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帝都編  監視するもの

 


 民衆が僕らを見ての歓声は凄いものがあった。

熱狂的というかとてつもない盛り上がり具合で、改めてこの世界の勇者に対する期待·信仰を感じ取った。

まあ、その中には嫌な視線もあったけど。


僕は皆が堂々としている裏でこっそりとしながら過ごしパレード自体は特に何事もなく終わった。



その後、僕らは直ぐに帝都闘技場に向かった。

勿論、理由は鎌瀬山と九図ヶ原の模擬戦だ。


到着して始めて見た帝都闘技場は螺旋を描くよう外装が空高くまで伸びていて綺麗な造りだと思った。

大きさ自体は僕が依然造り上げた闘技場より少し小さい程度のサイズの造りで建物中に入ると古びた壁には文字記号が精密に彫られており、相当歴史がある建築物なのは見てとれる。


「じゃあ、俺たちは釜鳴の所にいくよ」

「また後でね」


「うん、いってらっしゃい」


英雄王と幼女は鎌瀬山の事がやはり心配のようで控え室に向かったが僕は鎌瀬山の様子など興味が無かったので他の観客に紛れ込む形で観客席に一人座り込んでいた。


勿論無目的ではない。



「さて、誰だろうな」



パレードの時、僕を観察するような嫌な視線を感じた。

それは未だなお続いているのだ、だからこそ僕は敢えて一人になった。

けど相手は接触する様子を見せないので、その観察相手は僕と話したい訳でもないようだ。


そこで僕は観客席を離れ裏手に回ることにする。

それにより人通りも減り、誰が僕を見ているか予想出来るだろう。

予想が着いたら後は僕から接触すればいいだけだからね。





試合前だから裏手に回るとそう人通りは多くなく、これならすぐに相手を特定出来そうだと思った。が、現在僕の視界に入っているの三名だけで、そして誰も僕を見ていない。


だというのに、不躾な視線は未だ感じる。

そのまま人気のよりない所に向かって歩く。

そしていつしか僕の靴音だけが響くようになった。

それでも僕を見張るような視線は感じる。いや、寧ろ強まった気がする。

僕の不自然な行動に警戒心を強めてしまった可能性が高い。




困ったな。

はっきりいて此方の世界の情報は乏しい。

元いた日本には無かった能力スキルがあるせいで余計にだ。

だから、この状況も判断がつきかねる。

間違いなく魔術、能力スキル、あるいはそれに準ずる何かであることは分かる。

けど、どういったものなのかは全く分からない。

千里眼のように遠くから見てるのか。

それとも、姿、形そして音すらも消し、今もなお僕の側にいるのか。


後者なら見つけるのは簡単だ。

理想郷ユートピアを発動し、この周辺の生物をあらかた僕の世界に引き摺り込めばいい。

しかし、もし遠くから僕を観察している場合だと、僕の限外能力エクストラスキルがみられるだけで逃げられてしまう。

それに僕に気付かれていたとバレてしまえば、今後捕まえるのは非常に難しくなるだろう。


どうするか考え込む為に僕は、歩くのを辞め柱に寄り掛かる。




やはりどう考えても現状の僕では前者に対する対抗手段はない。

つまり今回は相手が近くにいる場合は捕まえるが、遠くから見てるなら見逃す他はないということか。



だから、まずは、悪の体現者たる僕のスペックの高さを利用してこの場にいるか確認してみるか。



「あ」


僕の漏らした声、それはこの限られた空間で空気に振動し反響し合う。

見えなくてもそこに実在するなら、音に触れる事にはなる。そしてそれはこの場には計算上あり得ないはずの遅れとしてズレが生じることになる。

それを感知するのは普通の人間なら到底無理だが、既に人間離れした存在である僕の感覚なら、その僅かなズレすらも感知可能だ。


左方向からの音が予定より僅かに遅れた。

範囲は小さい。

けど、確かに何かがそこにいる。


「遅いなぁ」


柱にもたれかかりながら、誰かを待つように辺りを見回す。

なるべく自然に視線を動かし、そのズレの生じた場所をみるが、案の定誰もいない。

間違いなく、何かしらの能力それか魔術を使っているのだろう。




まあ、『そこにいる』それが分かっただけで十分だろう。




だって後は僕の世界に引きずりこめば良いだけなのだから。






理想郷ユートピア』発動。





創造するのは帝都。

条件としお互い相手を常に視認可能とする。



空間が歪み、混ざり、分かれ、構築されていく世界。

      

