七月の空
最終話です。読んでくれた皆様、どうもありがとうございます。深く感謝申し上げます。
2014年 7月15日 東京都九段靖国神社遊就館
思わず息を飲んでしまった。
特攻隊員一人一人の遺書、手紙は十代の少年の心に重くのしかかり、何か大切なことを教えてくれたような気がした。
気がつくと涙を流していた。嫌々ついてきた自分が馬鹿らしく思えると同時に、この素晴らしき先人達を知らずに生きてきた自分が恥ずかしく思えた。
そして、休憩室にいる祖父の元へ戻った。
祖父は、明るく
「戻ったか。じゃあそろそろ帰ろうか。」
と言った。
そして、少年は
「爺ちゃん、ごめん」
と言った。
そして、行きの道中での態度を詫びた。
「まぁ、いいんだ。」
と返した。
駅に着いた。電車の中で話を切り出したのは少年からだった。
「なぁ、爺ちゃんって確か鹿児島生まれだったよな。だったら、特攻隊の記憶とかってあんの?」
と問うた。
祖父は腕組みをして少し考えるふりをした。
「うん。爺ちゃんの兄貴は特攻隊で死んだんだよ。」
その話は少年にとって初耳だった。驚きを隠せない表情をした。
祖父は続けて、
「確か、今日みたいな青空が広がる七月の日だったかな。兄貴を鹿屋の飛行場で見送ったのは覚えてる。」
少年はさらに驚いて、
「え、ちょっ、マジで⁉︎もっと聞かせてよ」
とせがんだ。
祖父は
「うん。本当だよ。明け方だったかな。零戦に乗った兄貴を見て何というか、こう、心が動かされた気がしたんだ。
兄貴が死んでしまうっていう悲しさかな、それとも、反射的な何かかは分からない。そして、雷に打たれたように駆け出して、兄ちゃん、兄ちゃんって叫びながら追いかけたのを覚えてる。それから兄貴の乗った零戦が見えなくなってから地面に突っ伏して泣いたのが小さい頃の記憶にある。」
少年は唖然とした。そして、
「なんでそんな大事な話教えてくれなかったんだよ。」
と言った。
祖父は続けて、
「ごめんな。だけど、この話を伝えたくてお前を連れてきたんだ。」
と返して、
「あぁ、それともう一つ思い出した。確か、兄貴が出撃する2日前だったかな?偶然基地の近くで会った兄貴に、確か俺はお前達を守る為死にに行く。みんなを頼んだぞ。っていう感じのことを言われたっけ。」
「そうだったんだ...........」
少年はさっきと打って変わったしんみりとした表情で答えた。
続けて祖父が
「でもな、兄貴が死にに行ったおかげで今がある。それだけは分かってほしい。お前なら分かるよな?」
と言うと、
「悪いが儂は駅に着くまで少し寝る。着いたら起こしてくれ。」
と言った。
少年は、
「わかったよ。」
と答えた。
祖父は寝入った。
少年は窓の外を眺めて、特攻で死んでいった方が先人たちが守りたかった未来について考えていた。
その瞳には希望の色に似た蒼い七月の空が映っていた。




