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公国編 回想Ⅵ『絶望の襲来』


蜜柑は初めての実戦に不快感を顕にしつつも、幼女の元に向かうべく大地を踏み込んだ。


大地を駆け過ぎていく視界に広がるその光景は残虐で残酷で醜悪であった。

人の鮮血が舞い、また一人一人と崩れ落ちていく。

家屋は焼け、その下敷きに小さな子どもを庇うように覆い被さる女性。

震える足を押さえ込み、必死に剣を振り上げ戦う者。

逃げ惑う老若男女を誰彼構わず燃やし、ちぎり、殺す魔族達。

蜜柑はそんな魔族達に強い嫌悪感と不快感を覚えつつ、そして同時にまだ必死に抵抗している人達、助けを求める人達すら見捨てて、只幼女の元に向かう自分自身に嫌悪感を覚えていた。

だが、蜜柑は足を止める気など無かった。

太郎様の信頼に答えなければ。

只その一心で彼女は駆け続ける。



そして蜜柑は、幼女の姿を捉えた。

無事な事は感覚境界で把握していたが、やはり視界に見えるのとでは安心感が違い、蜜柑はほっと一息をつく。


しかし、おちおちゆっくりはしていられないようで幼女に複数の竜人が襲いかかっていた状況であった。


それを確認した蜜柑は頭ですぐさま『雷』と念じる。

術式も言葉も用いないそれは魔術としては最低格である第一階梯に分類され、発動される術力もたかが知れた。


しかし、術式が発動する直前で蜜柑がブリューナセルクを数回振るうことでそれは雷鳴を轟かせる雷へと昇化し、光速で敵に飛来した。


結果。

竜人の厚い装甲を焼き貫いた。


それに一番驚いたのは幼女であった。

殺られた竜人達はあまりの突然の事態に理解するまもなく死に絶え、それを目の当たりにした幼女は相当驚いたのは想像が容易につくことであろう。

慌てるように振り替えった幼女の視線の先には蜜柑が立っていたことで幼女は警戒した顔を一転させ安心した表情を浮かべる。

そして、元気よく手を降りながら蜜柑を大声で呼ぶ。


「蜜柑ちゃーん!!!」



それに答えるように駆け寄った蜜柑に幼女は飛びかかり力強く抱き付く。


「良かったぁ!無事だったんだね!」


「はい、なんとかですけど。 幼女さんの方も無事で良かったです」


「此方もなんとかだけどね!英雄王君と青雲君は何処かわかる?」


「すみません、ここからだと、感知の範囲外のようで分からないです」


「そっかぁ。じゃあとりあえず、ここにいる人達を助けよう!」


「それが良いでしょう。彼らは私たちと違って戦闘に長けてますし、きっと無事でいるでしょうし」


「うん、きっとそうだよ!」


「私が周りの魔族を殲滅します。幼女さんは怪我人をお願いします」


「うん、任せて」


蜜柑はブリューナセルクを構えつつ、術式を構築していく。

第二階梯以上の魔術は術式が必要でありまたその術式が僅かにでも間違えたりずれたりしてしまうと壊れてしまうので非常に制御が難しいとされている。

寧ろ、術式が壊れるならまだ増しな方であり、術式が不完全なまま暴走をしてしまうと術者本人にも被害が被るため、蜜柑は慎重に術式を書き上げていた。


三工程ほど挟み出来上がった術式は自動的に発動され、世界を書き換え始める。


そこで蜜柑はすかさず、構えていたブリューナセルクを瞬間的に振るった。


その結果 、魔素により巻き起こされた現象が膨れ上がり、


第4階梯、雷弓。


本来なら数も威力もたかが知れるはずの第四階梯の魔術はブリューナセルクにより強化され、放射された数千の電撃を帯びた矢は空中を飛行していた魔族達を正確に打ち落としていく。


