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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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魔王死す



 パリーン、ガシャーン、パリーン!!



 割られた窓の隙間から城の中に何かが投げ込まれる。



 おいおい、折角掃除したばっかなのに、汚すんじゃないよ。



 見れば木の枝や石ばかり。何時まで経っても進展が無い事に一部の人間が煮えを切らしたのだろう、城を囲むように群がる人々が手あたり次第に投げ込んでくる。



 俺は壊れた隙間から下を覗いてみた。するとオロオロと困った顔で周囲を見ている子が何人か見える。



 良かった、まだこういうのに戸惑いを感じている子もチラホラいるみたいだ。正義感が強い子なのかな。



 もしかしたら単に友人とかに連れてこられただけで、乗り気じゃないとか、もしかして友人とかを止めにきたとか?



 そうだよな! やっぱり金だけじゃ完全に人の心は動かせな…………え、あれ、今石掴んで?



 とか思っていたら、プロ顔負けの剛速球で石ころが俺の顔のすぐ傍を通った。



 後から髪の毛全部後ろに飛ぶくらいに凄い突風が来たんだけど、今の何キロ出てたの。



「ふ、ふひ…ふふふふひ…ひぃやっはああああああああああああ! った、たのしぃいいいいいいいいい!!!!」



 さっきまで止めなよ皆的な雰囲気かもしだしていたのに、戸惑い何処いった。



「オラオラオラオラオラオラ出てこいよぉおおおおおお!!」



 最初は戸惑いがちだった大人しそうな女の子も、今じゃラスボスの悪役してる顔みたいに楽しそうに次々と石やらナイフを投げ込んでくる。あの中で一番殺意高くねーか、というかナイフ何処からだしたの。



「……女って怖い」



 軽くトラウマを植え付けられたところで、俺はこれ以上は外の様子を見るのは止めた。



 しかし無視しようにも、一人の女の子を差し置いてもガンゴンガンとやはりリズミカルにやかましい。



 あんまし人の家を荒らさないで欲しいものだ。つっても天満バカが現れてから一番重要な件がうやむやになってしまっていたが、指名手配されているんだよなあ。



 本心から正義感あっての行動だという人がいたのなら申し訳ないですはい。



 とまあそれは置いとくとして。



 はてさてどうしたものか。門はまだ破られていないようだし、隠し通路でも使って裏口から逃げるか?



 なんか途端に魔王がケラケラと笑いながら外を眺め始めたけど無視するべきか? いや、話がややこしくなりそうだし一応聞いておこう。



「そんなに焦らなくても大丈夫だよー優くん、このお城はとても頑丈に作られているんだから」

「言いたい事は分かるが…だがな魔王、さっきの男がやってきたように、あんまし悠長にしていられるような時間はないぞ。新手がすぐ傍まで来ているかもしれないんだからな」

「まー、そうだけど…でも皆ほんとよく頑張るよねー。ただの石とか枝とか…そんなの幾ら投げてきたところでこの城は何時までたっても壊れ」

「ひぃやっはああああああ!!」



 外に居た女が魔王の言葉を遮って石を投げる。



 ッボゴォオオン!!



「ッスットラァアアアイクウウウウ!!」



 大砲でも打ち込まれたような破壊力で、魔王のすぐ傍に壁のあった箇所を見つめる。



「…………時間は掛かるからすぐに壊される心配は無いけど…それも時間の問題だね、早く逃げよう」

「だよね、そうなるよね。何か明らかにおかしいのが一人混じってるよね。これいつ門壊されるかヒヤヒヤすんだけど」



 魔王の意見に俺は頷く。



 単純に立てこもるだけなら数か月は余裕だ、それだけ長期溜め込んできた食料が保管庫にしまわれている。しかし、数か月もの間があればこの要塞と呼ばれた城でも、大砲を用意するなり詠唱部隊を呼ぶなり、幾らでも破壊する手立てを考えることができる。



