帝都決戦 Ⅸ
大分遅れました。更新再開します。
帝都では、幾人もの強者達が互いにぶつかり合っていた。
そんな中、ルカリデスは幻想種ユニコリアと対面していた。
「いらっしゃい、小鬼さん」
齢20代前半の容姿からは考えられない程圧倒的な覇気。
ルカリデスと同じように頭に一角の角を生やす女性は全身を薄蒼い炎で包んでいる。
「いきなり転移させられたと思ったら……化け物と遭遇する羽目になるとはな」
「実力差が解っても飄々としたその態度素敵ね」
「そりゃあどうも、でだ、あの転移はあんたがやったのか?」
ユーズヘルム州にいた筈のルカリデス達全員を屋敷ごと帝都に跳ばした転移。
あれだけの規模になると、帝都市民全員の魔力を使ってやっと発動できるかどうかといったクラスの莫大な魔素が必要になる。
目の前に立つ女性一人で出来る代物ではないと普通なら思っていただろうが、対面して分かるその圧倒的な魔素保有量にまず間違いなくこいつがやったと確信していた。
「そうね、私が仕掛けていたものよ。喜んでくれた?」
「これに喜ぶ奴は真性の変態だけだ」
いきなり空から落とされて喜ぶ野郎になったつもりはルカリデスにはない。
「あら、残念」
口ではそう言っているが、微塵も残念がっていないことは馬鹿でも分かる。
「悪いが下らない世間話だけなら切り上げてとっとと帰らせてもらいたいんだが」
「そんな慌てなくても良いじゃない?せっかちな男は嫌われるわよ?」
瞬間、ルカリデスの足元から業火が噴射した。
突然の一撃にルカリデスの身体が硬直し、業火に身を包まれる。
「たく、いきなり酷いな。せっかちはどっちなんだか」
燃え盛る炎の中、平然と姿を現すルカリデス。
炎に対しての耐性があるこの身体だからこそ無傷ではあるが、他の仲間がくらっていれば塵一つ残らず、焼却されていただろう。
それを自分に感知されること無く、予備動作なしで放つその技巧。
それは魔術に卓越した魔族の中でも、一握りにのみ許される業。
それだけに目の前に立つ魔族がルカリデスには恐ろしかった。
「ちょっとしたアプローチのつもりだったのだけど、お気に召さなかった?」
柔和な笑みを浮かべ無邪気に答えるユニコリア。
それに対してルカリデスは苦笑しながら。
「生憎、そういった手合いの面倒な女は間に合ってるんでね」
「あらそうなの?でも確かに貴方、女性に振り回されるタイプに見えるわ」
「……まあな、現に今がそうだろ?」
皮肉を言いながら、ルカリデスはこの状況の打開策を練っていた。
先ほどのユニコリアの攻撃は決して何の意味も無く放たれたモノではない。
あれは明らかに牽制の一撃。
逃げようと考えたルカリデスの思考を見抜いて、自分はいつでもお前を殺せると見せ付ける為に放ったのだ。
「ふふ、それならもっと貴方を振り回していいかな?貴方に伝えたいことがあるの」
「聞きたくないが、聞かないと言う選択肢は無いみたいだな……」
「大丈夫簡単な話、『憤怒之鬼王』よ、私達の仲間になりなさい」
「……『憤怒之鬼王』? それは俺の事か?」
聞きなれない呼び方をされ、戸惑うルカリデス。
「ええ、そうよ。貴方は鬼族という括りから解き放たれたの。私達が造り上げた『蠱毒の血』によってね」
「貴方は自我を残し、幻想種へと至った唯一の存在、私達にとっても特別な存在なの。だから仲間になりなさい。決して悪いようにはしないから」
『蠱毒の血』。帝国勇者である九図ヶ原を筆頭とした帝国上層部が国全体を利用して研究していた薬品。
九図ヶ原と同じく帝国勇者・喰真涯健也の血を媒介としたそれは肉体のリミッターを外し、生物としての格を劇的に向上するが、精神崩壊、あるいは肉体の崩壊を起こしてしまう劇物だ。
しかし、それの目的は幻想種を人工的に造り出す事だとは考えてもいなかった。
幻想種といえば、太古から存在する王者の名を冠する最強の種族。
その幻想種の王ともなれば、四大魔王の中でも群を抜いて強いという話だ。そんな高位種族に自分が仲間入りしたと言われても実感が沸かないのが正直な話だ。