世界を虚実に、想像を現実に。 




さあ、かくれんぼはこれで終わりだ。

姿を見させて貰おうか。



瞬時に模倣·構築された世界。




「ふうん.......」




その新たに造り出した世界。


そこに立つのは二人のみ。




裸の少女と僕だ。

 


「な、なななな......」


小麦色の頬を赤く染め、立派な二本の捻れ角を生やした少女は僕を指差し硬直している。

腰の後ろには紅く光を反射するように光沢を見せる尻尾が見え隠れし、少女が人間ではないことを裏付けさせる。


しかし、そんな事よりも気になる事があった。

何故、裸なんだろうと.....。

これはかなり重要な事だ。だってもし、姿がみえないことを良いことに露出プレイをしていたのだとしたら、とんだ変態ではないか。


幼い顔に似合わず露出癖を持っているとは難儀な性格をしている。


「な、何故奴はいきなり裸に.....」


しかし、そう少女が溢したのを聞きこの状況を理解し、僕は勘違いをしていた事に気付く。

お互いを常に視認可能とした事で、それ以外の物体を透過して見え合ってしまっているということだ。

つまり、あちらからしたら僕が能力を使った瞬間、突然脱衣して裸になったように見えた訳だ。






........。


只の変態でしかないな。







いや、それにしても、理想郷は所々使い勝手が悪いな。

制限を余り細かく出来ないという欠点のせいで色々と問題がある。

改め実感するよ。



突然の事に動揺している少女、そちらに身体を堂々と剥ける。

別に年下の女の子に裸を見せつける趣味はない。

が、隠す程、疚しいものなど僕には何一つ付いていない。 

何故なら、僕は完璧なのだから。



「初めまして、魔族.....でいいかな?」


人間ではあり得ない、角、尻尾。

それだけでこの少女を魔族と決めつけるには十分だと思う。


「そう!私は、誇り高き魔族!クルルカ·ナーシェ.....っていけない奴は私の事を見えて無いんだった!」


子ども特有の高く何処か尊大な声で元気よく名乗り返したかと思ったが、彼女は自分がまだ見えてないと思っているようだ。


もしかしたら、僕を見張っている間もずっとあんな調子だったのかもしれない。



「いや、見えてるよ。ばっちりと」


紳士な僕は何をとは敢えて言わない。

けど、完全に丸見えではある。

しかし、彼女は頑なに信用せず一人、ぶつぶづ語り始める。



「へ?.....いやいやあり得ん。私の姿は一族の至高の宝玉により造り出された神遺物アーティファクトに」



「だから、見えてるよって.....」


それを止めるように口を挟むがまるで相手にしないように少女は見下したように僕をみる。


「アホな奴め。そんな馬鹿な事があり得」



「じゃあなんで僕たち会話出来てるの?」




「...........................................あれ?」


少女は先程までの自信満々のどや顔が消え、動揺したように汗水が頬を伝う。


「あれ? えっ? 見えてる? 何故? いやいやいやいや嘘でしょ⁉」




その反応を見て僕は確信する。


こいつ、アホだ。




「ほんとだよ.....」


正直この手の相手は得意ではないので、うんざりとしたように返事をする。



「えっ!ええっ!何でっ?何でっ!? だってこれ、竜族に代々伝わる凄い稀少な神遺物アーティファクトなんだよっ!?視認する事は不可能で、しかも消音消臭の効果もあってだな。かつて我々の祖先と言われる透辰竜の宝玉が利用されてて、それでそれで」


