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帝都決戦 後日談Ⅲ


「失礼するよ」


そう呟いて、皆が集まっていると言われた部屋の扉を開ける。

既にそこには数人集まっていた。

と、言ってもほとんど見慣れた面子が数人。


「遅ぇんだよ」


鎌瀬山釜鳴が吠えるように呟く。

その両隣には彼の弱みとも足枷とも言っていい、この世界に彼を縛り付ける二人の存在。

ニーナとクルムンフェコニ。


そしてその三人の横には……。


「太郎様。此度の革命、お二人が名を連ねているとお聞きした際はまさに心臓が止まる思い。私めは王国勇者の管理不足との罪状で地下で帝都革命まで軟禁されておりました」


一人の騎士が、僕になんとも言えない笑顔で話しかけて来た。

その横にいる鎌瀬山は、はぁ、とため息を吐いた。

恐らく鎌瀬山も同じような目にあったのだろう。


しかし……。

ここで僕は目の前の騎士を見て、思う。


「……誰だっけ?」


「エ―ゼルハルトでございます!!よもや私の存在を忘れておりましたね!?お二方!!鎌瀬山様も同じような反応をされましたよ!?」


「ごめんごめん。忘れてるっていうのは嘘だよ。帝国に君が居たのは帝都に来るまで忘れていたけどね」


「軟禁され、助け出されたら革命……と思いきや異形な化物が帝都を闊歩するパンデミック……私めのショックのほどがわかりますでしょうか!?」


「わからないよ。けど、君がいてよかったよ。救われた人も多くなったし、結果オーライだと思うよ」


「悪びれる様子すらございませんね……」


「君が勝手に捕まっていただけじゃないか」


王国騎士団 第一騎士団副師団長 エ―ゼルヘルト・シュタインバッハ。

王国が誇る『緑深の剣』

今目の前にいる彼はなんとも頼りない感じではあるが、ONOFFをきっちりとするタイプだったと確か記憶している。

彼と話したことも王国で数度しかないし、記憶に怪しげな部分もある。


けれど、彼の実力はこの世界では人類最高峰に位置することは事実。

帝国騎士団長達とも肩を並べることだってできる。


確かに彼は召喚したばかりの鎌瀬山達に敗北しているが……召喚当初ならその技術の差で『勇者』に勝てた実力を誇る王国が誇る若き騎士。

どうやら、『限外能力』も鎌瀬山達には隠していたようで彼の実力は帝国騎士団内で比べるのなら上位層に遜色はないだろうね。

今回の帝都では『限外能力』を用い帝都一部を要塞化し一般市民を守っていたらしい。

まぁ、どうでもいいことだ。


僕はなおも文句を言いたそうなエ―ゼルハルトから視線を外し、辺りを見回す。


どうやら、いるのは鎌瀬山達とプラナリアとガーナックだけらしい。


「喰真涯は?」


帝国に存在する一人の勇者の名を挙げる。


喰真涯健也。

革命時は旧帝国側についており、九図ヶ原たちと楽しくやっていたそうだが……。

実際のところ、楽しくやっていたのは彼の身体を乗っ取っていた幻想種だったようで。


例えそうだとしても。

国内に向けては、九図ヶ原や呂利根と同程度には蔓延っていた汚名が消える事はない。

中身がどうであれ、帝国勇者・喰真涯健也が行った悪行は帝国に傷跡を残し、彼の姿を見ただけで恐怖に顔を染める者も少なくは無い。


「あ?あー……あいつはいつも通り芽愛兎んところだよ。あいつがここに居ても何も意味ねぇしな。公国に行くわけねぇだろうしよ」


「それもそうだ。いやまぁ、僕としては喰真涯と交友を深めときたくてね。なんか僕避けられてるし」