「俺が幻想種……」
「そうよ、そして、強制はあまりしたくない」
「随分と優しい事だな」
「やっと見つけた新しい仲間だからよ」
その言葉には嘘が感じられなかった。
確かにユニコリアは命令ではなく、勧誘という対等な立場をとってきた。
彼我の実力差を考えれば隷属を要求してきてもおかしくないのにも関わらず、あくまでもルカリデスを尊重する形でだ。
それはつまり仲間として迎え入れたいということなのだろう。
しかし、帝国側に今更つく気など更々無かった。
「悪いけど、仲間にはなれない」
「考え直しなさい……強引に連れて帰らなくてはならなくなる」
それは不本意なのだと彼女の顔は訴えていた。
ルカリデスとしてもこのまま戦闘になれば勝てない事は分かりきっている。
昔の俺なら間違いなく、この勧誘を受けていた。
勝てない戦はしない主義だったから。
しかし、今の俺は変わってしまった。
勝てないからと従えるほど利口ではないのだ。
理性を感情が上回るのだ。聞こえるのだ。
『抗え』と。
懐かしい声がそう叫んでるのだ。
だから俺は、
「話は終わりだ、殺ろうぜいい加減よ?」
消耗した体力は殆ど回復した。もう話し合う必要もない。
後は強者が全てを決めるだけだ。
ルカリデスが臨戦体勢に入ったのを感じ取ったユニコリアはうんざりしたように溜め息を吐く。
「貴方は賢い人だと思っていたのだけど、残念」
「……買い被り過ぎなんだよ、どいつもよ」
刹那、二つの影が交差した。
直後、ルカリデスは弾き飛ばされる。
何とか空中で体勢を立て直し、苦悶の表情を浮かべながらも着地する。
「ちっ……」
たった一度の撃ち合い。それだけで歴然とした力量差が存在している事が明確になった。
分かってはいた。分かってはいたが。
それでも、ここまで差があるとは全く笑えない。
腕力、速さ、技術。どれもが超一級品。
しかも速さだけでいえば、今まで見てきた誰よりも速い。
恐らく、王国勇者『東京太郎』よりも。
「威勢が良いのは最初だけ?」
「ちっ」
ユニコリアの挑発に乗る形でルカリデスは『憤怒』を解放する。
感情をエネルギーへと変換し掌に圧縮していく。
その人族では有り得ない程の魔素量を見てユニコリアは僅かに身体を奮わす。
「それよ……」
何故、ルカリデスが幻想種へと至ったのかユニコリアは理論どころか経緯すら理解していない。
不可能と言われていた研究。ユニコリアも半ば惰性で続けていただけだった。
だからこそルカリデスの存在を聞いたとき狂乱した。
不可能を可能とした存在。新たな同士の誕生を。
だから、その力の一端を目にして心が震えた。
まだ、己には届きえない存在。しかしその者が撃ち放とうとしているものは己を傷付けるに値する一撃だ。
まだ、成り立ての幻想種にしては破格の力。
欲しい。
ユニコリアは対抗するための術式を構築していく。
御互い、得意系統は火。
相性の差が存在しない今、勝敗は純粋な力同士のぶつかり合いで決まる。
ルカリデスの罪火の権能とユニコリアの魔術はほぼ同時に発動する。
「紅蓮ッ」 「千華」
ルカリデスの手元から弾けるように火花が舞い、刹那爆発と共に罪火の権能『紅蓮』がユニコリアを襲う。
一方、ユニコリアは無数に咲き誇る花のように火が宙を舞う。
第十一階悌『千華』
ユニコリアが好んで使う火系統の魔術であるが、威力、範囲共に十一階悌には満たないとして人間界では評価が低い魔術の一つであった。
評価が低い理由としては単に十一階悌を扱える者がほぼいないというのと、高位の魔術は複数人で使用するモノなので何度も扱えるモノではなく、一撃の威力、範囲に特化した魔術が好まれるからだ。
では何故、ユニコリアがこの魔術を好んで使うのか。
それは操作性という点で他より圧倒的に優れているからだ。
基本的に魔術は術式の構築の際に方向性を決定する。