 だからといって裏口から逃げだしたとしても、問題は行く当てがないというところか。



 指名手配されている以上は何処に逃げても追われる身。そう簡単に匿ってもらえるような場所があるはずもない。逆にどんなに人気の離れたところで暮らしても、場合によっては探知系の魔法で位置を特定されてしまう。



 速急にこの状況をどうにかしなければ、捕まるのは時間の問題といってもいい現状だ。

 


「さて、どうすればいいのやら…」

「これぞまさに絶体絶命だね!」

「魔王…」



 こんな状況に対しても明るい魔王。もしかして俺を励まそうとしているのか。



 そのポジティブ精神に感動した俺は、笑顔で拳を握りしめる。



「お前のせいでこうなったんだけどね」

「いや~、それほどでもないって~!」



 魔王は照れたようにして頭を掻く。



「褒めてねえよ!」



 なんでこいつはこんなにも能天気でいられるんだ、緊張感というものがないのだろうか。俺は疑念を魔王に向けて睨む。



 あれ、よく見たら変だ。



 何か目の奥が光輝いているように見えるのは気のせいかな。凄いキラキラと効果音が鳴りそうなくらい煌めいているんだが。



 魔王が目を輝かせるときって、それは欲しいものを目にするときと、楽しんでいるときのどちらかに絞られる。



 無論この状況で考えられることと言えば。



「……魔王…お前、もしかして…今の状況を楽しんでいたりしないよな?」



 頬を引きつらせながらも俺は魔王を精一杯の笑顔で見つめる。



 まさか苦労の二年を水の泡にして、挙句に追われる身にさせておといて。そんなまさかまさかの立場に置かれている俺を他所に自分は楽しんでいるなんて、そんな事があるわけない。



 俺は信じているよ。魔王がそんな奴じゃないって、十三%くらい。



「ギクッ」



 やはり思ってた通りあるようだ。



「ま~お~う~?ちょぉおおっと話をしようかぁああ?」



 やはりこいつには、それ相当のしつけが必要なようだ。



「いやいやいや! 優くん誤解してるよ! 私はこれっぽちも、本当にこれっぽっちも世界を敵に回した優くんは私を守るため世界と戦うシリアスな展開を期待していたなんて…これっぽっちも、そう、微塵も思ってなんかいないよ!」



 思っていたようだ。



「そのあとに私と優くんは支えあうお互いの気持ちが分かり合う仲になっていき、それが情熱的な愛に変わってラブラブな展開に発展していくなんてこれっぽっちも思っていなかったんだから!」



 思っていたようだ。



「でもでも」

「ああもうお前言いたいことはわかったからもう言わんでいい! …聞いた俺がバカだった」



 あまりにもふざけた話に叱っていた自分があほらしくなってきた。



 そもそも事態は対して変わらなかったかもしれない。例えこの間の放送を止めたとしても、いつかはボロが生じる。そう遠くない未来に魔王の正体がバレてもおかしくはなかった。



 それに…魔王と一緒に居る時点でいつかこうなることはわかっているつもりでいた。こうなってしまったのは、結果から言えば速いか遅いかに過ぎない。



 ……だが、それでも。俺が想像していたのとは斜め上過ぎる展開だったけど。



「できればばれるのはもう少し先が良かったが…」

「な、なにかいいましたで御座いまするでしょうか?!」



 おっと、思ったことが口に出てしまったようだ。



 魔王が怯えながらなのかどっちなのか、目をキラキラ輝かせて聞いてくるけどどっちなんだこれ。



「あ、いや、なんもない…それよりもう怒ってないからその敬語なのかよくわからない言葉使いを止めろ」



 なんで目がキラキラ輝いているのか、その事については深く触れないことにした。



「そ、そう? わかった~! もう優くんったら優しいんだから! もう大好き! 愛してる!」

「何そのメッキ並みの薄っぺらい愛」

「ひっどいなもう~。本心だよー」

「ああはいはい勝手にいってろ…。つうか考え事に集中できないから、いい加減人の家に色々と投げ込んでくるのを止めて欲しいな…」



 ガンガンガン!



