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亡国のイレイザー   作者: 有澤准
Sunrise
14/25

第四話1  Ghostly hour

 目が覚めると見た事の無い場所にいた。


 ゆっくりと起き上がると身体の節々が痛む。あちこちに包帯も巻かれているようだ。


「病院……?」


 小さい頃行った事がある病院を連想したが、それにしてはどうも暗いというか、薄汚い。天井にはボロボロのパイプが這い回っているし、壁紙に至ってはボロボロで、もともとどんな模様だったかも分からなかった。


「よう、気づいたか」


 唐突に声をかけられて振り向くとベッドの隣にあるパイプ椅子に座ったシゲがこっちを見ていた。


「シゲ……ってことは、ここは……」

「そう、レジスタンス本部だ」

「……なんで?」


 思わず口に出た言葉に対してシゲが若干呆れたような表情を見せた。


「おい、あのときお前のこと助けたの、俺らだからな」

「え、あぁ……」


 その瞬間に先ほどまでの記憶がよみがえる。あの時自分はソ連機と戦って、殺されかけていたのだ。そう、なんのためかというと……。


「! つむ……シロは! あいつはどうなった!」

「落ち着け。やっぱりお前の妹だったんだな?」

「……あぁ」

「……立てるか? ついてきな」


 自分が立ち上がろうとするのを手伝おうとしたシゲの手をアサヒは素直にとった。若干シゲが驚いた表情になる。


「……」

「なんだよ?」

「いや、いつものお前なら『いや、いい』とか言うのにと思ってさ」

「……まあな」

「まあとりあえず行くか。話はそこでしよう」


 シゲが立ち上がる。ああ、と答えてからアサヒはベッドから降りた。

 

 鉄と油臭い上に異常に広い部屋だった。雑多なガラクタや工具箱があちこちに散らかっており、部屋の向こうは真っ暗で何も見えないほどだ。部屋というよりも倉庫に近いのだろうか。


 真ん中にある長机には大量の資料がぶちまけられており、その周りにはどこかからかき集められて来たと思われる雑多な種類のパイプ椅子が机を囲むようにして並んでいた。そして、その椅子にはありとあらゆる年齢、性別のニホンジン達が座っていて、部屋に入ってきたアサヒを見ていた。


「これは……」

「レジスタンスへようこそ」


 アサヒが何か言う前に大柄な男が椅子から立ち上がって出迎えた。アサヒはその顔に見覚えがあった。いや、見覚えがあるどころではない。


「主任……」


 大柄な男、アサヒが働く作業場の主任はニヤリと笑ってアサヒの驚きに応じた。まさかこの人までもがレジスタンスだとは思ってもいなかった。


 いや。


 よくよく見れば椅子に座る面々には見覚えがある人物も多い。あれは作業場でイレイザーを整備していた男ではなかったか。あれはイレイザーのオペレートをしていた女。あれは……。


「驚いたか?」


 シゲが呆然と立ち尽くすアサヒの肩を軽く叩く。我に返って、彼は確認するようにシゲに質問した。


「あの作業場は、レジスタンスの温床だったのか?」

「間違ってはいない。お前みたいに一般人もたくさんいるよ。おかしいとは思わなかったんか?」

「おかしい?」

「なんでどこの国からも隔絶されているこの街で人間が生活できてんだ?」

「え、それは」


 それは、確かにそうだった。


「なんであの作業場にイレイザーが4機もあるんだ?」


 それもおかしかった。


「アメリカの業者はどうやって国家の目を盗んでうちと取引してるんだ?」


 それも、そうだった。


「答えは簡単だ。俺たちレジスタンスが全て手配していたんだよ。アメリカと取引をしてな。独立国家として立ち上がるためにアメリカそのものと手を組んだんだ」

「なんだって……?」

「アメリカは俺たちに資源を提供してくれている。そのおかげでこの街は生活できているのさ。いずれは独立国家としての支援も受けられる」

「ッ……アメリカだぞ! あの、俺たちが太平洋戦争で負けたアメリカだぞ!?」


 ニホンジンたちの中では未だにアメリカに対し反感を持っているものも多い。海戦での苦い記憶、そして空襲。さらに、イレイザーによる蹂躙。そういった話は若い世代まで伝えられてきている。


「そうだよ、アメリカだ。あのアメリカだよ。でもな、利用できるものは親の仇であろうがなんだろうが使うんだ。俺たちが日本人に戻るために。そのためだったら手段なんて選ばない。俺たちの国を取り返すためなら手段なんてどうだっていい。お前もそうだろ。アサヒ」

「……」

「妹を取り返すためなら手段なんて選ばない。だから今ここで話を聞いてるんだろ。あれだけ拒否してたレジスタンスの本部で」

「……そうだよ」


 そうだ。アイツを取り返すためならなんだっていい。アサヒは拳を握りしめた。


「……待て。なんで俺の妹の話になったんだ? レジスタンス的には関係ないだろ」

「あるんだな、それが」


 シゲはにやり、と笑って言った。

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