その為、発動後に魔術の方向や出力の変更といった操作は再び術式を構築し直さなければ不可能であるのだが、『千華』においてはその枠に入らない。
『千華』は一言で言うなら、変幻自在の炎だ。
魔術の発動後も持続的に操作可能の魔術であり、単純に放てば良いというものではなく、どう動かすかも逐次、術者が決定付けならない。
今回、ユニコリアは炎の花弁で障壁を造り出した。
その幾重にも張り巡らされた炎の障壁は並大抵の威力なら完全に防ぎきれる強度を持っていた。
しかし。
「__ッ!」
ルカリデスが放った炎線はその障壁を全く異にも介さず全て貫き、ユニコリアを呑み込んだ。
「やったか……?」
ルカリデスは突きだした手を降ろし、立ち尽くす。
苛立ちが炎へと変換された為、急速に頭が冴えていく。
ドレッド相手に使用した対城規模の超広範囲消滅能力『烈火』とは違い、直線方向に爆発的に加速し放たれた熱線『紅蓮』は瞬間的な貫通力においては『烈火』をも上回る。
油断していた不意を突いた今の一撃をまともにくらったのなら無事な筈がない。
「今の一撃は素晴らしいわ」
静寂の中、拍手が響き渡る。
ゆっくりと歩み煙の中から姿を現したユニコリアには傷一つ付いていなかった。
「効いて……いないか」
全くの無傷のユニコリアを見てルカリデスに動揺が走る。
あの速さに加え、耐久も桁外れだと言うのか?
「勘違いしないで、貴方の放った一撃は確かに私に通用し得た」
ルカリデスの考えを読んだかのように答える。
「けど、それは直撃したのならという話。貴方は私の障壁を全て貫いたと思ったのかもしれないけど、残念私の方が一枚上手だったようね」
ユニコリアは己の障壁がルカリデスの一撃を真っ向から受けきれないのを悟り、咄嗟に障壁を三角に折り曲げる形にすることで受け流すことに成功していた。
「次は私から行くわ」
ユニコリアは宣言と共に一振りの槌をその手に顕現させた。
その槌の蒼く透き通った円筒状のクリスタルが光を反射させ耀いていた。
「あれは」
ヤバイ。
一目見てそう感じた。
「炎に耐性がある貴方なら耐えられるわ……。固有武装 蒼炎槌『神楽』」
ユニコリアが一振り槌を軽く振るうと眼前に焔の一角獣が一匹顕現した。
揺らめく炎の獣は意思があるかのように力強く立ち、此方を見ている。
「行きなさい」
その言葉と同時に一角獣は加速する。
ルカリデスは反射的に身体を逸らす。
「くっ!」
ルカリデスは蒼き軌跡となった炎の獣に集中する。
その姿は速く、視認するのも困難だ。
だが、対応出来ない訳ではない。
迫り来る蒼の閃光を紙一重でルカリデスは避けていく。
しかし、只の現象でしか無い筈の炎が何度避けても此方を捉えてくる。
「厄介だな」
意思があるかのように変幻自在に動くのであればこのまま避け続けていてもじり貧でしかない。
それなら此方も同等な威力をもって打ち消すしかないが、見たところかなりの熱量を有しているのが見てわかる。
ルカリデス自身この選択をしたくはなかったが、四の五の言ってはいられない。
直進で突撃してくるタイミングに合わせて、大きく拳を振るう。
「ラァッ!」
風を切り音を置き去りにした光速の一撃は焔の一角と真っ向から衝突し合い、爆風が巻き起こる。
その弾けた膨大な熱量にルカリデスも顔をしかめる。
吹き飛ばしたつもりなのに肌を焦がすだけの熱量が伝わってくる。
焼け焦げた身体を見て、もしこれを直撃していたのなら己の身体は耐えきれなかったと理解する。
さて、後何回防ぎ切れるか。
粘って十数回、一度でもミスれば終わり。となるとこのまま受けの姿勢でいるわけにいかない。
どのみち不利な状況には変わりねえなら、俺の得意な殺り方をやらせてもらおうか。
そう判断したや直ぐにユニコリアに向かって突撃する。
ルカリデスが選択したのは超近接戦闘である。
元が鬼族であるルカリデスにとって遠距離においての撃ち合いより、純粋な殴り合いの方が得意だ。
それにユニコリアの技はどれも中遠距離向きで接近さえしてしまえば己も巻き込むことになるのでそう使えなくなる。