騒がしい。


少女が腕を前に掲げ、力説するそれは只の銀で加工されたブレスレットにしか見えない。

けど、神遺物と言っているのだから相当価値があり、かつ性能も高いのだろう。

だから、絶対の信頼を寄せていたそれが破られてこの子はとんでもなく動揺しているのだろう。

しかし、この子何も言わなくてもぺらぺらと喋るな。


「君が姿を消してたのはその腕輪によるものだったんだね。けどどうやら、僕の限外能力の方が強かったみたいだ」


「そ、そうだ。そもそもいきなり何かに引き込まれたと思ったら貴様は裸になっているしワケわからん! 服を脱ぐ能力とでも言うのかっ!ふざけるなよっ!」




「裸なのは無視してもらえる?....説明面倒だし.」



「そこを無視できるかっ! それに貴様」


褐色少女は僕の話を殆どまともに聞いておらず、細い腕を存分に振り回しながら文句を垂れ続けている。

はあ、なんか支離滅裂だし、この話をいつまでも続けていては話が進まなそうだなぁ。


「ねえ」



「私が話しているのを邪魔」




「ねえ、君は僕の敵?」





だから、敵ならとっとと潰して吐かせた方が手っ取り早い。

明確な殺意をのせ、顔を真っ赤にしたままの少女に質問した。




「はあっ!そんなのなあ!.......あー、......あの.......テキジャナイデス.....」



少女は僕の変化に気が付いたのか態度を急変し質問に対して顔を真っ青に変えながら敬語で答える。



「じゃあ、何で影からずっと僕を見ていたのかな?跡まで着けて」


さっきの尊大な様子からは想像がつかない、及び腰で低姿勢だ。


「そー、それはですね。.......好奇心というか、つい気になってこっそり追い掛けちゃったみたいなぁ.....」


少女の白々しい言動に対して問い詰めるように僕は質問を畳み掛ける。


「神遺物なんて物を持ち出してまで?」


「うっ.......」


「それに君、魔族何でしょ?」


「うぐっ......ち、違いますよぉ~」


「はあ、その角と尻尾生やして無理があるでしょ」


それに最初に自分の事、誇り高き魔族って言ってたし。


「これは仮装で」


「じゃあ、外して見てくれる」


「いやぁ、ちょっと、外すのには時間かかるから今は無理かなぁ」


「時間掛かってもいいから外して見てくれる。手伝うからさ」


そういいながら少女に近づき、僕の腕周り位はあるであろつ尻尾を引っ張る。


「ひ、引っ張るのは辞めて貰えます結構痛かったりするんで......」


「偽物なのに?」



「............」



僕のその言葉で少女は唐突に真顔になる。



「............」



「ふ」



「ん?」



「ふふふふふふ、ふはははははははははっ!」


壊れたように笑い始めた少女。


「そうとも!我こそは偉大なる透辰竜の末裔!クルルカ·ナーシェリア!聞いて驚け、我は魔王グラハラム様の忠実なる僕よ!」


「魔王グラハラム......」


既に人間の国を幾つも落としている魔族の王か。

それにしてもこの子、ころころと口調が変わるな。


「そうだ。もし私に手を出してでもしてみろ。魔王様が黙っておるまい!」


つまり、この子を殺れば魔王が出てくると言うことか。

なんて事だ。それは。


「それは都合がいい」








「え?」


「じゃあ、君は僕の敵なんだね」

 

