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勇者の彼女は魔王様  作者: 勇者くん
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そこに映し出される者は

 


 青空が広がる。静かで、いつもと変わらない普段の光景。



 しかし、そんな青空に、突然一瞬の眩い光が煌いた。そう認識した頃、光が急激に膨れ上がり、巨大な規模の爆発、そして地鳴りを響かす轟音が町全体に鳴り響き渡った。



 青空は一瞬にして夕焼け色に染まり、荒れ狂う暴風が周囲を薙ぎ払う。



 そして、初めの爆発を境目に、次第に威力は衰えていく。嘘のように爆発が止み、最後に残ったものは、ただただ青空が。





 そこには、塵一つさえ残ってはいなかった。








 ---








「………どういう…事よ…」



 目にした光景を否定するように、声を発した人物は口を震わす。



「何で…だって…これは、私は…」



 現状の理解が出来ず、首を横に振るう。



 そんなわけが無い。確実な、安全な方法を自ら探して、そして彼らに頼んだはずなのに。



 誘導されたように、考えが、理想とは真逆な結果が生まれていく。



「……違う…、私が…誘導したんだ…」



 自ら考案したから、大丈夫だと、間違いは無いと、勝手に結論付けていた。



 本当に、それが正しい答えかも判断せずに。



 それを知っていた。見抜いていた。



 だから、彼女は疑っていた。気に入らなかったんだ。



「ごめん…なさい……」



 そういって、ただ謝る。



 立って歩くこともままならず、荒い息を立て、壁にもたれながら。



 意識が霞み、ゆっくりと身体は床へと力なく倒れこむ。



 片方だけに銀髪が偏る、一部覗かせたうなじ部分に、青白く光る陣が鏡に映りこんでいた。









---








「…ふ…ふふ…」



 思わず漏れた、笑い声。



「ふふふふ、うふふふふふっ…あーっははははははは!!!」



 微笑を浮かべ、しかし堪え切れずに口を大きく引き裂いた。



「っく…くく……ちょっとは手ごたえのありそうな奴らかと思っていたんだけどねぇ…全然大したこと無かったわぁ」



 そういって、目の前に映し出される映像を見つめ、女は愉快そうに、ただちょっとばかり残念そうに声音を落とす。



 映し出される映像には、魔王が止まったまま、次第に住人に囲まれていく姿。



 そして、優と女の二人が爆発に飲まれ、塵一つ残らず消え去った映像の二つだった。



「はぁ~…ま、それでもある程度の暇潰しにはなったことだし、柚依を泳がせといて正解だったねぇ」



 そういって、女は一息溜息をつくと、座椅子にもたれ掛かる。



「次はどうしようかねぇ?」



 何をしようか、少し考えるように首を捻る。



 と、何かを思い出したのか



「あ、そういえば新しい子を手に入れたんだったわ」



 そう言い出すと、指を軽く弾く。



 すると暗闇の中から二人の女が無言で現れ、二人の間に抱えられたまま連れてこられた、一人の少女が女の前に置かれる。



「…っぅ…」



 その少女は意識を失っていた。



「…ぁ…ぅぅ…!」



 苦悶の表情を浮かべ、額には脂汗が、悪い夢でも見ているのかうなされている様子だ。



「……ふふ…どんな悪夢を見ているのかな?」



 そういって、また暇を潰すのには丁度良さそうだと、新しい玩具を見つけたかのように、女は微笑を浮かべる。



 刃向かう者など、もはや存在しない。



 興味本位で町を手中に収めたからというものの、そんな機会は滅多に起きなくなっていた。



「目が覚めたら、二人の末路を教えて上げる。そしたら、この子はどんな反応をするかしらぁ」



 それがつまらなくなって、女は噂を耳にしていた、今度は禁呪というものに手を出した。



 実に愉快なものだった。気に食わない相手を利用して、何でも言う事を聞く便利な道具を作り出せるのだから。



「できればとってもいい声で鳴いてよねぇ。これから貴方は、いつ何時にでも私を喜ばす…最高の玩具になるのだから」



 面白ければ、暇を潰せれば何だっていい。加えて、相手の絶望しきった顔を見るのが、今の女の、最高の快楽。



