集会その後
ワイノスとの話し合いから一週間が経った。
その間カナタ達はフレイヤ山登頂の為準備を行い、特にメンバー全員のレベルを上限の六十まで上げるという目的をつい先ほど達成したところだ。
元々青い鳥のメンバーであったミチタカ、シンシ、シータの三人は六十だったので残り五人のレベル上げはフレイヤ山にほど近い場所で行った。
戦闘時の陣形としては中心部分にイース、ミチタカ、メイの遠距離ジョブ二人とヒーラーが、その前をナイトのドレッドとシータが、アタッカーのカナタとシンシとアリサは戦況に応じてグループの前後左右を移動することになっている。
ただしアリサは魔法剣士という特性を生かしてヒーラー不足のこともあり時には回復補助として動くことも今回のレベル上げ時の戦闘で決まった。
本来はナイト二人が防御バフで被ダメージを減らしながらスイッチ、メイが二人に回復魔法を使うということになる。
装備に関しても資金的には何の問題もなく揃えられることができたが店売り物が主体な為他のギルドに比べると同じ人数でも戦力差はかなり大きかった。
フレイヤ山に登頂したことのあるマモル曰く「レア四くらいはぼろぼろでる」とのことなので実際はフレイヤ山に行ってから再度装備を強化できる可能性がある。
一応パーティの戦力が整ったこともあり皆で喜びながらギルドホームに帰ると一通の手紙が届いていた。
【Forward's our ギルドマスター カナタ様】
差出人はワイノスだった。
手紙の内容を読んだカナタはワイノスの言葉を思い出した。彼が言っていたギルドマスターだけの集会が近々行われるということを。
日にちは三日後、場所はstsのギルドホームで行われると書かれている。集会の目的は当日話すというものだ。
「どんな話し合いなんだろな」
メイの淹れてくれたお茶を啜りながらドレッドが興味がありそうに聞くがカナタにしてみてもどのような話し合いが行われるのかなんて思いつかない。
「stsのギルマスが送ってくるなら結構大きな話なんじゃないの?」
「ダンジョン攻略のレイドメンバー募集とか?」
メンバー達は戦闘で疲れた体を椅子にもたれ掛けさせながら思い思いのことを喋る、カナタもその話に参加しながら三日後までどのように過ごそうかと疲れた頭で考えていた。
三日後、stsのギルドホーム。
そこで行われた集会の内容はフレイヤ山の踏破だった。
途中話がこじれてしまったが【ディープブルー】のギルマス、リディルドの案を【ラストピース】のギルマス、ユニオンが受け継ぎ手を加えるということで再度作戦へのギルド単位での募集が行われることとなった。
集会が終わるとstsのギルドホームから各ギルマス達が出て行きそれを待っていた各々のメンバー達が迎える。その中には当然カナタの姿もあったのだが彼の傍にはワイノスとりんごの姿があった。
「まさか集会の目的がフレイヤ山の登頂だったとはね」
りんごはそこそこ驚いているようだった、彼女元青い鳥の副ギルマスで現在は残ったメンバーを率いて新たに新ギルドを立ち上げている。装備のせいで”死神”というイメージしか沸かないが本人の前ではそんなことをいう根性などない。
「僕が彼から作戦のことを聞いたのもつい最近だからね、あとはユニオンが作戦にてこ入れしてどれほどのギルドが参加するやら」
「こう言った作戦はこれまでなかったのですか?二年もあればありそうな感じがしますが」
カナタはワイノスとりんごに訊ねる、そう思って当然の質問なのだが二人は首を横に振った。
「これは初めてだね、どこかのダンジョンに行こうってのは何度かあったけど本格的にフレイヤ山の登頂については今回が初めてだよ」
「皆自分達のギルドで何度か挑戦してるんだろうけどやっぱりどう足掻いても無理ってことに気付いたんじゃない?」
なるほど、とカナタは頷きそれと同時に一つの不安がこみ上げる、それは参加するギルドの数だ。
「参加するギルドは全体の何割くらいでしょうか?」
もうそのギルドホールにはカナタ達くらいしか残っていない、その中で三人の会話は大きなホールに響く。
「良くて半分かなぁ」
ワイノスの返答はカナタの期待以上であった、悪い意味で。
「そんなに少ないんですか!?」
カナタの驚きにワイノスが答える。
「フレイヤ山に行けばわかるんだけど、どれだけ十分な装備や準備をしていてもあそこでは何が起こるかわからない」
「そうなの?」
「君は行ったことないの、りんごちゃん?」
「私達の元ギルドでも行ったことはないわね、三十人じゃ厳しいとか聞いてたし皆乗り気じゃなかったから。それとちゃんはつけないで」
少し恥ずかしそうなりんごとワイノスだったがカナタはその傍で落胆の表情を浮かべていた。
それに気付いたワイノスが「もしかしたら」と付け加えて再度カナタの質問に答える。
「今回はユニオンが参加してるから増えるかもしれないね、それにそろそろ真剣にこの世界を抜け出したいと考えているギルドが多いだろうし」
「そうだといいわよね、この世界から出れる方法を見つけないとずっとこのままだし」
この世界に冒険者が現れて二年と少し、この世界に慣れた者も多いが元の世界に戻ることに固執する者の数も多い。
元の世界ではどれほどの時間が経ったのかそれすらわからず不安は日に日に大きくなる、カナタも当然そうだしギルドのメンバーもそうに違いない。
だからこそ早く元の世界に戻りたいのだ、この世界がけっして楽しくないわけではないがそれ以上にこの世界からの脱出を願う。
「僕はその作戦に参加します、そして元の世界に帰ります」
カナタの決意表明のような発言に二人はカナタの方を見た。
「でもフレイヤ山を踏破したからと言って元の世界に戻れる訳じゃないんだよ?」
「わかってます、でもフレイヤ山だけが未踏の地ならそこに期待するしかないですよね?」
この世界で冒険者に攻略されていないのはそこだけ、ならば踏破することでその可能性を確認することはけっして無駄じゃないとカナタは思う。
「そうね、行かないとわからないし。もし元の世界に戻れる方法がわかれば御の字よね」
八人では到底到達することができない目標だけれどこの作戦に参加する者が多ければ多いほど目標達成の確率は上がる。
カナタは何かが大きく変わる予兆を感じながらギルドホールを後にした。
最近戦闘シーンねぇな、もっと端折れば良かった