それじゃあ、とっとと潰して吐かせるとしようか。


「え?いや、はい.......。あ、嘘です。ちょっと、待っ」


無防備な腹に一撃を撃ち込む。

ナーシェリアは突然の攻撃に反応できず、直撃し壁を数枚突き破り、闘技場の外まで吹っ飛んでいった。


硬い。

竜族といったか。魔族はやはり戦闘能力が高いらしいな。

壁を潜り抜け、少女の跡を追う。


「痛い!凄く痛い!に、逃げよう!ヤバイ人だよ。アレ!普通いきなり殴る⁉やっぱ勇者ってヤバイよッ!」


彼女は騒ぎ喚き泣きながら、背中から紅の翼を生やす。

そして、空高く飛翔する。


かなりの速度でだ。


必死で逃げようとしてるのは分かるけど。


「あー、それは」


「ギャッ」


だから当然僕の造り上げた空間の限界である壁に勢いよく衝突し、大きな音を打ち出しふらぁとバランスを崩すように落下し始める。


「よし」


それに僕は合わせるように跳躍し左脚で体勢を直そうとしていたナーシェリアの顎を跳ねバランスを崩し、そのまま回転し背骨に踵を振り落とす。


「グッ.....ガァッ!」


少女は骨が軋む音を響かせながら、高速で落下し屋体に叩き付けられる。

当然屋体は衝撃を受け止めきれず瓦解する。


「ううう......痛い.....」


だと言うのにナーシェリアはよろけながらもすぐ立ち上がる。

そんな少女に僕は一つ忠告をする。



「見ての通りこの場所からは逃げられないよ。僕をどうにかしない限りね....」


「そうか。人がいないのは.....」


「分かったみたいだね」


「や、やるしかないですかね...?」


媚びるような目で見てくるが僕はそれを切って捨てる。


「擂り潰してあげるから安心して」


怯え逃げようとしていたナーシェリアは、もうやるしかないと覚悟を決めたように屋台骨を手にしながら僕へ牙を向ける。


「.........や、やってやる......。やるしか....アレを使えば私だって......」



ナーシェリアは不安そうな瞳を浮かべながら腕輪にそっと手を触れる。

その直後、瞳を紅く充血させ、少女が苦しそうに悶え始める。

そして、尻尾、牙、角、牙、翼が一回り肥大化する。


「うぐぐ、ガァグゥァッ!」


凶悪な瞳を向け、彼女は屋台骨を僕に投げ付ける。


コンマ数秒で飛んできたそれを僕は片手で弾き飛ばす。




瞬間、紅く鋭い爪が後ろから襲い掛かる。


速いね。


寸前の所で身体を捻り、その勢いを利用して肘を頭に撃ち込む。



が、質量が重くなったのか、頭が少し揺れた程度で大したダメージが通らなかった。

流石に予想外だった僕は一度、距離を取るために後ろへ飛び去る。


「グルァァ」


そこを迫撃するかのように既に竜鱗で固められている腕が僕の方を向けられ、



紅の一閃。



彼女の腕から放出された高エネルギーの紅の光。

それを僕はそれを真っ正面から受け止める形になる。


「驚いたな」


しかし、多少肌が焦げたが大した外傷ではない。

あの程度では何発貰おうが耐えられる。



「うう、ウウ、ウググァ!」




彼女は既に理性が無いのか唸るように牙を向け、獸のように一直線に僕に飛び掛かる。



そして無造作に力任せに振るわれる鋭利な爪。




直撃したらダメージを避けられないだろうが、こんな直線的な攻撃では到底当たることはないだろう。




余裕をもって避わしていく僕に対してナーシェリアの攻撃は更に苛烈さを増し、速さもそれに比例するかのように加速していく。




僕は一度わざと大きく後ろに飛び去り、誘い込む。


しかし少女は疑うことを知らずにそのまま真っ直ぐ勢いよく突っ込んでくる。



そのタイミングに合わせて僕も前に飛び出す。



突然の事に動揺したナーシェリアは慌てて爪を振るうが、単調すぎて目を閉じていても避けれるレベルで。



それを左手で捌きつつお互い勢いにのった状態でナーシェリアの胸落ちに掌打を叩きつける。



綺麗にヒットしたことにより、後方に数10メートル吹き飛び民家を巻き込みながら倒れ込む。



今のは手応えがあった。



「ん?」





煙が舞い上がる中、紅い光の点が浮かび上がるのを捉えた。





それは一点に集束していき、





瞬間、






紅の熱閃が帝都を軒並み薙ぎ払った。



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