「そりゃろうだろ。普通の奴はてめぇになんざ極力関わりたくねぇだろうがよ」


鎌瀬山はここぞとばかりに僕に暴言を吐き捨てる。まったく、可愛いなぁ。


喰真涯については、帝国革命が落ち着いたときにほんの少し会っただけでそれ以来会っていない。

いや、きっと彼が意図的に僕に会わないようにしているのだろうね。


彼の限外能力は、其れ一つでまさに何でもできると言ってもいい。

僕一人の場所を把握して、決して会わないようにするなんて簡単な事だろう。


……別に、本気で会いに行こうと思えば会いに行ける。

けれども、彼女が……芽愛兎が予想以上に今回頑張ってくれたからね。

束の間の間、二人だけにしてあげるのもいいだろう。

どうせ、その時になれば喰真涯の方から接触してくるだろう。


喰真涯は『暴食』を目撃してるし、芽愛兎の記憶喪失は『暴食』の副作用のようなものだ。


僕を危険視して警戒しているのは、裏を返せば僕に興味があるということ。


いずれ、接触してくるだろうし焦る必要はない。


思考して。

ふと、扉に目を向けると、それはガチャリと開く。


「っち」


鎌瀬山の舌打ちが部屋内にに響き、プラナリア達もつられて彼の視線の先を見た。


「貴様らが生き残りか。……必然、か。所詮、九図ヶ原などゴミに等しい」


声がした。

室内の空気が、変わる。


プラナリアとガーナック、エ―ゼルハルトは唾をのみ込み、緊張に身体を強張らせて。


「ひう」「……ッ」


ニーナは僅かに声を漏らしその小さな身体に震えを見せて、クルムンフェコニの瞳はその人物を見た瞬間に全身を震えさせ鎌瀬山に抱き着いた。

クルムンフェコニとニーナを支えながら、鎌瀬山はその人物を忌々し気に睨み付ける。


空気は緊張で張り詰め、その声の主は一歩踏みだし、呟く。


「九図ヶ原如き小物がどうしたところで騒ぐまでもない」


最後の帝国勇者。

帝国勇者最強にして、帝国の頂点。


帝国勇者・不動青雲。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「不動様は知っていられたのですか?勇者九図ヶ原が何をしていたのかを、こうて……バルカムリアがどのような状態にあったのかを」


緊迫し、静寂に包まれた室内でプラナリアは……新帝国皇帝は呟いた。

プラナリアの呟きは、当然だ。

帝国は、深く奥まで幻想種に入り込まれ、その中枢は破壊されつくしていた。

そもそも、皇帝が敵の手に落ちていた時点で、勇者が利用されていた時点でゲームオーバーなのだから。

その状態からひっくり返せたプラナリアは奇跡でしかない。

……まぁ、僕のごり押しがほとんどだったけど。


プラナリアの問いに、不動は数瞬考えるそぶりを見えると、その口角を上げる。

漆黒の長髪が揺れ、その整った顔はプラナリアの顔の寸前まで迫り、笑う。


「だとしたら?」


「……え?」


「貴様は終わりだがな」


いつの間に顕現させたのか。

不動の固有武装であろう蛇腹剣はプラナリアの首筋寸前で止まる。


恐らく、プラナリアにも、ガーナックにも、エ―ゼルハルトにもその動作は視る事は出来なかっただろう。

数秒遅れで、急ぎでプラナリアを守ろうとやっと脳が認識し指先を動かしたところだ。


不動の動作を目視出来たのは僕と……以外にももう一人。


「ほぅ」


不動が感嘆したように、声を出す。

不動の視線の先。自分の固有武装とプラナリアの首筋の間。

その極小の隙間は、空間は歪んでいた。


「てめぇも革命を起こす気かよ……」


鎌瀬山の限外能力

空間移動(ムーブメント)


