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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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番外編 バレンタイン 中編



浅「さあいよいよ始まった胸がドキドキ恋のバレンタイン、彼のハート争奪戦! 実況は続けて私、浅部が担当させていただきます」



 バレンタインという言葉には、何か強い暗示でも込められた魔法の言葉なのだろうか。妙なハイテンションは尚も衰える事無く続いた。



浅「…さて、今回のメインである主役の優さん。一先ずは何事もなくバレンタインが始まったわけですが…」



 そういわれ、優は飛散物が飛び交う前方を見つめてコクリと頷く。



優「いや、始まってすらねぇよ」

浅「やっぱりチョコが貰えるというのは…やはり胸がドッキドキですか?」

優「うん、色んな意味でドッキドキだわ」

浅「ほほう! さてはそわそわと期待に胸を膨らませて夜中、中々寝付けなかったのでは?」

優「そうだね、唐突に始まってたたき起こされた挙句、もう不安で胸いっぱい、これからはオチオチ眠れない日々が当分は続くだろうね」

浅「な、なんと…随分と意味深な事を申していますが…まさか優さん目当てに夜な夜な忍び込んでくる輩が居る…と?」

優「そうだね、少なくとも俺の『命』目当てで寄って来る輩は目の前にいるだろうね」

浅「モテる男は辛いですねぇ!」

優「そうだね、こんなバカな規格を考えてくれた貴方のおかげでもあるんだけどね」



 そういって優は浅部を睨むも、その本人には全く持って気持ちが伝わらなかったのか、涼しい顔で優から視線を外すとマイクを持って立ち上がり、再び興奮した様子で声を上げた。



浅「おおーっと! こ、これはぁ! ななな、なんと愚零選手! その手に持っているのはまさか…! か、完成している! 頭だけだがその大きさは等身大! 忠実に優さんの顔を模ったチョコが完成されています!」

優「ねえあれ完全に見た目生首だよね。あんなん箱詰めで渡されたらこぇーよ」

浅「っとぉ!? 一度作って完成されたであろう優の頭部を『頭部言うな!!』天高く頭上に投げ上げたぁ!? そして愚零選手も同じく飛び上がると見事な包丁捌きで切り刻み一瞬で粉微塵に! 愚零選手!再び一から作り直しという振り出しに戻ったぁ!」

優「いや何がしてーのアイツ、視覚的にただの俺への嫌がらせかこれ」

浅「ふぅむ…察するに恐らくは心身共に衝動を抑えきれなかったのでしょう、初めから今に至まで「きりてぇ…きりてぇ!!」としか喋ってなかったですからねぇ…」

優「俺棄権していい?」

浅「ダメです」



 手を上げて席を立ち、優はその場から退こうと試みるも一言で却下されてしまい、しぶしぶながらも席に再び着席する。



魔「くっくっく…焦るにはまだ早いんじゃないのぉ? 優くぅん?」

浅「っとぉ! 次に動いたのは…魔王…魔王です! やはりヒロイン、番外編でもメインの座は譲れないか! 今回一番の注目選手…その山が動いたぁ!!」



 声のした方に顔を向けると、魔王が勝ち誇ったような顔でせせら笑っている。無性にイラっとした優だが何とか堪えた。



 どうやら相当に腕に自信があるらしい魔王は、その調理工程の一部を公開しだしているではないか。



魔「これから私が作るのは…今までにこの世に存在し得なかったであろう究極のチョコレート…!!」



 そういう魔王のテーブルの上には、どういう訳なのかチョコ以外の新鮮な『生モノ』がこれでもかというくらい沢山に並べられている。



優「ねえちょっと待って。お題はチョコレート菓子だったはずだよね?」

浅「流石魔王! やはり一筋ではいかないやり手です! まさかここに来て早くもどんでん返し炸裂!! バレンタインの常識を覆す!!」

優「常識を覆しすぎて避難殺到しそうだな」

浅「そして溶かしてできたチョコの海の中に…まさかまさかの魚と何かの肉をぶち込んだぁあ!!」

優「何かの肉ってなんだぁあああ!?」

魔「くく…甘いだけではない…海の魚介を楽しみ、そして男ならやっぱりお肉…! という、そんな誰しも抱く衝動を一口で解決してしまう…そう! これは一言では言い表せない魔法のお菓子なのよ…!」