 今も石や木の枝など、尚も城に向けて投げ込まれてきている。投げ込んでくるのに間に人が増えてきた。まだまだ音が鳴り止む気配は当分なさそうだ。



 それでも大量に投げ込まれていたときを考えると、投げ込めるものが辺りに無くなってきたというところだろうか?



 ずっと怒声を上げたり投げたりと流石に体力面的にもそろそろ疲れが出てくるだろうし、野次馬目的なら飽きてきた頃合いだろう。裏手に人が回っていないかの確認も含め、もう少し様子を見てから逃げるとするか。



 部屋を出ようとドアノブに手を掛けた際、不意に俺は粉々に砕け散った破片を見つめる。



 しっかし、天満…って言ったか? あいつ何者だったんだ。



 割られていない窓にも色々とぶつけられた跡が無数に残っている。割れるかどうか試したのだろう。残念ながら実は簡単には割れないよう、一部を除いて特殊な強化ガラスを使用している。



 見た目では簡単に分からないはずなんだけど…しかし天満にはあっさり見破られたみたいだし。



 うーん。それともすげえ馬鹿っぽかったし、たまたま偶然割れやすいところに突っ込んだだけなんかなあ…。



 まあ、今考えても仕方ないか。



「魔王、取りあえずこの部屋を出るぞ」

「んー? 外に出るの?」

「裏口のある部屋に行くんだよ!」



 怒鳴ると魔王はケラケラと笑い出した、どうやらからかっていたようだ。



 この状況で笑っていられるのは、流石は魔王だからだろうか。



 少し考えてみて、俺は首を横に振るう。



 いや、魔王じゃなくてもこいつは生まれた時からそうだったに違いない。今だって、ただのワガママな普通の女の子なんだからな。



「ったく、馬鹿な事いってないで、さっさとこの場から離れるぞ、さっさとこっちに来い」



 俺はため息混じりに半笑いで魔王を見る。楽しそうに口を押さえてクスクスと笑い、両手をパタパタと振っている。そして小走りで俺の元に駆け寄ろうとしたその時だった。


「ふふ、冗談だって~。怒りっぽいんだか…ら……ッ!?」

「ん、どうした魔王」


 

 魔王は笑顔から一転して突然険しい表情になった。



「優くん!!」



 そういって、俺の名前を叫ぶと同時に、これまでの魔王とは似ても似つかない俊敏な動きであっという間に近づくと、呆気に取られている俺を思い切り突き飛ばす。



「ちょ!? うぉおお!?」



 魔王は様々な手(無自覚)で俺にはた迷惑な行為を行うが、しかし魔王自らにちょっかいを出したことはない。その分、魔王に気を許し油断していた。突然の押し倒される衝撃にバランスを崩した俺は床に倒れ込む。



「っつ! いきなりなんだよ!?」



 無様にも床に顔を打ちつけ、俺は涙目になりながら顔を持ち上げる。



 …あ?



 しかし魔王に対して向けたはずの目線は、丁度胸の真ん中辺りにある一本の矢へと向けられた。



 きっと理解が遅れたんだと思う。ほんの数秒の時間が、まるで時が止まったかのようだった。



「……魔王?」



 その矢は魔王の胸に深く突き刺さっている。



 それは分かったけど、どうして弓なんかが魔王に突き刺さっている? さっきまで、そう、さっきまでは何事も無かった。俺を突き飛ばす、その瞬間までは。



 グラリと魔王の体が揺れ、静かに重力に身を委ねるままに床に倒れる。止まったかのように静止した世界で最初に耳に届いたのは魔王が床に倒れる音だった。



「魔王?!」



 ッハっとした俺は即座に魔王の元に駆け寄って抱きかかえる。

 


「おい魔王! しっかりしろ、聞こえるか!? 返事をしてくれ!! 魔王!!」



 力の限り大きな声で魔王を呼ぶも、魔王は抱きかかえる俺に身を任せたまま力無く横たわる。



「優く…ん…」



 それだけを言い残して瞼を閉じると、魔王はそのまま動かなくなった。



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