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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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刹那の戦い



 鈍い感触が手元に伝わる。幾度なくとして感じた、肉を絶つ嫌な感触。確かに手ごたえはあった。



「……ッ!」



 …のだが、目の前が微かに歪み、微かではあるがブライトの姿に乱れが生じた。



 ――違う。そう、錯覚させられている!!



 ブライトが体制を崩し地面に膝を付く姿を最後まで見届ける事無く、優は背後に振り向き剣を振るった。



 瞬間、動きが止まった。首筋に伝わる冷たい感触が、同様にブライトにも伝わる。



 お互いが静止した最中で、威嚇し合う二人。するとブライトは不意に笑みを零す。



 お互いに見つめ合う、浮かぶ瞳の紋様。それは暗示。



「…ッさせるかよ!!」



 優の意識は思考よりも早く身体が反応を示した。咄嗟に剣を振るう、しかしその手を動きが止まる。



 だが、それを見越していた優はすかさず胴体に向けて蹴りを放ち、蹴り上げた反動で後ろへと下がった。



 姿勢を崩すブライトに向け、続けた追撃を行おうと足を前に出す…が、目の前にいたはずのブライトの姿が無い。



「…な…ッ!」



 背後から迫り寄る気配。前に倒したこの体制からでは、咄嗟な反応を示したところで間に合いはしない。



「…ぐ…ぅ!?」



 とはいえ、それが普通の反応であれば…の話だが。



 現に苦悶の症状を浮かべたのは優ではなくブライトの方であった。



 剣が振り下ろされるよりも先に優の身体が動いていたのだ。



 驚異的な反射神経によるもの…ではない。かといって常識を外れた身体能力による動きでもない。







 ――想像イメージする。






 初めから、そうくるだろうと予測していた。






 優が前に身体を倒し、踏み出そうと足を一歩前に出した…その瞬間、地面に触れた足先から中心に、周囲の瓦礫が衝撃で吹き飛ばされる。



 そして、優の身体がバネのように凄まじい速度で後ろに、突如として飛び上がったのだ。



「ぬ…ぅお!?」



 溝へと目掛け、全力の蹴り。しかしブライトの反射神経も相当に鋭い。直撃する直前、咄嗟に剣を盾代わりとして衝撃を緩和していた。 



「…ぐ…ッ!」



 しかし、咄嗟による判断は半ば条件反射での防御…その行為に至ってしまっただけに過ぎない。守りに精一杯だったのか、衝撃を完全に受け流しきれず身体は宙へ、その反動で重心がぶれている。



 ほんの一瞬、右脇に隙が生じた。一秒にも満たない僅かな抜け穴。ただ、隙なんてものは一秒あればそこを付くのは容易い。



 視覚から脳へと情報が送られ認識。それから行動に移すまでの驚異的な瞬発力。





 ――想像イメージする。




 それは、一瞬にして間合いを詰める天満の脚力。



 全身に伝わる浮遊感、受けた衝撃に身を強張らせていた途端に、数歩先からブライトの目先に表れた優。



 ハッと次なる手に備えようと身構える姿勢を取るが、しかし行動に移すには遅い。今からでは受けるにも逃げるにも間に合いはしない。




 ――想像イメージする。




 それは、相馬の技を垣間見た、無数に飛び立つ幾つもの矛。



「が、無駄だ!!」



 再び優の目前から姿を消し、そして背後へと現れたブライト。その手は通じないと優位な立場を知らしめようとするも、驚愕の声は背後から上がる。



「…ッな!?」



 放たれた無数の刃は、初めから軌道が背後に居るブライトに向かって一直線なのだ。



「…ッだとしても!!」



 迫りくる死に怖気づかず、手に掛けた剣を無防備に背中を向けた優へと向けて振り下ろす。



 甲高い音が鳴り響き、二つの剣が手元から離れ空に浮かんだ。



 頭上に弾き返されたブライトの剣、反動で背後へと弾き飛んだ優の剣。互い互いに持つ剣は無し。一つ多く手を打った優が優勢…が、弾き飛ばされたブライトの剣によって迫る刃が全て防がれる。



 振り向き際の優と、迫ったブライトは正面を向きあい、互角の中で鋭き瞳は覗き合う。



 その瞳の奥に宿された、陣の刻印を。



 勝機を見出し、ブライトは獰猛な笑みを溢す。



「…悪いが…俺の方があんさんより一枚上手だったようだな」



 図ったかのようなタイミングで落下する剣を掴み取り、その瞳は優の瞳を覗く。



 命令は何でもいい。一瞬でも動きを止めれば、鈍らせられればそれで肩が付く。 



 だからこそ、ただシンプルに、率直に、ブライトは優に対して『止まれ』とだけ命じた。



 するとその瞬間から、ピクリと身体を震わすと優の動きが止まる。



 動けなければ、瞬間的な移動もできない。かといって、今から命令を解いても間に合いはしない。



 尚も動けぬままの優に、無慈悲にも迫る剣。振りかぶった剣が優に触れる、その数ミリというところで。






 ブライトの動きが『止まった』。 






「…………こ…れは……」



 突如として身動きが出来なくなったことに、思考が一瞬にして真っ白になる。



 何故、どうして。そんな考えすら及ばない、想定もしなかった。




 ――想像イメージする。




 ニンマリと徐々に目前で引き裂かれていく口を見つめ、ブライトは何が起きたか理解した。




 逃げるでもなく、避けるでもなく、解こうとした訳でもなく。




 それは、これまでにブライトが行ってきた暗示。




 ただ、ブライトと同じように命令したのだ。ほぼ同タイミングでお互いがお互いに『止まれ』と。



 だとしても、元はブライト本人のもの。理解すれば解除は一瞬。それは優も同じ。



「だとして、それが何だ!!」



 ブレは誤差でしかない。武器を持たなければ結局は結果は同じ事。



 解除も恐らく同タイミング、であれば勝敗は決して変わりはしない。



 そんなブライトの思考を遮るように、微かな風が通り過ぎて。






 ――想像イメージする。 






 優の思考に寄り添うように、その風は次第に強さを増して渦を巻いた。

 


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