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門番と別れ

 作戦決行当日、マグニス北門には沢山の冒険者が集まっていた。

 予定では二千人近くがいるはずなのだが幾つかのギルドが作戦に突如参加したらしいという話はカナタの耳にも入っていた。

「まるでお祭りみたいですね、本当に賑やか」

「ソウデスネ、メイがイルダケデワタシハマイニチココロガオマツリデス」

 シンシの気持ちはぶれない、そしてメイは彼の言葉など耳に入らないようで沢山の冒険者を見渡していた。

「あんたのその喋り方もなんとかならないの?」

「本人があれでいいならいいんじゃない?」

 シータの疑問は結局今日になっても解決されないがイースはなんだかんだで彼の喋り方に疑問は抱かなくなっているようだ。

 案外パーティメンバーが落ち着いているのを見てカナタはほっとした、むしろ一番緊張しているのではないかとさえ思う。

 そんなカナタを誰かが呼ぶ、その声の主は人ゴミを掻き分けてきたタツヤと彼の後ろを着いてきたマモルだった。

「ちょっとミッチーも来て!」

 ミチタカは頭の上にクエスチョンマークをつけながらタツヤ、マモル、カナタの輪に加わった。


「あー、まぁそのなんだ」

「緊張すんなよヘタレ」

 喋り方からかなり緊張しているタツヤにマモルが野次を飛ばす。

「うるせぇ!あー、まぁ今日からフレイヤ山を攻略する訳だけどさ。あの、お互い頑張ろうぜ!」

 タツヤは力を込めて言い切った、顔は真っ赤だが。

「恥ずかしいのたっちゃん?」

「たっちゃん、その顔」

 タツヤを除く三人は噴出す、恥ずかしいなら言わなくてもいいのにと思いながら。

「君達ねぇ、俺が緊張をほぐしてやろうとしてんのに何だよその反応は!」

 タツヤの反応に三人は笑った、彼はいつも通りのタツヤだ。

「たっちゃんはやっぱりリーダーだねぇ」

「存在がおもしろいし最高だわ」

 急に褒められ照れるタツヤをミチタカとマモルはまた笑う、タツヤは笑われたことにブーイングしながらカナタに助けを求める。

 そんな彼らと友人であることにカナタは心底うれしく思った。

 四人はそれから少しだけ話をした、これからは別行動になる。こうやって四人で集まれるのもこの世界では最後かもしれない。

「そろそろ行きますか」

 ミチタカの一言に三人は同意する。

「んじゃ皆頑張れよ」

「また今度な」

 タツヤとマモルが続きカナタの方を三人が見る。

「次会う時は元の世界かまたこの街で」

 カナタの一言で四人はその場を去っていく、これからの激戦に心を切り替えて。




 ユニオンの挨拶から始まったこの作戦は総数二千人による数の暴力でフレイヤ山の踏破を開始した。

 総大将をユニオンが、副将をワイノスが勤める。

 二日かけてフレイヤ山に到達し順調にエリアD、C、Bを一日で駆け抜けて行く。

 豊かな森で形成された森を抜けてからは荒れ果てた荒野のようなエリアが続く。

 五日目エリアAに到達、冒険者の士気も高いままこの作戦は順調に進むと思われた矢先問題が発生する。

「二番隊が【二首の竜】と接触!これと交戦中!」

 その話が伝わると動揺が冒険者の間に広がる。

 【二首の竜】はその名の通り小さな山とも言える真っ青な大きな体に二つの首を持つドラゴンである。レベルは六十ではあるが他のモンスターとは圧倒的な力量さを持つフレイヤ山の看板とも言えるモンスターだ。

 本来はエリアC付近を徘徊し出会った冒険者達を片っ端から襲うことで有名、討伐作戦は何度も行われたが結局百人単位でも倒せなかったこともあり冒険者の畏怖の対象である。

「とりあえず作戦通り僕達は二番隊の補給班に回ろう」

 カナタの一言にメンバー達は頷いた。

 元々二首の竜との接触は作戦に盛り込まれていた。発見、接触次第戦闘を行う。その際接触した隊は補給班を含め戦闘を行い代わりに他の隊の補給班が補給物資の運搬等を行うと。