 その快楽を生み出すことが、女にとっての、唯一の楽しみ。



「ふふ、そろそろ目を覚ましてもらおうかしらね」



 だからこそ、女は新たなる快楽を味わおうと、少女に手を掛ける。




 __その最中。




『…・…・…ね』




「……ん?」



 違和感を覚えた。



 小さいが、耳元に届いた。室内からではない、別の場所から。



 それは外から。映し出される映像の中から声が聞こえた気がした。



「…変ねぇ?今声のようなものが聞こえたような気がしたのだけれども…」



 疑問を覚え、女は少女から顔を背けると、映像へと顔を向ける。



 だが、映し出される映像には、魔王は止まったまま、住人が直前まで迫っている他、先ほどからこれといった変化は見られない。



 と、不思議に思いつつ映像を見つめていると、結局変化は現れないまま、とうとう一人の住人が魔王に向けて手を伸ばす。



「…どうやら…気のせいだったようね」



 何だと、つまらなさそうに肩を落とすと、女は映像から顔を背け



「……どういうことかしら」



 再び背後から音がして振り返ると、そこに映し出されていた光景には、魔王を覗く他全員が倒れ伏せ、一人として立っている者は存在しなかった。



「…今の間に、一体何が起きたのかしら」



 魔王は止まったまま動いた様子は無い。だというのに、手もだしていないのに住人の全てが気絶している。



 その原因が掴めず、女は映像を凝視していると



「…今…動いた…?」



 微かにだが、魔王の口が少し動いたのを捕らえた。



「…ふぅん?これは驚きね。私の魔法を中身で受けて、まだ動けたなんて」



 女は驚いた表情のまま、興味がそそられたのか、少女から一転、魔王へと意識が持っていかれる。



 そして、何を喋っているのかが気になり、魔王の口の動きを凝視する。



「何を喋って…?」



 それでも完全に解読ができず、女は理解ができずに首を捻る。



 その直後だった。





『全く…舐められたものね』





 魔王の口が、ハッキリと動き、確かに今、聞き間違えなく声が女の耳元にまで届いた。



「……ッな…何!?」



 それだけには至らず。異変が起きたのは、魔王が声を発してから。



 急に映像が乱れ、耳障りな雑音を鳴らす。



『………』



 魔王は、それ以上一言も声を発することはしなかった。初めに映し出された光景と同じく、身動きがとれず、止まった状態のままで。



 見つめるその先は、初めと変わらない。だというのに、まるで見られているような錯覚を覚え、薄気味悪さに女は身の毛をよだたせる。



「何よ…コイツ…ッ!!気持ち悪いわねぇ…!」



 そういって、女は不快に思ったのか、発動させていた映像を遮断しようとして



「……ッヘ?」



 しかし、思わず呆気に取られ、動かした指が止まると同時に気の抜けた声を漏らす。



「…え?あ、あれ?」



 映像の乱れは無くなり、正常に動いている。しかし、一つ足らない。



 さっきまで立っていたはずの人物が、魔王が其処には映っていない。



 それに、女はそんなはずは無いと、何度も瞬きを繰り返す。一瞬だって、映像から目を離してはいなかったはずだったのだから。



 なのに、魔王が消えるその姿を、女の瞳は捕られる事が出来なかった。



「……ふ、ふふ…」



 その事実に、女は不適にも笑みを零す。



「うふ、うふふ、うふふふふふははは!!」



 この自分に、まだ刃向かえる者が存在していたことに。



 まだこの自分に、対等に戦えそうな相手が存在していたことに狂喜する。



「~~っいいわ!いいわぁああ!!」



 気分が高揚し、高ぶる気持ちを抑えきれない。



 だからこそ、女は自ら魔王の元へ赴こうと後ろを振り返ると





「こんばんわ、黒幕さん」

「………ッ!?」





 忽然と姿を現した魔王に息を呑み、硬直する。



 そして、そんな女の反応とはお構いなしに、魔王は一言言い放つと、





「そして、さようなら」





 部屋にある空間全てを埋め尽くす、おびただしい数の魔法陣を展開させた。



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