二人の秘密
到着初日は長旅の疲れですぐ宿屋に宿泊、二日目はカナタから自由行動の許可が出た為メンバー達は宿屋でゆっくりした者もいれば買い物に出かけたり街の散策をした者もいた。
そして三日目の昼下がり彼らは小さな建物の中にいた。その建物は冒険者ギルドの密集するエリアの端にある二階建ての小さな建物、他の建物に比べ古く十年、二十年の差はありそうだ。
カナタ達はこの街に到着した際ギルドを結成することにしていた、元々パーティとして行動していただけだったがメンバーが八人となったことや毎日の宿代を考えるとギルド本部の利用料金を支払って家一軒を借りてしまった方がかなり安くなる点などを考慮して今朝登録したのだ。
午前中一杯を使って必要事項を記入し無事ギルドを結成することができ今は部屋割りや必要な家具や補修しなければいけない点を洗い出していた。
「本当にこの部屋でいいんですか、カナタさん?」
「うん、狭いとこは嫌いじゃないし寝れたらどこでもいいからね」
この家の部屋を振り分けたのだがこの小さな部屋を加えてなんとか八人分。この話が出た時率先して手を上げたのがカナタとメイだった。
話し合った結果メイは調理を担当してもらっていることもあり一番階段に近い部屋を割り当てられカナタがこの部屋の主となった、それでもメイは申し訳なさそうにこの小さな部屋の前でカナタと話していたのだ。
「ベッドはあるし窓もあるし、十分すぎるくらいだよ」
カナタはそう言い窓を開ける、すると外から中へ新鮮な空気が流れ込んでくる。
「それにしてもやっと個人の部屋が持てたね」
「そうですね、やっと落ち着けそうな気がします」
「それじゃあ部屋割りも終わったし僕は出かけるよ」
「今日もその方を探しに行かれるのですか?」
「ごめんね、今日までだけだから」
「気にしないで下さい!見つかるといいですね」
ありがとう、そう言いながらカナタはメイの傍を通り過ぎこの部屋を出る、メイはカナタが階段を下りるところまで見送りそれから自分の部屋に戻った。
この二日カナタは一人の人物を探し続けている、名は”マモル”。元の世界の友人でありこの世界でまだ出会っていない。
タツヤやミチタカはカナタよりも早くこの世界で暮らすことになったがその二人でさえマモルについて情報は掴んでいなかった。
カナタもこの街で見つからなければ一度諦めなければならないと考えている、この街に来るためパーティー…今のギルドのメンバーには世話をかけている。
探す方法としてこの冒険者ギルドの密集しているエリアで一軒づつ聞いて回るという方法に出た。マモルという人物が属していないか、もしくはその人物に心当たりはないか。カナタの人探しは続く。
「あー疲れたわね」
「そうだな、でもあとは机と足りない椅子買ったら終了だろ」
各々の部屋の掃除からキッチン、トイレ、風呂等手分けしてなんとか終わり今は一階にある広間でティータイムが行われいる。
「ミッチーに聞きたいことがあるんだけど?」
「なんですかシータさん?」
突然シータはミチタカに質問した。
「カナタさんの探してる”マモル”ってどんな人なの?」
「私も聞きたいわね、なんかすごく焦ってるみたいだけど」
シータの質問にイースも同意する、むしろここにいるミチタカ以外の人間は普段とは違うカナタを疑問に思っていた。
「なんていうかすごく必死ですよねカナタさん」
アリサも思っていたことを吐露する。
「この街に来た理由もそのマモルって友人を探すためだったしな」
その後も疑問に思っていたことを皆があれやこれやと喋っているとミチタカが語り始めた。
「…わかりました、それじゃあ説明します」
「まず僕達四人は小さな頃から一緒でしたがカナちゃんとマモル君だけは複雑なんです」
「どういうこと?」
「実は血が繋がっているんですよ」
「親戚ってことですか?」」
アリサはなんだそんなもんかと内心思った。
「いえ、そのですね…」
「もったいぶらない」
「はい、えーと、なんと言えばいいか」
「早く言いなさい」
それでも口篭るミチタカをイースが脅す。
「ち、父親が同じなんです!」
「「「!?」」」
さきほどの雰囲気から一転して一気に静かになる。
内容が内容なのだ、まるでドラマにもありそうな。
「腹違いの兄弟、になるのか?」
「かなり重い話じゃない、かなりびっくりしたわよ」
なんという境遇なのか、そんなことを思いながらすぐに次の疑問がシータの中に浮かぶ。
「年齢的に考えたら同時期の子になるしそしたら、あれですよね?」
