とあるギルマス
こんにちは、アリサです。
最近カナタさんは朝早く起きて毎日のように南広場の掲示板でマモルさんを探しています。
内容はその募集用紙を見たら私達のギルドまで足を運んでほしいというものですが一週間経ったもののまだマモルさんは現れません。
それでも事情を知る私としては以前よりも元気なカナタさんを見ることができうれしいです。
それに大規模ギルドの【sts】のタツヤさんにもお願いしたところ快く引き受けて下さいました!
ただそんなタツヤさんですがちょっとした問題が…。
日も暮れた頃、カナタ達のギルドにある広間にタツヤの姿があった。そして彼の仲間達も。
そこには当然カナタ達の姿もあるのだが今の状況としては蚊帳の外だ。
「考え直して、タツヤ」
「嫌だ嫌だ!」
「あんたはそんな簡単にギルドは抜けられないのわかってるでしょ!?」
「俺はカナタのとこに行くだもん!」
タツヤは机にしがみつきそれをヒナギクとナナコが引き剥がそうとするも彼は意地でも離そうとしない。
しかし女性二人とは言え戦闘職業はナイトとアタッカー、なんだかんだでタツヤを机から引き剥がした。
「は、離せ!俺はstsには帰らんぞ!」
「まぁまぁ落ち着きなさいよ」
意地でも自分のギルドに戻らないつもりのタツヤにティナは宥めるように諭しながらとある魔法を使用する。
すると先ほどまで賑やかだった彼はすぐに眠りにつきそんな彼の傍でヒナギクとナナコは一息ついた。
「ごめんなさいうるさくしちゃって」
「い、いえ。気にしないで下さい」
「…まぁタツヤの気持ちもわからないことはないんだけどねぇ」
ヒナギクはそういうと視線を足元で眠るタツヤに向けた。
タツヤ一行がカナタのギルドを訪れたのは夕刻、日が沈みかけたころだ。
別件でこの町から離れていたタツヤだったが戻ってきてみたらカナタがこの町に来ている上にギルドを作っていることを知った。
しかももう一人の友人ミチタカも同じギルドに属していると聞いたからには『行かない訳にいかない!』そう言いながら彼はギルドの会議を欠席してまでカナタのギルドに訊ねてきたのだ。
突然のタツヤの訪問に積もる話もあり最初は皆和気藹々と食事会をしていたのだが、酒の量が増えれば増えるほど『カナタのギルドに入りたい!』とわがままを言い始め結果的に先ほどのような状態になってしまった。
そんな彼を冷たい床に残しつつ食事会兼飲み会は再開された。
「友達二人が別のギルドにいるって聞いたらやっぱり入りたいと思って当たり前よね」
「そりゃそうよね、なんか自分だけ仲間はずれみたいなもんだし」
「そんなつもりじゃないんですよ!みっちゃんは元々のギルドがなくなったからこのギルドに入っただけだし!」
「俺としてはその内カナちゃんとこにお世話になろうと思ってたけどねぇ」
カナタはイースとティナに弁解をしつつミチタカの心情に驚いた。
「ワタシモコノギルドニハイリタイトズットオモッテマシタヨ」
「あんたは目的は不純だけどね」
冷たい床で眠るタツヤに毛布を掛けるメイを見ながらシンシが喋るとそんな彼を見ながらシータが冷たい視線と言葉を送る。
「どっちにしろ今すぐタツヤが【sts】を抜けることはできないと思うけどね」
「幹部だから、とかですか?」
「それもあるけどちょっと他の用事でね、私達のギルドにも色々あるのよ」
タツヤはstsという大規模ギルドの幹部であり本人の知らない内に派閥ができるほどの人物だ。
何よりギルマスであるワイノスとはこの世界に来た時からの友人でもあるということから彼の脱退はそんなに簡単にはできないだろう。
下手すれば何名かの人間が一緒にギルドを脱退することも考えられる。
カナタはタツヤに謝りたい気持ちになった。
自分がミチタカと一緒のギルドにいることはやはり皆が思うような心情になるのだろう。
謝罪したい気持ちが一杯のカナタだったが突然の来訪者に驚いた。
玄関のドアがノックされると同時に急に開く、それと同時にその人物はするりと屋内に入るとドアを
すぐ閉めた。
その人物の行動に皆が驚く、特にその人物のことをよく知っているヒナギク達は尚更だ。
「「「ワイノス!?」」」
そう呼ばれた人物、stsギルドマスター【ワイノス】は唇の前に人差し指をつけ言った。
「静かに!会議抜け出して来たから!」
カナタ達は唖然としながら彼を見ていた。
転職は気をつけろよ!