固有武装、聖槍ブリューナセルク。

その三メートルはある蒼の長槍の能力は、魔術の相乗効果であった。

魔術に対して槍を振るえば振るうほど強化されていき、第一階梯の魔術が第四階梯レベルになり、第四階梯の魔術なら第七階梯の魔術にすら届きえた。


しかしながら、撃ち落とされた魔族達は一人、また一人と身体を起こす。

流石竜人の魔族なだけあり頑強さも魔族の中ではトップクラスであったようで、身体の痺れも直ぐに治ったようだ。

蜜柑も今の魔術で倒せるとは考えていなかったようで落ち着いた表情で魔族達に突進する。


「ひっ……!」


接近してくる蜜柑に怯えた魔族はがむしゃらに翔び去りながらも火を吹き散らす。


感覚境界から得られた情報から脅威度は低いと認識した蜜柑は気にした様子も見せず、火の海の中を飛び込む。

そして、風の如く速さで火を切り開いていく。


そして、力強く一歩を踏み込む、距離を詰めようと跳躍するが、その進路を邪魔するかのように、赤褐色の鱗を持つ竜人が跳びか掛かってきた。


蜜柑は自分の胴体の倍はあるであろう巨腕を一目も意識することなく円回転を生かしするりとすり抜けると同時に首を斬り跳ねる。

そのまま力を失い倒れていく魔族を踏み台にすかさず跳躍して、逃げようとしていた魔族を一突き。


「ガァァッ……」


断末魔と共に倒れこむ魔族を振り返ることもなく、次の敵を捕捉して戦場を駆け巡る。


そうして殺した魔族が数にして30を過ぎたとき、視界に入った一人の竜人を他と同じように殺そうとしたが、蜜柑のブリューナセルクはその鱗によって阻まれる。


キンッと金属音が鳴り響く。


「ッ!」


蜜柑は驚きつつも、更なる突きをすかさず撃ち込む。


「次は全力っ」


効率性を求め、知らず知らず力を抜いていたようだと考えた蜜柑は、全身のバネを生かし、勇者の膂力を全開に乗せた渾身の突きを放つも。


両腕の発達した鱗に突き刺さり、止まる。

その結果に蜜柑は驚く。

そして、自分の突きを阻んだ相手を凝視する。

体格は蜜柑の四倍以上。竜の頭に四本の腕。

その両腕の発達した鱗は鱗というよりは寧ろ大楯のようなものであり、他にも全身を守るかのように発達した鱗が連なり、分厚い鎧のようになっていた。


「俺の鱗を貫くか……。貴様、勇者か」


鋭い視線を投げ掛ける魔族の言葉に対して蜜柑は気にした何も言葉を還さない。



「だんまりか……。まあ、いい。何で勇者がこんなとこにいんのかも気になるが俺が潰せばいいだけか」



蜜柑は相手側の変化に気づき、盾を力強く蹴り、その反動で槍を抜くと同時に一回転し、距離を取る。


そして四本腕の竜人の変化を認識する。

見た目が一回り肥大し、更に全身が黒に染まっていく。

感覚境界からそれが相手の能力であること分かるが、詳細までは不明であった。

蜜柑は相手の能力を警戒し、遠距離からの攻撃を試みる。


第一階梯、雷。


ブリューナセルクを振るい、強化された魔術に対して避ける動作もせず、結果として直撃するも外傷を受けた様子は見えなかった。


「おいおい、その程度の魔術が効くと思っていんのか」


そう言うや否や竜人は両腕を盾のように前に構え、突進してくる。

速さ自体は大した事はない。

蜜柑はそう分析する。

あの異様に発達した盾が邪魔なら隙間を突いて攻撃すればいいだけの事だと蜜柑は決断し、敵と同じように駆け出す。


そして、互いに正面衝突する寸前で蜜柑は相手の盾の下を潜り込むように身体を捻り、強引に避ける。

蜜柑はすかさず一瞬の交錯の間に鋭い突きを相手の脇腹に撃ち込む。


しかし、その突きは待たしても相手を貫くことはなく、さきほどとは違う、生鈍い音とともに弾かれた。


流石の蜜柑もこの結果には眉をひそめざるを得なかった。

竜人は蜜柑の動きの流れを予測するかのように太い尻尾を折り曲げ右に振るう。


(避けきれない)


