にはな』

「……」


 アサヒの無言を肯定と受け取ったのか男は満足したように話しだす。


『お前の父親は天才だった』


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