「あれって浮気のことですか?」
「それしか考えられないですよね?」
シータとアリサは疑問の答えを疑問で返している、それにミチタカは答える。
「お父さんにあたる人がお金持ちでその愛人にあたるのが二人のお母さんです…」
「二人共かよ!!」
ドレッドが突っ込む。
「でもそのお金持ちの人がカナちゃん達が一歳になる前に事故で亡くなられてしまいその後二人のお母さんは別々の男性と結婚されました。偶然同じ幼稚園になったカナちゃんとマモル君は友達になってお互いの家に遊びに行く内に母親達はなんとなく二人が似ていることに気づいていたそうです。そして月日は流れて小学校一年生の入学式、二人の母親は出会いました」
「モリアガッテマイリマシタ」
シンシの言葉に皆が頷く、誰もコップに口をつけずミチタカの話に食い入っていた。ははっと笑ってからミチタカは続けた。
「二人の女性はお互いのことを知っていたそうです、だからと言って子供達を別れさせようとした訳でもなくお互いが仲良くなった訳でもない。すごく中途半端だと思いますけどね」
「本当にそれ以上何か問題はなかったの?」
「僕がカナちゃん達から聞いた話ではここまでしかわかりません、もしかすれば他にも問題があるかもしれませんし」
ミチタカは喋り切ってから大きく息を吐いた、それから手に持った冷めたお茶を啜る。
「今思ったんですけどミチタカさんはこのことを話しても良かったのですか?」
当然の疑問だ、正直他人にペラペラ喋っていい話ではない。
「カナちゃんからもしこのギルドの誰かに聞かれたら正直に答えてくれって言われてたんだよ、だから別に問題じゃないよ」
笑顔を作りながらミチタカは答えそれと同時に鋭く突き刺さるような視線を感じた、真横から。
「あんたなんでもっと早く言わなかったの?」
「もしかして自分だけ知ってることに優越感に浸りながらニヤニヤしてたんでしょ?」
イースとシータの視線と言葉が心に突き刺さる、確かにそんな感じが無かったわけではないが聞かれなかった以上答えなかった、それだけだ。
「いえいえ!そんなことはありませんよ!」
「本当かしら?サブマス?」
「本当ですよ!嘘ついてません!」
ちなみにサブマスとはミチタカのことだ、本来なら副パーティーリーダーのアリサがサブマスターになるのだがアリサが自分より経験の多いミチタカを推薦したことで彼がサブマスとして役に就いたのだ。
「それでカナタさんとマモルさんはそのこと気にしてないんですか?」
アリサが質問する、気にしない方が難しいと思うのだが仲良しってことはこの問題は乗り越えることができたのかもしれないとアリサは考えた。
「二人はこの問題を全然気にしてないんだよ、初めて親から聞いたのが15歳の時だったらしいけど友達としての期間の方が長いし父親がどっちに着いた訳でもないかららしいよ。ただ普通の友達ってだけの感覚ではなくそれ以上だって言ってたな」
「それはそうよね、半分は同じ血が流れてるんだからさ」
「ワタシモソンナイモウトガホシイデス」
「変態」
「フフフ」
「ま、本人同士がなんとも思っていないならいいんじゃないの?」
「ですね、それと何故カナタさんがあんなに必至なのかわかった気がします」
皆は頷く、カナタが何故必至になってマモルという人物を探していたのか。
「それにしても昼ドラみたいよね!」
そんなイースの一言にティータイムは長々と続く。
「それは本当ですか!?」
あるギルドの前でカナタが叫んだ、通りを歩く冒険者や町人のNPCは彼の方を見た。
そのギルドでカナタの対応をした人物もカナタ以上に驚く、ただの人探しだと思ったら予想以上な反応をされたことに。
「ほ、本当。でも本人かどうかまではわからないけど…」
「その人物がどこにいるかわかりますか?教えてください!」
「今どこにいるかまではわからない、一度きりだったから」
「出会った時の状況を教えて貰えませんか?」
「パーティ組んだのは一か月くらい前だったかな、この街のパーティ募集板が南の広間にあるのは知ってる?そこであるダンジョン攻略のメンバー募集してたんだ彼が」
「彼は…僕と似てましたか?」
「うんうん!似てたと思うよ。それと左目の下に黒子があったかな」
カナタは確信する、探して続けていた人物、マモルだと。
それから御礼の言葉を述べたカナタはすぐさま南の広場に向けて全力で走った、希望が現実になることを願って。
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