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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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ナイスな性格



「……どういう事だ?」



 即座に質問に対して疑問を投げかけるも、対するマーベルはすまし顔のまま答える。



「どうもこうも無い。今告げた言葉そのものの意味を訊いている」

「……っつーわれても…そもそもそんな生き物が存在してるのか? 虚像の姿形を想像してもしょうがないが」

「一つ言わせて貰うが、ワシは嘘を付かない主義である」

「…すると、実在してるっていうのか? 魔法を使わず、生身で打ち消せる生物が?」



 それにマーベルは小さな相槌を打つ。



 嘘は付かない…となればその後の会話も嘘はないと言う主張に意するか。



「……じゃあ聞くが…そいつは人間か?」

「そうであるな…確かにあ奴は人間であった」



 その言葉に、ブライトは深く考え込む。



 果たして普通の人間が、そんな超人になれるか? というかそもそも魔法を生身で壊すって、どういう状況だ?



 何となくその時に起こったであろう出来事を脳内にモワモワと想像してみる。



 すると不思議な事に、何も考えてもいないのに勝手に姿形が浮かんできた。そして、脳裏に浮かんだそれは確かに超人だった、



 身体能力が常人の遥か彼方にぶっ飛んでて、一歩歩けば数十メートル先へ、瞬きしている間に反復横跳びを数往復でき、挙句に矢の雨だろうと隕石だろうと素手で見事キャッチして投げ飛ばす、常時パンツ一丁、時折全裸になる筋肉モリモリ爽やかイケメン…。