 その作戦の徹底によりカナタ達が二番隊に向かうと補給係の冒険者達は「後を頼む」と残し前戦へ駆けて行った。

 カナタの所から小さくしか見えないが沢山の冒険者がドラゴンに挑んでいるのが見える、その場所だけは殺風景な今のところとは違い魔法やスキルによる輝きが鮮やかに彩っていた。

 

 一番隊、三番隊の戦闘班の合流によって二首の竜との戦いは続いていた。

 百人単位で倒せなったものの今ではその数は十倍近くになっている。

(これで倒せなかったらどうするんだろうな)

 マモルはそんなことを考えながら二首の竜へ突っ込む、当然一人ではなく何十人の仲間と一緒に。

 彼の体にはステータス画面に表示しきれないほどのバフが付加されており本来のモンスター戦であれば怖いものはない。 

 しかし目の前のドラゴンだけは違う、これほどの人数で攻撃しているものの体力はまだ一割も削れてない。

 山のような魔法や矢が空から二首の竜の頭部や翼に降り注ぎ、様々な武器をもった近接兵が地を駆け脚や尾を狙う。ひとたびドラゴンが青い炎を吐けば何人ものナイトが身を挺して仲間を守り傷ついた仲間がいればヒーラーの回復魔法が仲間を癒す。

 一進一退の攻防は半日近くを消費する激戦になったが二首の竜の体力が三割を切ったところで事態は急変する。


「あと三割だ!気合を入れろ!」

 どこのギルドマスターが言ったかその言葉に何人もの冒険者が大声で応える。しかし突如二首の竜の足元に魔方陣が展開する。

「何か来るぞ!」

 その声と同時に聖職者達は広域防御魔法を展開する、それは攻撃のダメージを減衰させることができるのだがその間他の魔法はしようできない。

 二首の竜の咆哮と同時にその体からおびただしい数の光が宙に舞いそして冒険者達に向かって降り注ぐ。

 まるで光の矢のようなその魔法は広域防御魔法に当たると同時に爆発を起こす、直撃を受けていないもののそのダメージは冒険者の体力の四割近くを削る。

「防御魔法使ってこれかよ!」

「聖職者は広域維持、魔法剣士と魔術師は回復に回れ!」

 ユニオンの指示のもとすぐさま冒険者達は動く。魔法剣士と魔術師は本来得意としないものの回復に回り聖職者は広域魔法の維持を続ける。

「早く倒せ!このままだと共倒れだぞ!」

 残された近接兵達は第二波を撃とうとする二首の竜へ突撃する。

「ヘヴィストライク!」

「ライトニングバッシュ!」

「ストーンストライカー!」

 数多の兵が自分に出来る最大限の攻撃を叩き込んでいく、それでも二首の竜の攻撃は止まらない。

 再度魔方陣が展開され光の束が宙を舞い冒険者のもとに降り注ぐ。

 広域防御魔法がそれらを防ぐもののそれらを全て受け止めきれずあちこちで悲鳴が起こった。

「瀕死の者には”リボーン”を使え!」

 リボーンとは体力がゼロになった者に使えるアイテムで使用した場合、体力が一の状態で復活する代わりに二十四時間の絶対睡眠が行われる。

「他の者は攻撃中止、アイテムでの回復を優先させろ!」

 ユニオンの支持を受けアタッカーは全員アイテムでの自己回復を行う。手が空いた者から再度戦闘に復帰するものの手空きの時間分二首の竜の自己回復が被ダメージを上回り始める。

(突破は困難か…)

