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王都召喚編 僕の従者は心配性

「タロウ様、起きてください。朝ですよ」


蜜柑の淡々とした声と共に僕の意識は覚醒する。


「蜜柑……おはよう」


ぼさぼさになった髪を手でくしゃくしゃと直しながら、ベットの傍に立っている蜜柑を認識する。


「おはようございます。いつも通り、タロウ様を起こしにきました」


寝起きの僕を見ながらに微笑む蜜柑。


「昨日は英雄王さんがいらしていたので、私も部屋の前まで来たのですがタロウ様がお疲れのようでしたし帰りました。昨日英雄王さんとは何を?」


「そうだったんだ。でも来てたんなら別に入ってきてくれてよかったのに……、あー、英雄王とはそんな大した話はしてないよ。強いて言うなら僕を励ましに来てくれたってところかな」


こんな特殊の状況下でなお、他人の事を考えフォローしにくる。

言葉にすれば簡単かも知れないが実際に行動として起こすのはそう簡単じゃない。

しかも彼はそれが誰が相手だろうとしてのける。

そして、それが出来るからこそ日本でも生徒会長としての人気は計り知れない程だった。


けど、誰にでも優しい人なんて僕は嫌いなんだけどね



「それにしても蜜柑」


「なんです?」


「なんかこっちの世界に来てから蜜柑、僕たちの関係を隠そうとしてないよね?」


首を傾げる蜜柑。


実際、僕と蜜柑は日本では特殊な関係だった。

主人と従者。

およそ日本においてはそんな関係は余りいないと言っていい程稀有な関係だろう。


 別に周りにバレようが問題はないのだけれど、なにかと僕は悪目立ちしていた自覚があったから下手に蜜柑と仲が良いと知られると彼女がいろいろと困ったことになるのは予想が付いていた。


だから、普段はごく普通の友達を演じていたけれど……。


この世界に来てというもの蜜柑は基本皆といるときも僕とほとんど離れないでべったりといった感じだ。

それが別に嫌と言うわけではなく、寧ろ従者に懐かれるのは主人として嬉しい事なのだが、その様子の変わりようが気になった。


「この世界では隠す必要はないと思いまして。それにタロウ様をお守りするのが私の使命ですので」


「いや、でもさ。一応同郷の皆もいるわけで……」


特に鎌瀬山に僕と蜜柑の関係を知られたりでもしたら蜜柑に何か危険な事が起きる可能性がある。ここが日本だったらまだ彼も法の自覚により、下手なことをしないと考えたが、ここは異世界だ。法に縛られてないバカがどう動くかは予想がつかない。

リスクは出来るだけ避けるべきだろう。


「私は気になりません」



「僕が気にするんだ……とりあえず、みんなの前で様づけはやめてね」


蜜柑が折れてくれそうに無かったので、«僕が気にする»と言った言葉を混ぜる。

そうする事で、従者である蜜柑は僕の意志を第一に考え、渋々とだけど従ってくれる。詰まるところ今のは命令というわけだ。


「……分かりました」


「二人きりの時もやめてほしいけど」


今度のは命令ではなく、お願いだ。だから蜜柑は勿論拒否するだろう。


「嫌です」


やっぱり。


「だよね……」




「それでタロウ様。これから私はどう行動すれば良いですか?タロウ様は力を持たぬ一般人として今日予定されている訓練には参加ではなく見学ですし、私はタロウ様を差し置いて勇者に選ばれてしまいましたので、一緒にいられる時間も減ってしまうでしょう。私としてはタロウ様の傍に常にお仕えしたいのですが……」


蜜柑が委ねるような視線を僕に向けてくる。

彼女の心はわかる。

もし彼女が勇者でなければ常に僕の傍にいられただろうけど、勇者ともなってしまえば勝手な行動は許されないだろう。


貴重な勇者を一般人である僕の傍につけるなんて王達も許さないだろう。

勇者は話を聞く限り一騎当千の存在であり貴重な戦力だ。

多くいて困ることはない。


それに、蜜柑がいなかったことによって英雄王達が魔王達に負けるのは避けたい。

心配してるわけじゃないけど、無駄死にされても結局の所、負担が僕のところに回ってくるわけだし。

その点、蜜柑がいれば死ぬことはないだろう…蜜柑は信用できる。


「とりあえず当分は英雄王達とともに行動して」


「わかりました。タロウ様はどうするつもりです?」


僕の言葉に軽く頷いた彼女は当然少しの間離れるであろう僕を心配して僕の今後の行動を聞いてきた。


「僕は一週間経ったらこの城を一度でようと思ってる」


「でしたら私もタロウ様と一緒に」


「それは駄目だ。英雄王達だけでは心配なんだ。蜜柑が彼等に付いて居てくれるなら僕は安心してここから出られる」


「その、言い方はずるいです······」


知ってる。僕もずるいと思うよ。だからこそ言ったんだから。


「ですが、タロウ様は能力がなく」


「あー、それは大丈夫なんだ。蜜柑にだけは言っとくけど限外能力は僕も持っているんだ。だから安心してして欲しい」


「そうだったのですか······」


「うん、で分かったね蜜柑?」


「……」


捨てられた子犬のような目で見てくる蜜柑。

しかし、そんなに騙される僕ではない。


「そこで無言にならないの。そんな目で見つめてもこれは決定事項だから」


「……承知いたしました」


若干不機嫌になった蜜柑だけど渋々承諾してくれる。

そんな蜜柑のか細い腕を引いて、僕は部屋から出る。

そろそろ朝ご飯の時間だろうし、迎えの人が来る前に先にでよう。



意外な事に朝食の席にはもう、他の皆は揃っていた。

皆今日の能力確認が楽しみだったのだろう。




勿論僕も楽しみだ。能力という未知の能力、一体どれほどのものなんだろう。


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