悲しき恋
二話に分割して投稿します。
ー1945年5月4日ー
連日特攻機が飛び立つ海軍鹿屋基地に空襲警報が鳴り響いた。
この警報と同時に次々に基地の人々が防空壕に飛び込んでいく。
この防空壕で男女が出会った。
男は1人の女性を見て、稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。
「美しい人だ」
ぼつりとその男、加藤耕太郎が呟いた。
そして、その女性に声をかけた。
「明日の夕方4時頃、滑走路の近くの桜の木の下に来てくれますか?」
「はい......」
17才の少女、北野裕子が呟いた。
お互い始めての恋だった。
翌日約束の時間と場所に二人がいた。
先に声をかけたのは加藤だった。
「あの.....」
「ん?何ですか?」
北野が答えた。
「僕は貴女に恋をしました。どうか、僕の恋人になって下さい!」
加藤はそう叫んだ、と同時に北野が頬を桜色に染めて答えた。
「はい.........」
そして、お互い名を名乗り、少し立ち話をした。
そして、翌日の午後から恋人としての関係が始まった。
休み時間や訓練の修了後などの空いた時間を見つけては告白をした場所で落ち合い、時か許すままに二人で散歩をした。
「生まれて初めての恋を貴女にしました。女など縁が無かったのに不思議です。でも、答えは簡単です。貴女の全てに惚れたからです。貴女は私に最高の幸せをくれたことを感謝しています。」
ある日、加藤がこう言うと、北野は頬を桜色に染めて、
「恥ずかしいことは言わないでください。」
と答えた。二人にとって最高に幸せな時間だった。こんな日が一ヶ月近く続いた。
ずっとこの時間が続いて欲しかった。
だが、運命がそれを許さなかった。
特攻命令が近づいていた。
もう直ぐ命令が出ると悟った加藤は初めて出会った場所の前に北野を呼んで、手紙を渡すと、
「これで最後です。私は実を言うと死にたくありません。何故なら私が死ねば貴女が悲しむからです。貴女が悲しむ顔を私は見たく無いんです。でも、それは未練です。未練を残したく無いのでここでお別れです。」
「そんな.....」
北野が泣きながら答えた。
「明日あたり命令が出るでしょう。その時が本当のお別れです。幸せでいて下さい。」
加藤が答えると彼は去っていった。
北野は悲しみに打ちひしがれた。