 ユニオンの目には頂上が見えている、そしてそこに何かしらの建物があることも。

「クリフ!」

 ユニオンの呼びかけに銀髪を逆立てた男、クリフが駆け寄ってきた。

「ユニオン、どうした?」

 いつもとは違うユニオンの表情にこの場の劣勢がどれほどのものか、嫌でも感じことになった。

「プランC発動だ、あとはワイノスに指示を仰げ」

 クリフは目を見開く、そのプランは一部の者だけで頂上に到達するというもの。

「了解しました、ただし自分はこの場に残ります」

「それは了承できない、お前も一緒に行け」

「ギルマス!」

「ここで死ぬ訳じゃない、もう少し粘るってだけだ。それより今の内なら二首の竜も動き回れそうにもない。いいか?これはチャンスだ、今しかできない。そしてこれを頼めるのは副ギルマスのお前だけだ」

「…」

「元の世界に戻ったら一杯飲もう」

「…本当に死なないで下さいよ」

「時間がない、行け。あとは任せる」

 涙を流しながらも頷くクリフにユニオンは口角を上げ笑う。

 それと同時にクリフは一番隊にいるワイノスのもとに駆けていった。


 クリフを見送ったユニオンは叫ぶ。

「今から一部の人間だけで頂上のエリアA突破を行う、その際の指示はワイノスが担当する。呼ばれなかった奴はここでできる限り二首の竜の足止めを行う」

 その発言は冒険者達に動揺をもたらした。

「そんな話聞いてないぞ!」

「一部の奴だけで逃げるつもりか!」

「卑怯者め!」

 あちこちで罵声や非難の声が上がるがユニオンは顔色変えず続けた。

「どうしても行きたいなら行けばいい、ただし俺はここに残る」

 先ほどの怒声が嘘のように静まりかえる。

「俺はこれまで幾つものダンジョンを攻略してきた、山ほどのモンスターを倒しこいつのような強力なドラゴンと戦ったのも一度や二度じゃない。だからこそ今の俺がいる、俺はここで諦める気はない。足止めじゃない、ここでコイツを倒すんだよ俺は」

 途端二首の竜から光の矢が宙に放たれ冒険者のもとに降り注ぐ、当然それはユニオンにも。

 しかし彼に当たる前にその矢は消えた、何故ならそこに一人の人物が立っていたから。

「ボス、防御は私が担当します。突撃を」

 その女性の名はイロハ。白銀の甲冑に身を包み巨大な盾を片手で軽々と持ち上げている。

「助かる、行くぞ」

 手に持つ鳴龍ノ剣を握り返しユニオンは二首の龍に突撃する、その後ろを追いイロハも走り出した。

 それを見た他の冒険者達はお互いを見た、自分達はこれからどうすればいいのか。

 目の前の大きなドラゴンは間違いなくこの世界で最強と言える、これを突破することは容易じゃない。

 攻撃だって痛いところではない、二回食らえば死にそうになるのだ。そんな大物を倒せるのか。

 そんな彼らの目の前でユニオンとイロハは戦い続ける、迷うことを捨てただ戦う彼ら。

「俺脳味噌が筋肉だから攻撃するしかできないんだけど誰かバックアップしてくれる?」

 そんな中一人の男が立ち上がりながら言った、防具はボロボロで次攻撃を受けると死ぬのは目に見えている。

 誰も声を上げないと思われたが一人の聖職者が立ち上がって彼に回復魔法をかけた。

 その聖職者は魔法をかけ終わると彼に笑顔で伝えた。

「俺がバックアップしてやるよ、気にせず突っ込んでこい」

 それを聞いた男はありがとうよ、とだけいいユニオン達のもとへ駆けて行った。


「私もそろそろ本気出すかなぁ、レア武器欲しいし」

「俺この戦いに勝てたら元の世界に帰ってあの子に告白するんだ」

「残念だけどフラれると思うよ、まぁ告白はできるんだろうけど」

「かわいいヒーラーちゃんに回復してもらいたいんだけど」

「俺に任せろよ、愛と筋肉を込めて回復してやるわ」

 一人また一人と冒険者達は立ち上がっていく、彼らの顔は絶望すら振り切ったような明るい表情。

 一際大きな歓声のもと二首の竜の辺りはついさきほどと変わらぬほど派手で鮮やかな魔法に包まれた。

  

次でラストおおおおお

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