悲しき恋〜その二、別れ〜
十一話の続きです。
ー1945年6月5日ー
北野は特攻機を見送る女学生の群れの中で加藤の姿を探していた。
もう、行ってしまったのかと思った瞬間、遂に見つけた。
群衆をかき分けて加藤に近づいた。そして、言葉をかけようとしたが、涙に阻まれて何も言えなかった。
それでも加藤はもうすぐ死ぬ人間とは思えぬほど美しい笑顔を見せると北野を抱きしめて
一言、
「さようなら。」
と言った。その瞳の奥には光る雫が溢れていた。
加藤が飛び立つのを涙と共に見送ると、飛行場の外れにいき、懐にしまっていた加藤の手紙を取り出した。渡されて以来、一度も開いていなかった。
封筒を開くと、涙が滝のように流れ落ちた。
そこには、愛しい人への思いが限り無く綴られていた。
ー拝啓、北野裕子様へ。
お別れの時がやって来ました。初恋の貴女はさぞかし悲しいでしょう。私もとても悲しいです。
貴女と一緒にいることが出来たのは一体どれ位の時間だったでしょうか。
確か一ヶ月くらいだった気がします。
矢張りとても短いですし、別れはとても辛いですね。
でも貴女は僕に初恋をくれました。
愛をくれました。
人を思う心をくれました。
忘れられない時間をくれました。
幸せをくれました。
そんな貴女に私は「悲しみ」をあげるのだと思うと胸が一杯です。どうかお許し下さい。
貴女と一緒にいた時間を抱いて征きます。
初恋の人よ。ありがとう。ー
この手紙の読み終えると北野は泣き崩れ、地に突っ伏した。