蜜柑は即座にブリューナセルクを両腕で構え、防御体勢をとる。


重い衝撃が蜜柑の細い腕に伝わる。


「ぐっ……」


苦悶の声をあげ、数十メートル吹っ飛ばされつつも地面に衝く前になんとか体勢を立て直し、両足で着地する。



「ほう」


蜜柑の動きを見た竜人は感嘆の声をあげた。


「流石、勇者というだけなことがある。速さ、瞬発力、身のこなし、どれも素晴らしい。だが、腕力がそこらの魔族と変わらんようでは俺の敵ではないようだ」


「……」



蜜柑は痺れ震える腕を隠しつつ、今の撃ち合いを冷静に分析していた。


あの膂力は危険ではあるが速さは此方に分があるのだから直撃しないように立ち回ればいけるはず。

しかし、問題なのは竜人の『堅さ』だ。あれは私の腕の力だけでは到底貫けない。

それに魔術はもっと高階梯のものであれば効果があるようだけど、流石に術式を構築している余裕は与えてくれないでしょう。


「ならっ……」


第一階梯、灯火。



魔術の発動に伴い、痺れていた腕で無理矢理ブリューナセルクを振るう。

薄い火が打ち上げ花火のように空に打ち上がり、赤く発光しだす。

それはここいら一面を照らす光となり、周囲を明るく照らす。


竜人は空を眺め、その一連を見ていたものの蜜柑の意図が理解出来ず、不思議そうに視線を蜜柑に戻すも既にその場には蜜柑の姿はなかった。

注意をそらされたか!と竜人は気づき、視線を左右に振るも見当たらない。

それもそのはず、蜜柑はお互いの姿が光により僅かに霞むその一瞬をつき、天高くに跳び上がっていた。



そして、己を光で隠すことで虚を衝く形で竜人の頭上から、自分の体重に落下速度をを合わせた一槍を放つ事に成功する。


「ぐゥッ!」


それは竜人の鱗を貫き、筋繊維を切断した。

しかし、それが魔族の心臓である魔核に達することはなく、止まってしまう。



失敗したことを理解した蜜柑は槍を引き抜き、地面に着地するもそこを狙うように竜人は腕を振るう。

予め予想していた蜜柑は慌てることなく、ブリューナセルクを斜めに構え、力を流すように相手の攻撃をずらす。それに追い討ちをかけるように蹴りを打ち込む。

当然竜人にダメージはないが、体勢を崩されたことにより蜜柑に距離をとられてしまう。


「こんな古典的な方法に引っ掛かるとは屈辱だな……」


体勢を立て直した竜人は油断していた自分に対して苛立ちを覚えていたが、ダメージを受けた様子はなかった。


「次は貴様にそんな隙を与えん」


巨体を動かし、蜜柑に迫り来る。


「ふぅぅーー」


蜜柑は目を閉じ息を吐き、意識を集中する。


四本の腕からの連撃を、まず左。次に上。と冷静に避けていく。


真正面から来るのを左に反らしつつ牽制に一閃。


当然弾かれてしまう。

一瞬生じた隙を狙うように潰しにくる両腕を、身体を屈めることで避け、足を払う。


竜人は体勢を僅かに崩すも一本の腕で直ぐ様バランスをとる。


蜜柑は身体をくるりと回転させ距離をとりつつ、相手の装甲の薄い間接部に斬りかかるが、それを気にも止めずに竜人は腕を薙ぎ払う。

蜜柑は自分の攻撃が相手に警戒されてないことに悔しく思いつつも、槍を大地に差し、腕に力を込めることで蜜柑の頭の僅かに上を過ぎる。

次に突きが飛んでくるのを把握した蜜柑は溜めを利用するとともに渾身の力を込め横に槍を払う。


「はあぁっ!」


そして、相手の拳と衝突する。


「ぬっ!互角か……」


拮抗しあった力と力は辺りに風圧を生じさせ、土ぼこりが舞う。


汗で濡れた橙色の髪がたなびき、そこから一筋の汗が風に乗り地面に落ちる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


苦しそうに息を切らしながら、蜜柑は口角を上げた。


それを見た竜人は警戒し、直ぐ様次の突きを放つ。


(何かさせる隙は与えん)


蜜柑はブリューナセルクを構え衝突の瞬間に腕をクッションのように扱い、相手の拳を受ける。

数メートルほど飛ばされるも最初のようにダメージは無く、上手く衝撃を吸収出来たようだった。



(狙いは距離を取ることだったか!だが、この距離なら)


蜜柑の狙いに気付いた竜人は一瞬動揺するが、直ぐに冷静さを取り戻し距離を詰めようと蜜柑に迫る。


しかし。


「終わりです」


蜜柑はぽつりと勝利を宣言した。


戯言だ。この勇者では俺に致命傷を与える事は出来ん。

ここで詰めて一気に潰してやるわ!


距離を詰め、巨腕を豪快に振るう。

光に照らされる中、蜜柑は余裕な表情を浮かべていた。

そこで竜人は違和感に気づく。


待て、さっきまでこんな眩しかったか?

いや、まさか。


視線が空に移る。

そこで竜人は一つの灼熱に燃える紅き太陽を見た。

竜人は自分の思考がスローになるのを感じる。


やられたっ!

今までの攻撃は俺の警戒を自分に移す為のブラフ。

本命の狙いはこれだったのか!

まずい。どうするっ!?

間に合うか?


振るった腕を慌てて戻し、防御体勢に移る。


その瞬間、何処からか幼い声が聞こえた。


「第九階梯、陽光《ソル·レイ》」


魔術によって生み出された擬似太陽から光が放出される。


「ぐぉぉぉぉっ、こんな、ものぉぉ」


光は大地に降り注ぎ、高熱のエネルギーにより、鋼鉄を誇った竜鱗が難なく溶解していく。


耐えきれなくなった竜人は地面に膝をつき、苦しそうに苦悶の声をあげる。


蜜柑は後ろから幼女が駆け寄ってくるのを感知する。


「蜜柑ちゃーん」


駆け寄ってきた幼女に対して蜜柑は余裕感謝を述べる。


「幼女さん、ありがとうございます。助かりました」


「さっきは私が助けてもらったからね!お互い様だよ!」


戦いに決着がつき、ようやく蜜柑にも笑みが戻る。

しかし。


「ここにいたのか……」



突如、幼女が作り出した擬似太陽が掻き消される。


全焼した竜人は大地に崩れ倒れ、蜜柑と幼女は視線を空に移す。


そこにいたのは、中肉中背の一人の男。

気だるそうな姿勢に目の下にはくまが浮かんでいる。

覇気がなさそうに立っていた。


「あなたはだれ!?」


「始めまして……勇者。僕は、グラハラム。一応、魔王をやっている」











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