零戦
1944年10月17日
ーフィリピン・大日本帝国海軍司令部ー
「やはりこの手しか無いのか。」
と、空を見上げ呟く人がいた。
大日本帝国海軍中将大西瀧次郎である。
ついさっき副官から米軍がフィリピン攻略に着手したと伝えられてから彼は苦慮していた。
彼の言うこの手とは、二百五十kg爆弾を積んだ零戦をもって敵空母に航空機諸共突っ込む作戦である。
この戦法はまったく意味の無い、というのも資源不足の中で貴重な航空機を失ってはならないのと優秀なパイロット達をむざむざ殺してしまうあまりにも愚かな策だからだ。
そんな事は本人が一番分かっている。
だが、戦況は刻一刻と悪化し、最早この作戦以外に打つ手無しという状況になってしまった。
やがて、彼は副官を呼び、戦闘機パイロット総員を呼ぶよう命じた。
この時フィリピンを守る航空戦力は僅か零戦40機程度。圧倒的物量の米軍に勝ち目は無かった。だがそれでも戦わなければならなかった。
全員が集まると、大西中将は、
「諸君も知っての通り米軍がここ、フィリピン攻略に着手した。ここは爆装した零戦をもって敵空母に突っ込む以外策は無いと思うのだが諸君はどう思うか聞きたい。」
と言うと、パイロット達の列から次々に
「やらせて下さい!」
「ぜひ自分に!」
という声が聞こえた。