祖国の命運
大西中将がパイロット達に自信の考えを伝えてから丸三日がたった。
フィリピン・マバラカット飛行場には二十四人のパイロットと彼らの棺桶となるであろう二百五十kg爆弾を積んだ零戦が並んでいた。
この二十四人はそれぞれ「敷島隊」、「大和隊」、「朝日隊」、「山桜隊」と命名された部隊に配属されている。
彼らは明日出撃する事になっている。それはつまり明日が命日となるという意味である。
彼らを前に大西中将はこう語りかけた。
「特攻は統率の外道である。
もう、戦争は続けるべきではない。
ただアメリカを本土に迎えた場合、歴史に見るインディアン、ハワイ民族のように、闘魂あるものは次々に各個撃破され、日本民族の再興の機会は永久に失われてしまうだろう。
しかし、特攻により、敵を追い落とすことができれば、七分三分の講和ができる。
そのために・・・特攻を行ってでも、フィリピンを最後の戦場にしなければならない。
しかしこれは、九分九厘成功の見込みなどない。
では、何故、見込みの無いのに、このような強行愚行をするのか?
ここに信じてよいことが有る。
いかなる形の講和になろうとも
日本民族がまさに亡びんとする時に当たって、身をもって防いだ若者たちがいたという歴史の残る限り、500年後、1000年後の世に、必ずや、日本民族は再興するであろう」
この言葉に一同涙し、自分が死にに行くことの意義を知った。