「っつーところまでは想像できた」



 からの続けて真顔で一言。



「うん、まあ、ないな」



 そういって、もう一度考え直すことにした。






 …・…・…







 ブライトとフィレットの耳に届いた、パキンッと小さなガラスを割ったような破裂音。加えて肌で微かに感じ取れた、生じる魔法の乱れが起こす微かな余波。



「…え?」



 フィレットの口から思わず零れてしまった呆けた一言。首を傾げると、優を見つめたまま何度か瞬きを繰り返す。



「…え、あ、あれ? そ、そんな…こんなことってッ!?」



 少しの間をおいて我に返ったらしい。慌てふためくフィレットの様子からして、彼の行動はハッタリではないのは確かだ。



 すると確実に、何をするまでもなく無造作な行動だけで魔法を無力化したとなる。



 今のは…もしや…。



 そういった現象を目撃した覚えは無い…が、ブライトは探るような視線で押し黙る。記憶の片隅にだが、僅かながらの心当たりが残っていた。



 これは…なんと…。



 その曖昧ながらも確かに記憶に残っている心当たりを思い出すと、同時に背筋に凄まじい寒気が襲う。ゾクゾクと身震いながら這い上がる、快感にも似た極度の興奮。



「(マーベル・クリストン…どうやらアンタの話、あながち嘘じゃないって事、ようやく理解した…!)」



 無意識に口元を吊り上げる。



 記憶の美化や薄れた曖昧な記憶が、妄想による修正で過度な期待を催す。



 脳髄の奥の奥を刺激し、全身の神経に流れる刹那の電流、指先がピクピクと小刻みに震え、生唾を飲み込む。



「次余計な邪魔立てしてきたら、てめぇから真っ先にぶっ飛ばす」

「…え、あ、え? ちょ、ちょっと待って…!」



 フィレットの声を無視して此方に鋭い視線を送ってくる。初めからあんさんの標的は俺らしい。



 本当は相手にするつもりは端から無かったが、使命に支障が無ければ興に投じるのも悪くはない。



 剣を片手にぶら下げながら、彼は隠す気の無い殺気を浴びせてくる。



 邪魔が無い今、一触即発な雰囲気。今にでも手が出るんじゃないかと、ブライトも拾い上げた剣を持つ手に力を込める。



「…おいおっさん」



 が、剣と剣を交えるよりも先に彼は対話を持ちかけた。



 とはいえ様子からして、概ね先ほどについての話だろうと予想は付いている。



「クク、どうしたあんさん、何か用か?」

「いや、大した用じゃねーけどさ、勘違いでしたって後から言われても嫌だからよ。もー一度だけ確認に聞きたいと思ってな」



 やはりかと、優の話を耳にしたブライトは肩を落とす。



 何を理由にここまで男を駆り立てるのか、正義だとでも答えるか、だとすれば理由も知らずに首を突っ込む、恐ろしく質の悪い偽善者だ。



 まあ、騙されやすそうな面立ちであるし、何かしら吹き込まれて勘違いでもしているのだろう。



「ふむ、そこに倒れているガラクタの事か?」



 瞬間、予想通り男の目つきがさらに険しくなる。



「……何で彼女を…襲うなんて真似をした…? それには理由があったのか…?」

「…ふむ、理由か……理由…」



 理由を知らない、理解していない時点で、やはり騙され利用された口である事が限りなく近い。



 ふむ、となればいきなり襲うにも些か抵抗がある…ということだろうか。さっきまで頭に血が上っていた様子であったが、冷静さを欠いてはいないように見えるしな。



 さて、ここでどう受け答えをするか…それが胆だな。



 ここで本当の事を話せば、恐らく彼の闘争心は揺らぎ薄れるだろう。場合によっては剣と剣を交えることも無く和解もあり得る。



 本来であればそれが一番てっとり速く理想的…仕事を優先してこその選択…。



「…そんなもん、ある訳ないだろう?」



 だが…興を優先したことを少し反省せねばなるまい。ちょっとした悪戯心、好奇心は悪魔の囁きであると。



「そうか…」



 怒鳴ることもなく、切りかかってくることもなく、今の言葉は諦めの溜息といったところか。ふぅーという吐いた息、乱れる気持ちを整えるその素振り。



 からかうつもりでいたのだが…完全に彼の導火線に火を付けてしまったようだ。



「もういい、とにかくてめぇを…ぶち殺す!!」



 そういった途端、男の姿が霞む。



「おっと」



 咄嗟に剣を前に構え衝撃を受け止める。



 先ほどの太刀筋といい、今の身体速度といい、成程素人ではない。熟練者であろう、動きに大きな乱れもなく、隙も限りなく少ない。



 が、その僅かな隙すらも懐にわざと潜り込ませる為の演技である可能性もある。



 どう攻め入るか、それとも探りを入れるか…。



 そんな考えを乱す剣戟が、右から左からと勢いが衰える事無く攻め入ってくる。



「ぐ、む…と、うぉ?」



 弾かれる事で生じる甲高い金属音、飛ばされた剣は何度かの高音を鳴らして地面に着地。取りに行こうにも些か距離がある。



 急いで取りに戻ろうと身を翻して足を延ばすが、それよりも先に視界を遮る邪魔が入る。



「…まあ、そんな隙を見逃す訳ないよな」



 顔のすぐ目の前に剣を突きつけられ、身動き取れずに動きを止めた。



 これは参ったと降参の意で両手を上げる。



 軽く剣を交える程度で終わらすつもりだったが…。剣筋では相手の方が実力が上か。



「…ッハ! おっさん、あんた見掛け倒しなくらい拍子抜けだなおい!」

「ああ…そうかもな…俺は必死になって汗水垂らすのが苦手でな、鍛錬とか鍛えるとかはあまりしていない。付け加えりゃ昔っから俺は剣技があまり得意じゃねぇ」

「…随分潔いいな、ならそのまま本当の理由を吐け。……事情があるなら聞いてやる。場合によっては遺言するが…って事でいいからさっさと言え」

「クク…遺言?」



 遺言という言葉を耳にした途端、ブライトは嘲笑うと眼帯に手を掛ける。



「…おい、動くな」

「もう勝った気か…随分と気が早いんだなあんさん、まだ勝負は始まったばかりだってのによ」

「…ッチィ! 動くなっつってんだろーが!!」



 そういってから腕に力を込めて切りかかってくる辺り、その手を血で汚す事に躊躇い、抵抗があるのは一目瞭然。



 そしてその抑制する感情が、一番の隙を生む。



「あー、あんさんは、俺が思っている以上に甘ちゃんなようだ」