「九図ヶ原に勝利した、というのは嘘ではないようだな」


納得するように、値踏みするように不動は鎌瀬山を見て。

その表情を歪める。それは、次の獲物が、玩具が出来たといったような微かな笑み。





残念かな、不動。……その玩具(鎌瀬山)は僕のものなんだ。




不動は、鎌瀬山に対して動かそうとした手を止める。


「……ただ、試しただけだ。俺が九図ヶ原などと与している、などと疑われたものだからな、不愉快だ」


不動は、そう呟くと固有武装を消した。

そして、僕の方を振り向く。


その表情もまた、冷笑み。

しかし、その美しさすら感じる笑みは寒気がする程に、冷酷だ。


「だから、そう殺気を出すな東京太郎。我慢できなくなるだろう?」


「やだなぁ、そんなことしてないよ」


僕は呟く。

僕が一瞬出した殺気を、彼は察知できたらしい。

まったく、めんどくさい勇者がまた一人。


「ひ、ぐ……」


遅れて、プラナリアが自らの身に起きる可能性のあった最悪の未来を垣間見て、ガーナックに支えられた。

人族の中では上位の実力と言っても、人族最上国家の皇帝であるとしても。

所詮人族だ。帝国勇者最強に手も足も出ないのも仕方ない。


この調子じゃ、プラナリア達はしばらく使い物にならないだろう。

鎌瀬山もあぁ!?だのしか言えない脳無しだし。

仕方ないな、僕から切り出すしかないか。


「公国から帰ってきておつかれのところ悪いんだけど聞かせてよ不動。僕等これから公国に行かなくちゃならなくてね」


「……霧は時期に消える。外で足止めをされていた増援も直に城塞へと合流するだろう。面倒なギミックだったが、種が分かれば造作もない」


霧。

それは公国を覆っていた、出入りの出来ない霧。

この霧のせいで、増援は足止めされ公国内の状況もほとんどわからず仕舞い。

公国内の状況は常に時系列が不確定な断片的な情報だけしか入らない厄介な霧だった。


それを不動は打ち破ってきたのだろう。


「幹部を数人。グラハラムとも斬り合い俺は満足した。後は貴様らで好きにしろ」


「グラハラムには勝てなかったのかよ?逃げて帰って来たってわけか。情けねぇな」


鎌瀬山が挑発するように、不動へと言葉を放つ。

……僕が傍にいたせいで感覚が鈍っているのかな?

と、考えたがこの愚かさは今に始まったことじゃない。

むしろこの愚かさの代名詞が鎌瀬山釜鳴と言ってもいいだろうね。


「……足手まといがいたものでな。王国勇者がいなければ、今頃は公国も平和だろうな」


「あ?」


「特に英雄王。あのザマはなんだ?失望した。所詮クズか」


「ッ!!てめぇ!!」


鎌瀬山が激昂するのに時間はいらなかった。

彼は英雄王に関していえば、侮辱されれば沸点はかなり低い。

彼の憧れであり、目指す姿の一つ。それを侮辱された鎌瀬山は拳を握りしめ不動にとびかかろうとするが。


「落ち着きなよ鎌瀬山。君はその腕の中の二人をまた危険に晒すつもりかい?」


僕の言葉で鎌瀬山は止まる。

二人を見て、やっと冷静さが戻ったようでその拳を緩ませて舌打ちを放つ。


「手を出されかけたんだ。これくらいはいいだろう?」


そんな鎌瀬山を視界に捉えながら、僕に向かって不動は呟く。


その手には、固有武装である蛇腹剣が握られ、薄く紅い血がついていた。


「……うん。これは鎌瀬山の落ち度だ」


「あ?てめぇ太郎何言って……」


「か、釜鳴!!」「カナリさん!!」


焦ったように、声を荒げるニーナとクルムンフェコニ。


鎌瀬山が僕の言葉に反応して言葉を発しようとした瞬間。

ぽたぽた、と自分から血が流れていることに気づく。


それは、鎌瀬山の頬。

深く切られたそこから、血が流れだしていた。


「な……」


鎌瀬山は頬をぬぐったその手の甲に、べっとりと血がついているのを見て愕然としていた。

さっき、不動がプラナリアに放った試しの一撃はその言葉通り彼にとってはほんのお遊びだったのだろう。

そして、今のが不動の本気……否、本気でないかもしれない。


「生き急ぐなクズ。……貴様は運がいいな。その首が繋がっている」


その不動の言葉で、鎌瀬山もやっと実力差が自分が想像していたものと大分開きがあったことに自覚したのだろう。

いつ自分が切られたのか、いつ固有武装を顕現させたのか、その動き全てが見えなかった事実が、彼の自尊心を打ち砕いた。

いい機会だったのかもしれないね。九図ヶ原に勝って自覚は無いにしても少しばかりか調子に乗っていたようだったし、いいお灸になったよ。


二人の幼女に解放される勇者。

大人しくなった鎌瀬山を見ながら不動はつまらなそうに、固有武装をその手から消し


「公国は援軍により時期に安定する。領土は半分奪われたままだが、グラハラムに対し公国の被害がそれで済んだのは上々だ。戦果としては十分なものだとは思うがな」


そう呟き、もう語る事はない、といったように扉に手を掛け。

思い出したように、呟いた。


「幼女華代は諦めろ。あの勇者はもう、公国にはいない」




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