「狙いは悪くない」
距離を一気に詰めにかかるルカリデスに対して余裕の表情を崩さないユニコリア。
それだけの実力差があるのは理解しているが、舐められていることが不快であることに代わりない。
大きく脚を踏み込み、舐めきったユニコリアの顔面に向かって豪快に腕を振り回す。
あえて隙を見せた大振り。避ける時間もそれに合わせてカウンターを撃つのにも十分な猶予がある一撃。
しかし、ユニコリアはそれを真っ向から受け止めることしかしなかった。
俺の実力を計っている。
だから敢えて俺の土俵に立ち、全て真っ向から馬鹿正直に応戦しているのだろう。
「舐めんなぁっ!」
振りかぶった体勢から上体を起こし、もう一方の拳でアッパーを放つ。
ユニコリアはその死角から振り上げた拳に視線すら向けず横から軽く小突き、結果、拳は空を切る。
だが、動揺は無い。
この程度反応される事は分かっている。
大きく踏み込んでいた軸足は動かさず、アッパーを放った事で前に来た後ろ足で大外刈の要領で脚を払う。
流石のユニコリアも反応出来なかったようで狙い通りに直撃するが、体勢が僅かに崩れる程度で倒れる迄には至らなかった。
だが、隙は作れた。
ユニコリアが体勢を立て直すより速くルカリデスは拳による乱打を打ち込んだ。
ここで初めてユニコリアに攻撃がヒットする。
しかし、ルカリデスの顔は晴れない。
硬い。
幾ら高貴なる種族とはいえ、余りに硬すぎる。
そのせいで自分が殴っているのが何なのか分からなくなるほどだ。
何故、これ程までに硬いのか。理由は分かっている。
全ての生物の根源である魔素。
魔素が多ければ多いほどその生物の格は高まり、強く硬くなっていく。
つまり、ユニコリアの身には俺の攻撃が通らないほど膨大な魔素を宿していることに他ならない。
一撃一撃が大地をぶち抜く威力を誇る鬼の拳。
勇者にすら通用するその力が目の前の相手には一切通用しない。
化け物だと言いたいところだが、この強さは可笑しい。
余りに強すぎるのだ。
勇者と言うものを何度か見てきたルカリデスは冷静な判断の元、彼我の実力差を理解していた。
一騎当千の人類の希望、『勇者』。
確かに彼等は強い。類い稀なる身体能力、膨大な魔素量。
そして何より、『限外能力』がだ。
昔の自分なら相手にすらならなかっただろう。
しかし、今の自分には勇者に匹敵するだけの力があると自負している。
その自分が相手にすらならないこの目の前に立つ幻想種である彼女は何故ここにいるのか?
帝国勇者の部下にしては強すぎる。何が目的で何故協力しているのか?
目的は何となく分かっている。幻想種を生み出す事だ。
彼女の言葉を推察するに今まで実験を多くしてきたのだろう。
「考える暇があるなんて余裕ね」
豪快に振るっていた両腕を掴まれる。
そして、開いた胸元に業火が撃ち込まれた。
「ぐぅっ!」
思考していたとはいえ油断は一切していなかった。
だが、それでもユニコリアの動きに反応すら出来ない。
「なあ」
「仲間になる気になった?」
「いや……そもそも、あんたは仲間になれって言ったけど、あんたの仲間達ってのは誰なんだ?帝国の仲間じゃないのか?」
そのルカリデスの質問にユニコリアは一瞬きょとんとした目をするが、直ぐに納得行ったように頷く。
「理解していなかったの貴方? 私は幻想種よ。幻想種ユニコリア・ホーンデッド。人種如きと仲間の筈ないでしょ?」
その言葉が全てを物語っていた。
ここまで帝国を荒れに荒れさせたのも対等では無く、只の実験動物としてしか見てなかったから。
実に魔族らしい考えだと言えるが今のルカリデスとは相容れない思想だ。
「つまり、実験が終わったから成果を持ち帰っておしまいってか」
「勘違いしないで貰いたいのだけど、実験を薦め、広めたのも彼等の意思よ。私はただ、レシピを見せただけ」
そう言われるとルカリデスも何も言えない。
人の愚かさと言うものをよく理解しているから。
だから、