優「何もかも『台無し』の一言で全て解決できそうだな」

浅「な、何という策士でしょうか! 会場にいる周りの選手も驚きざわめいている!! インパクトだけでなく、彼への熱い情熱が感じられます…! 見た目よし! 中身よし! 想いよし! パ、パーフェクト! 流石は魔王! 歴代から恐れられてきた王者の実力…ッ! これは誰にも覆せない…ッ! もはや圧巻ですッ!」

魔「くっくっく…驚くのには、まだちょいとばかし早いわね」



 そういって、魔王はガサゴソと物で散乱してゴチャゴチャとなったテーブルの中から何かを取り出した。手に持っているのは、遠目からして何か粉が入った小さな瓶…という事までは分かる。



浅「おおっと! まだまだ終われない魔王…追加として何かを取り出し、バレンタインという名の限界に挑む!!」

優「一人だけ限界ぶっちぎってもはやバレンタインを超えた違う何かだよねこれ」

魔「これを少々加えて…と」



 そういって、魔王は少々という言葉の名に恥じぬ、瓶の蓋を外して中身全てをぶち込む豪快っぷりを披露する。



優「席から大分離れているはずなのに目と鼻がいてぇよ」

浅「何やら赤い粉をぶち込んだぁ!! 魔王付近の選手が次々に鼻と目を塞ぐ!!」

優「妨害行為であいつもう退場でよくねぇ?」

浅「どうも勢い余って投入してしまったのか、舞った煙で自身もろとも周囲を巻き込んで悶え苦しんでいる様子を一見したところ…これは七味と予想されますが…ほんのり辛さをプラス…という事なのでしょうか…? まさかこれで完成なのかぁ!?」

魔「ぐ…っふ…ッケホ! …い、いいえ、まだよ!」



 咳き込み涙目になりながら再び掲げられた次なる小さい瓶。同じく赤い色だが今度は粉ではなく液体のように見える。



魔「これも少々加えて…っと」



 そういって、魔王は少々という言葉の意味を深く考えさせる、瓶の蓋を外して中身を全て注ぐという暴挙に打って出た。



浅「あ、あれは…私の大好物である…タバセコ…タバセコです! それを…なんと中身全部…! これは…とっても辛そうですね!」

優「辛いで済むのあれ?」

魔「あとは形を整えて固めれば完成よ!!」



 どうやら魔王の製作工程は無事に終えたらしい。一部始終を見ただけでも嫌という程に十分と結果が見えてしまって辛い。



浅「いやぁ…完成が待ち遠しいですねぇ…」

優「そうだね、待ち遠しいままこの話終わればいいね」

浅「やはり今の気持ちとしては…ドッキドキですか?」

優「そうだね、心臓が張り裂けそうなくらいドッキドキだね」



 もはや魔王のチョコ?を食すくらいならば、魔王以外なら誰でもいいから一番最初に来た奴を優勝させようと優は決心する。



浅「さてさて、開始してからそこそこの時間が経過しましたが…やはり魔王に続いて、チラホラと完成に近づいてきた者達が目立つようになってきましたねぇ…っと、次にいち早く完成しそうなのは…桜…ッ!」