 優が動くよりも先に眼帯を取り外したブライトは、手に持った眼帯を懐にしまうと、哀れみに深い息を吐く。



「…ッ! 誰が甘ちゃッ…ッコ…ォ…?」



 と、声を荒げたと思ったら途端に声音を落とし、違和感を覚えた様子で乾いた息を吐き出した。



 ピタリと剣の動きが止まったまま、その様子を見たブライトは何もせず、何事も無かったかのように平然とその様子を棒立ちで眺める。



「クク、いやー良かった良かった、もし通用してなかったらやられてた。生身で魔法を打ち消せる力を持ってるもんだから、そんな相手に同じ魔法が効くか少々不安だったんだ」

「…お前…ッカ…何を…した…?」



 そういって、途切れ途切れに力の無い声を漏らし、苦しそうに喉元を手のひらで抑えてもがく男を見つめ、ブライトは喜々として語る。



「何、大したことじゃない。ほんの少しばかりあんさんに『息を止めろ』っつう、ちょっとした暗示を掛けただけの事」

「か…か…ぁ…!!」

「…ふむ。物理的な魔法、触れられる類の魔法なら簡単に壊せるらしいが…直接内部に送られる魔法はちゃんと効くのか、思ったよりも難儀でないな」

「は……ひ…ひ…た、…たす…け……!」



 折角暗示を掛けたとネタバレにも近いヒントを与えたというのに、尚も悶えながらさらに助けを求めるような声を上げる。



 どうやら魔法を解く手段を持ち合わせていないのか、次第に悶え苦しんでいる動きが力なく、抵抗できない程に弱弱しくなっていく。



「……おいおい、ほんの小手調べのつもりだったが…まさか…な、この程度で終わりとは…拍子抜けは此方のセリフだったな…」



 そういって、興が削がれたとばかりに優の死に様を最後まで看取ることなく踵を返す。



 そして振り返る事も無く歩き出そうとした、その瞬間だった。




「ブライトさん!! 後ろ!!」




 突然のフィレットの叫び声に、身の危険を感じたブライトは咄嗟にその場を飛び退く。



 背後を振り返ると、驚くべきことにさっきまで虫の息だったはずの男が、平然とした様子で剣を構えていた。



「ッチィ…余計な真似を…ッ!!」



 そういって、空ぶった事に苛立ちを覚えた様子で「次邪魔したら今度こそまじで潰す…」などと、実に穏便でない様子でぶつぶつと毒づきながら、気に食わないとばかりにフィレットを睨みつける。



「…ふむ、途中から演技だったのか。まんまと騙された。というか見かけによらず随分とせこい手を使うんだな」

「勝負事に汚いも綺麗もあるかよ…というより、先に仕掛けたのはてめーだろーが!!」



 汚いもくそもあるかって言う事か、と恥も礼儀も知らない輩だなと思いながらも、まあでも言われてみればそうだな。と納得。



 ただし、身振り素振りはすっとボケた様子で一言。



「そうだったか? あ、ところであんさん、縛られるのって好きか?」

「いきなり何言ってんだよ、いや、それよりそうだったかって…とぼけんじゃ……ッ!?」



 いきなり言葉とともに足の動きを止めた優を見つめ、ブライトは楽しそうに首を傾げながら一言。



「…とぼけんじゃ?」

「……んのやらぁああああ!!」

「んじゃ、暗いところは好きか?」



 すると、途端に男の足取りがフラフラと左右に振れる。



「…!? 前が…見えッ!?」

「見え?」

「……見え、見え…見えない、訳がないんだよなそれが!!!」



 そういって切りかかってくるが、一歩後ろに下がっただけで優の剣は宙を舞う。



「残念!惜しかったなあんさん!空振りだ!」



 と、毛ほども惜しくもなんともないのに励ましの声を掛けて笑顔を向ける。そして男の様子を観察。



 見た感じで言うと、多分、マジ切れモード三秒前ってところだろうか。空ぶった挙句に馬鹿にされている、遊ばれているという羞恥心で顔が茹でたタコのように顔が真っ赤っかだ。



 プルプルと怒りに肩を震わして立ち尽くしている。なんというかそろそろ、というか今にも毒づきそうだ。



「…う…ぜぇええ…!」



 とか思っていた矢先にか。



 やらせにもう一度呼吸を止めさせてみる。



 すると何秒がして優は勢いのいい足踏みを起こし、ぜぇはぁと荒い息を立てて再び一言。



「まじ…くっそうっっぜぇえ…!!」



 しかし、振り絞って出てきた言葉かこれかぁ。それしか言えないのか。



 とか思っていると、親の仇を睨むような眼光を向けてきて、再び絞り出されたような一言。



「…お前…いい性格してるわ」



 成るほど、そう来るか。



「ふむ、性格ときたか」



 そういうと、優は大袈裟な身振り素振りでの反応を見せ、首を傾げて疑問の声を上げた。



「んん? よく言われるんじゃねーのか?」



 怪訝そうに尋ねてくるので、それに反応して咄嗟に相槌を打つ。



「ん、あ、ああ、よく言われるな」



 すると、優は納得したようにうんうんと何度も頷いた。



「だろ?」

「ああ、だけどあんさんもよく言われるんじゃないのか?」



 なので、同じように返答してみた。



 すると、訊いてもいないのに彼はニッコリと笑うと尋ねるように一言。



「別の意味で?」



 そう言われてしまったので、特に答える気はなかったものの訊かれてしまったものはしょうがない。続くようにブライトも笑顔で答える。



「ああ、別の意味で」

「っしゃああああああああああああてめぇマジでぶっ殺してやらぁああこのやらぁああああああああ!!!!」


 

 絶叫からの発狂、それとも発狂からの絶叫か。怒声を上げて彼は勢いよく剣を地面に突き立てる。


 

 そんな様子を見つめ、ブライトは近くに居るフィレットに向けて思ったままの事を素で漏らす。



「…なああんちゃん」

「…はい?」

「…今ので切れると思うか普通?」

「…さ、さぁ…」



 訊かれた事に対してなんとも答えようがないのか、フィレットはもの凄く微妙な表情を浮かべると、苦笑いを浮かべる。



「…切れねーよな、普通」

「え、ええ…まあ…そこはその…人それぞれですし」

「…それもそうだな」



 ブライトもといフィレット曰く、どうも彼は煽り耐性もとい沸点が相当低いらしい。



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