「酷いね、その意思がねじ曲げられたものだとしても?」
誰かがそう口を出した。
突如現れた人物に二人は驚き、戦いの手を止める。
「あんたは……」
「貴女は……王国勇者の怪物さん」
「どうも、数日ぶりかな? つい面白い話を小耳に挟んだもんで立ち寄ってみたんだけど邪魔したみたいだね」
「……どうやら少し遊びすぎたみたい」
ルカリデスを連れて帰るだけなら意識を奪って強引に連れ去れば良かった。しかし、折角生まれた新たな仲間に対して手荒な真似をしたくなかったユニコリアはルカリデスが諦めるまで付き合うつもりだった。
その結果、派手な戦闘になり己と同等の実力を持つと思われる東京太郎を引き寄せてしまった。
「また、前みたいに逃げられる困るな、色々と話したいこともあるし」
ユニコリアが逃げる雰囲気を漂わせたのを感じた太郎は1歩詰める。
「話したいこと、ね。私は怪物さんと話すことなんて何もないわ」
ユニコリアは飛び退きながら槌を振るうと炎の獣が太郎に襲い掛かる。
その表情には先程までの余裕は無かった。
「そんな事言わないで少しは僕の愚痴を聞いてくれよ、君のせいで色々とめちゃくちゃになったんだ。貰う筈の帝国もこんなぼろぼろにしてさ」
太郎を貫こうと四方から獣が同時に襲い掛かる。
高速で飛来する蒼き閃光。それら全てが回避する素振りすら見せない太郎に直撃し業火が舞い上がる。
火力、速度共に『烈火』を超えている。
如何に勇者とは言え、直撃したら只じゃ済まない一撃の筈だが。
「おいおい流石だな……」
ルカリデスは呆れた声を洩らしてしまう。
それも仕方のない事で焔の中から出てきた太郎には火傷一つ見受けれなかった。
そして、太郎はと言うと何事も無かったかのように会話を続けていた。
「けど、この帝国自体を蠱毒の壺に見立てて実験してたのは面白いね。ほんとやられたよ……情勢を不安定にさせ、革命が起きたのも全て君の狙い通りだったって訳か。僕が裏で仕掛けた小細工や整えた舞台も殆どご破算した。客観的に見たら僕の負けだよ」
「饒舌な人ね……それは余裕の現れと見ていいのかしら?」
「気を悪くしたかい?けど、悪気は無いんだよ。只、僕は傲慢な人間でね。ナチュラルに人を見下してしまうんだ」
「そう、貴女が幻想種相手に啖呵をきれるだけの実力があることは認めるわ。けれど_」
ユニコリアは固有武装である蒼炎槌を宙に投げた。
「後悔することになる。彼の力を知れば_さあ、目覚めなさい蒼焔の王よ」
その呼び声に呼応するように蒼炎槌が燃え盛り、渦を巻く。
天高く舞い上がる炎の渦を見上げながら警戒した表情を浮かべる二人は、解放された存在力が内部に結集され人影が形成されているのに感づく。
「固有武装が人化している?」
「……固有武装? へえ、あれ……固有武装だったんだ」
魔武具の類いかと考えていた太郎は固有武装だと聞き意外そうに眉を上げる。
固有武装は勇者特有の武器の筈であるのにユニコリアが持っている事に疑問が生じる。
しかし、この情報も王国の文献で調べただけなので当てにはならない。
幻想種の情報自体が僅かに残された文献しかなく、幻想種だから使えるのか、ユニコリアが勇者の血筋と何かしらの関係があるのか、それともいずれかの限外能力によるものか、選択肢が多すぎて現段階では真偽の判断は出来ない。
けど、内包される力だけでいえば勇者数名分は下らない。
彼女があれだけ自信満々なのも納得がいく。
増大している存在力がぴたりと止まると脈打つように内部が震え始め、直後焔が四方に弾けた。
その熱気だけで一帯の気温が急激に上昇する。
「ォォォッ___」
燃え盛る大地の中心には王が君臨していた。
藍色の甲冑を全身に身に纏っているが、発達した筋肉によって空いた甲冑の隙間からはゆらりゆらりと揺れる蒼炎が溢れ落ちている。
仁王立ちしながら大槌を構えるその姿は正しく絶対強者の姿であった。
「蒼炎の王よ、我等が敵を討ち同胞を救いたもう」
「オオオォォ______」
炎の化身が吼えた。