再会
「なんでギルマスがギルドの会議を抜けてくるんですか!?」
「だってタツヤの友達がこの街に来てるって聞いたんだもん!」
「だからってあなたのわがままを通していい理屈になる訳じゃありません!」
酒に酔いつぶれたタツヤの傍に正座するワイノスをヒナギクとティナが仁王立ちで叱っている。
タツヤの友人であるカナタに以前から会いたがっていたことやタツヤ自身が会議を抜け出してまで来るという行動に興味津々だったという点が大きいのだろう。
だからといってそれにつられてギルマスが会議を抜け出すというのはさすがに問題だとしか考えられない、そんなギルマスにギルドメンバーが怒るのは当然なのだ。
「ひとまず今日はギルドに戻って下さい、まだ会議は終わってないでしょうから今から戻れば間に合いますよ」
なんとか自分のギルマスを帰そうとナナコは説得してみるものの当の本人は口を尖がらせて帰る気など更々無いようだ。
「子供か!」
ヒナギクのツッコミを受けても不満気な表情のままでいるワイノスはまるで本当の子供のようだった。
「皆さんもこう言っておられるので今日は帰られたらどうです?」
「カナタ君までそんなこと言うの!?」
ヒナギク達に助け舟を出そうとしたカナタの言葉にワイノスは過敏に反応する、そんなワイノスにカナタは落ち着くように促しながら言葉を付け足した。
「明日ゆっくり話をしませんか?今日はもう遅いですし今から募る話をしても明日に響くでしょう、僕もこの世界に来て二年間たっちゃんが何をしていたのか、ワイノスさんがどのようにここまで大きなギルドを作られたのか、じっくり聞きたいですから」
カナタは笑顔のままでワイノスに語り掛ける、内心はなんとか納得して帰ってくれるか願うだけだが。
ワイノスの表情はまだいじけた子供のままだがそんな彼がカナタの説得を肯定したのは間もなくだった。
「…わかったよ、それじゃあ明日また来る。朝早くから来るからね!」
「えぇ、朝早く起きて待ってますよ」
カナタの説得に応じるようにワイノスは立ち上がり玄関の方へ足を向ける、それを見たヒナギク達も床に寝そべっているタツヤを担ぐと一緒に帰って行った。
「ワイノス!タツヤを担いでよ!」
「僕重たいの無理!」
カナタ達のギルドを出た五人はとても楽しそうに帰って行く、そんな彼らを見ながらカナタはふふっと笑った。
彼らが帰った後そろそろ就寝の雰囲気が漂う中玄関のドアを誰かがノックした。
(こんな夜遅くに誰が?)
(タツヤさん達?)
カナタとアリサは顔を見合わせ二度目のノックが鳴り響いた後足早に玄関に向かったアリサがドアを開いた。
少し経ってからアリサが広間にいるカナタの前まで駆け込んでくると大きな声で彼に言った。
「マ、マモルさんです!」
それを聞いたカナタは目を見開くとアリサの傍を駆け抜け玄関まで走る、それから玄関のドアの前にいる一人の人物を見た。
服装はさすがに元の世界にいた時とは違うもののその顔、その黒子、雰囲気はマモルそのものだった。
「久しぶりだねカナタ」
その声と照れくさそうに笑う彼を見たカナタは満面の笑みを浮かべ彼の元へ駆け寄る。
「良かった!無事だったんだね!ずっと探してた、中々見つからなくて」
「知り合いに聞いたんだ『お前をカナタって奴が探してる』って、まさかパーティー募集なんかで俺のこと探してるなんてさ」
『恥ずかしいだろ!』と言いながらマモルは笑った、それに釣られカナタもまた笑った。
「とりあえず中に入って!」
「でも夜遅いし皆さんに悪いんじゃない?」
「ちょっと待ってて!」
そう言いながら広間に向かおうと振り向いた先にギルドメンバーは集まっていた、彼らはカナタと”例の人”であるマモルがどれほど似ているのか、そしてどんな関係なのか、興味津々で二人を見ていた。
「今からちょっとマモルと話をしたいんだけどダメかな?お願いします!」
普段のカナタと違いここまで熱心な彼はそう見ることもできないだろう、顧願の真剣さは表情から見て取れる。
「いいに決まってるよカナちゃん、マモル君も久しぶり」
そう言ったのはミチタカだった、彼も無事マモルと出会えたことを嬉しがっていた。
「ミッチー!久しぶり!カナタのギルドにいたの?」
「そうなんだ、途中参加だけどね」
はははと笑うミチタカからカナタに目を移したマモルは訊ねた。
「それじゃあタツヤもいるの?」
「ギルドは違うけどこっちの世界にいるよ。さっき帰って行って明日また来るって言ってた、かな?」
今考えれば明日来るって言ったのはワイノスだけだったことに気付いた、でも多分、いや確実にタツヤは来ると思われる。
それを聞いたマモルの表情が少し暗くなる。そのあからさまな変わりように皆が疑問を抱く。
「それじゃあ俺だけ仲間はずれじゃん!もっと早くこの街に来ればよかった!もう!」
見てわかるほど肩を落とすマモルにカナタはひとまず中に入るよう促し彼もそれに従う。
「とりあえず中に入って、いつまで玄関にいるのさ」
カナタの言葉にマモルは従い彼の隣を過ぎ広間へと歩いていく、そんな彼を見送りながらカナタは玄関のドアを閉めた。
この世界でずっと会いたかった三人にやっと会うことができた、その気持ちと充実感がカナタの体を包む。
元の世界での約束が果たせたのはこの世界に来てから二ヵ月が過ぎてからのことだった。
今日ラーメン食べに行った。
味噌ラーメンを注文したはずが豚骨ラーメンだった。
僕は店員に何も言わずおいしい豚骨ラーメンを堪能した。