優「順番的に二番手か……」



 物事に几帳面な桜は、テーブルには既にそれぞれ調理に使うであろう材料がきちんと揃えてある。



 一つ一つ並べたものに指を指しながら目を通している様子を見たところ、これから行動に移す前の確認作業の最中だろうか。



桜「チョコ良し、クリーム良し、イチゴ良し、粉パウダー良し……」



 デコレーション用だろうか、桜はブツブツと出だしから中々に期待できそうな材料を口に出している。



 この調子なら、相当に余計な手間を加えなければ美味しい物が作れるのは間違いない。



優「良かった…これなら安心して桜を一位にできそ――」

桜「お酒良し、洗剤良し、ココア良し……」

優「――ねえ今何か不穏な単語が混じってなかった?」



 安心して他の選手に視線を向けた瞬間、耳元に届いた確かな不穏な単語に、優は再び桜のテーブルへと視線を戻した。



浅「ん? 何を言っているんだい? 桜は何事も無く順調に事を運んでいるじゃないか?」



 確かに、桜の行動には今のところ不信な点は何処にも見当たらない。



優「い、いや…確かに今、ハッキリと『洗剤』とかいうおかしな言葉が…」

浅「勘違いじゃないのか? きっと、幻聴が聞こえるくらいに疲れているのだろう、今はゆっくりと休んどきなさい」

優「ゆっくり休んでも目が覚めたら悪夢しかまってないと思うんだけど」

浅「第一、洗剤と聞こえたからといったってそれが何だというんだ、食器を洗う時に使う為、前以て用意しているだけなんじゃないのか?」



 言われてみて優は成程と納得する。普通に考えれば当たり前の事。



 そりゃそうだ。誰がどう考えたって洗剤なんかをチョコにぶち込むなんて高度な発想、あの魔王ですら考えなかった事なのだ。少し過敏になり過ぎていたに違い無い。



優「そう…ですよね…、疲れてるんですよねきっと!」



 そういって、優は桜を信じて真っすぐに前を見つめる。



 丁度その頃、桜は最後の仕上げに入る前に何やら見覚えのある物を手に持ち、たっぷりと液体をチョコの中に流し込んでいる最中だった。



 色が徐々に別物へと変色し、チョコであったはずの物体からはかき混ぜる事に妙な泡立ちを発し始めている。



桜「あとはここでとろみを加えれば……」

優「…あれ、おかしいな。涙で前が見えないや」

浅「いやぁ、嬉しさのあまり感涙ですか優さん。とはいえ無理もないですね、私の娘の手料理が食べられるなんて幸せ極まりないですからね!」

優「…そうですね、確かに不幸せ極まり無いですね」



 そういった直後、優の肩が力強く掴まれ浅部の顔が近くまで迫って来る。



浅「まあ…愛のこもったチョコですから…美味しいに決まっているのは確かですが、食べたらぜひ感想もお願いしますね」



 その時点で優の考えていた予定が崩れ去った。本来なら、一番、もしくは二番手に持ってきた、とりあえずは命の危険が感じない程度の相手を選んでてっとりばやく一位にして優勝。はいこれでこのバカ騒ぎは終い…という流れを頭の中では構築していたのだ。



 万が一に桜や魔王が先行してきても、後の選手が持ってくるまで時間を稼ごうと思っていた。なのに、浅部の今のセリフを聞いた限り、順位関係なく食せと申しているようにしか聞こえない。



優「ちょっと待って。…え? あれ食べなきゃいけない前提なの?」

浅「そりゃそうでしょう、想いのこもった…【愛の塊】のようなチョコなんですよ?」



 その会話の最中、偶然にも桜の手に持っている袋に目がいった。



 頭に『セ』が付いて終わりに『ト』の文字が書かれた粉を、それはもうまんべんなく振りかけている一部始終を見つめてから一言。



優「【殺意と狂気の塊】の間違いじゃ?」

浅「遠目から見ただけでも相当な量になりそうなので、優さんにはいっぱい食べて貰わないといけませんねぇ」

優「いつからバレンタインは拷問行事に変わったの?」



 そういうと、浅部はニッコリと笑って優に問いかける。



浅「勿論、桜の分は残さず全部食べますよね?」

優「殺す気ですか?」



 そうこうしている内に、完成したチョコを一人の人物が優の目前に差し出した。



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